21.悪役令嬢とお披露目会
レオンを迎え翌日の夜、レオンのお披露目会が始まりそうになっていた。屋敷は慌ただしく、舞踏会まであと十五分前。そこで、本日午後初めてレオンと会う。というのも、お父様やレオンもだが、いまの今まで化粧や装飾、ドレスと支度に忙しく、朝食でしか会うことが出来なかったのだ。
私は出来栄えを確認するため、鏡の前に立つ。そして、私は分かりきったことだが美しかった。ナルシスト発言だが事実だ。
ファンブックで、モブすらも美形の学園で五本の指に入ると説明されていたが、当然だと思う。これくらいの美貌を持つ人がまだいることすら恐ろしい。私は、特に笑んだ時が一番可愛らしく、美しかった。
まだ七歳なのに美しいのは、精神は高校生だからだろう。
「ソフィア様、もうお時間ですよ」
控えめなノックの後、ローラが部屋に入ってきた。
私はドレスの裾をふわりと広げ、最後に鏡の中の自分に微笑みかける。淡い紫色のドレスは、夜会の照明に映えるようにと特別に仕立てられたものだ。
緊張しながら部屋を出て廊下を歩いていくと、招待客が集まっている大きなホールの入り口でお父様が待っていた。その隣にはレオン、背後にはギルが控えていた。
「ソフィア。待ってたよ」
緊張がまったく感じられないお父様の隣に、私は並ぶ。レオンは優しく微笑み、私の手をそっと握った。
「お姉様とっても綺麗。美と愛の女神アフロディーテにも引けを取らないね。昨日も素敵だったけど、今日のお姉様はもっと素敵だよ」
褒め過ぎではないかと思う言葉に、頬が少し赤くなる。アフロディーテにも引けを取らないなんて、まだ七歳の少女に言っていい言葉ではないと思うのだが。
「レオンも昨日とは全然雰囲気が違うわ。本当に格好良い」
レオンの、微笑んだだけでも卒倒する人がいるかもしれないと思う程整った顔立ちに、彼によく似合っている胸元にある精密に整えられたダイヤモンドが目立った綺羅びやかな黒色の服は、心臓に悪い。
何よりも印象深いのは、レオンの可愛らしい雰囲気が、一転して爽やかな雰囲気となっていることだ。もちろん可愛らしさもあるが、爽やか・格好いいが勝つ。
「……あら?髪を編み込んだのね」
薄紫色がかったピンク色の髪が綺麗に編まこまれているのを見つける。
「うん。やってくれたんだ」
「おしゃれね」
編み込みによって、レオンの格好良さが際立っている。
青年になった時にもう一度やってくれると良いな。絶対似合ってる。
「ところでギル、……どうかしら?」
突然私に感想を求められたギルは、驚きで目を見開く。そして戸惑いながらも口を開く。
「金髪と淡い紫色のドレスが合っていて、美しい……です」
照れながら言うのは、友達に美しいと言うからかもしれない。男の子だもの、そうよね。
「ふふ、ありがと」
突然の無茶振りに、嘘はつかず正直に褒めてくれた。そのことを嬉しく思わない筈が無い。まず、褒められる事自体嬉しい。
話が終わったことを確認したお父様は、私とレオンにホールに入るよう促す。重厚な扉が開かれると、シャンデリアの光に満ちた華やかな夜会のホールが目の前に広がった。招待客達が談笑し、ホールの中央では優雅なワルツが奏でられている。
「さあ、ソフィア。皆にレオンを紹介しよう」
お父様の声が響き、私はレオンと共に一歩を踏み出した。
私達の姿に、会場の視線が向けられる。
私はレオンの隣を堂々と歩く。前世の習い事で発表会を何回もしたので、視線が自分に集まるのは慣れている。習い事やっていて良かった。経験は宝よね。
二人が会場の中央に進むと、父が声を張り上げた。
「皆様!本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。皆様にご紹介したい者がおります。我が息子となりました、レオンです!」
お父様の声がホールに響き渡ると、ざわめきが静まり、皆の視線が一斉にレオンに注がれる。レオンはその視線に臆することなく、堂々とした立ち姿で微笑んだ。
その笑みに、貴婦人からため息がこぼれる。美貌の少年が義弟なる私への羨望も、視線から感じられた。レオンの美貌に魅力されているのだろう。まだレオンは七歳なのに、貴婦人たちを魅了できるなんて、凄いわね。
「レオンは既に知性と品格を持ち合わせております。彼が私の跡を継いだ暁には、皆に称えられるような立派な公爵となるでしょう。皆様、どうか我が息子レオンを暖かく見守っていてください!」
お父様の言葉に、会場からは温かい拍手が起こる。
私は、大勢の人に見られる緊張よりも、家では見たことのない、堂々としていて威厳のある父の姿に驚いていた。顔には出していないが、影武者がやっているのかとすら思った。
◇ ◇ ◇
お父様の宣言的なことが終わり、お父様とお母様のダンスが始まった。
お母様がダンスをするのは、前世の記憶を思い出してから初めてだ。急にダンスとは大丈夫なのかと心配したが、普通に踊れていて安心する。お母さまの体調を慮ってかゆっくりめのテンポだけれど、お母さまはもっと速くても大丈夫そうだ。
二人はお似合いのカップルだと思う。眉目秀麗・容姿端麗で、心優しい。自分の両親が推しカプになるなんて思わなかった。
二人のダンスが終わると、招待客達もワルツをし始める。踊るわけにはいかないので壁の花になり、私好みのデザートを取っていく。
食べすぎは駄目だが、このままだと無駄になってしまう食料が多くなってしまう。食料に困って居る人達が居ることを知っている身としては、複雑な気分だ。どうせそんなに減らないのなら、出す量を元々少なくすれば良いのに。
そう思っていると、この舞踏会に招待されたフランクが前から歩いてやってくる。
昨日友人となったが、それは関係なく、普通に招かれる予定だったらしい。凄い偶然だ。
だが、知り合いが居てくれて良かった。流石に家族だけだと緊張する。これから一生関わないのであれば問題なかったが、社交界で絶対に関わる上、ここに居るのは権力者ばかりなので失態は死ぬ。社会的に死ぬ。
「ソフィア」
彼は私の側まで来て、口角を上げる。
「義弟が出来たんだってな、 どんな奴だ?」
「優しくて、可愛い子よ」
そう言うと、フランクは意外そうな顔を見せる。
「同い年って聞いてたから仲良くやれんのかと思ったけど、その表情とセリフからして、杞憂だったな」
心配してくれていたのかと知り、優しいと彼に思う。
「心配してくれてありがと」
素直に気持ちを伝えると、「友人として当然だろ」と爽やかな笑顔で返された。こういうことを当然と、サラッと言えるのは、フランクの美点だと思う。
「見てて思っただけど、ソフィアの周りって、美形多いよな。家族に加え、使用人たちも」
それは、私に限ったことではないと思う。この世界の人は、乙女ゲームで悪役として描かれていないかぎり美形だ。モブキャラでもイケメン・美女になっているのは、本当に凄い。このおかげで、前世で私が恋人にしたい人の条件の一つが無くなった。
私が恋人にしたい条件は、イケメンであること。私のことを愛し、優しくしてくれること。頭は平均以上で、かっこよさと可愛さが兼ね備わっていること。経済力があり、束縛が強すぎないこと。
この条件を、前世で友人や仲の良い先生に話したとき、そんな奴この世界のどこにも居ないよといわれてしまった。私も理想が高すぎるのは理解しているのだが、なにせ乙女ゲームや小説で美男美女の良好物件ばっかり見てきたので、譲れないのだ。
「この世界の人は大抵顔が良いものね」
「そうなんだが、その中でも顔が良い奴ばっかなんだよな」
乙女ゲームの主要登場人物は、美形に目が慣れて置かなければいけない。他の人に惚れず、心根の美しい主人公に惚心を奪われるために。
悪役令嬢もそうだ。主人公は凄い美少女なので、その美貌にも臆さずいじめることが出来る人ではなければいけないのだ。
周りが美形ばっかなのは嬉しいが、美形ばっかでも、目が肥えちゃって困るんだよな。悩ましいところだ。
「世界はそういうものなのよ」
「いや、意味わからん」
フランクは呆れたように笑って、私が持っているデザート皿に視線を移した。




