19.悪役令嬢は疑問に思う
「失礼します」
ウィリアムがドアを開け、入ってくる。誰への要件だろうか。
ウィリアムの背はピンとまっすぐ伸びており、流石だと思う。他の執事の皆も背中がまっすぐだが、そこまでではない。アレクシスは別だが。
ウィリアムの背は服と背中の間に定規でも入れたのではないかと思うほど綺麗だった。おそらくだが、ウィリアムの趣味が筋トレだということに関係しているのだろう。命令みたいになってしまうかもしれないので迂闊に言えないが、機会があったら鍛え上げた筋肉を見せてほしい。マッチョは嫌だが、細マッチョは好きなのである。
「ギルを借りたんですけど、良いですか?」
その言葉に、納得する。半割くらいギルだろうと思っていたが、私やレオンもお父様に呼び出されるということもあるかもしれなかったので、誰要件なのかよく分からなかったのだ。取り敢えず「もちろん良いわよ」と返した。
「もしかして明日のパーティーの準備?」
そう聞くと、「はい、そろそろ始めようと思ってて」と返ってきた。思ってて、ということはウィリアムは指示者側なのだろうか。
そう考えた所で、「あっ」と疑問が生じる。
「もしかして、このパーティーってレオンのお披露目会みたいなものなの?」
「はい。気になってさっきジュリアン様に聞いてみたんですけど、そうだって言ってました」
やはりそうらしい。
レオンと会うまでは人脈作りのためのパーティーかと思っていたが、レオンと会った時にもしかして……と想像したことが合っていた。このパーティーは一ヶ月前には決まっていたことだったので、レオンが義弟になることは一ヶ月以上前から決まっていたのだろう。あの穏やかな父が一ヶ月以上秘密を家族に守り通せるとは驚きだ。私の父は、社交界では凄腕とかなんとか言われているらしいが家族には激甘でチョロい。だから、今お父様を見直した。
しかし、昨日お茶会に行ったばかりなのに明日舞踏会があるとは。しかも、私の愛しの義弟のお披露目会。
それならば、レオンとペアルックにしたかった。姉弟でペアルックって憧れていたのに。
義弟ができるなんて知らなかった私が選んだドレスも、最高級の職人に素材を使った最高級の良いもの
であるのだが、そう思ってしまう。日本円にしたら、一億は優にすぎるだろう。筆頭公爵家って、やっぱりすごいと思う。国家予算を超えるかもしれないくらいのお金はある。悪役令嬢に転生してよかった。
そういえば、レオンの服はもう用意されているのだろうか。お父様のことだから、もう用意されているとは思うけど、不安になってしまう。
「レオンも、もう服を決めたのよね?」
「うん。三ヶ月前くらいかな」
良かった。それならば、もう服は完成しているだろう。どのような服だろうか。可愛い系?かっこいい系?どんな服だとしても、レオンは着こなすのだろうな。
「お姉様は、どんなドレス?」
「私?私は、最高級のものばっかり使った贅沢すぎるドレスね。公爵家だからこそ買えたドレスね」
「僕もそうだったな。金額を聞いた時は、一瞬聞き間違えかと思ったよ」
その言葉に、私は頷く。
「分かるわ。桁数が異常よね」
屋敷が余裕で買えるくらいの金額だ。
「ソフィア様、もうレオン様と仲良くなってるんですね」
レオンと話していると、感心したように、ウィリアムは言う。
「そうかしら?だけど、そう見えたのなら良かったわ」
「いや、本当ですよ」
「ふふ、ありがとう」
ウィリアムが言うことには嘘が無い。時にはそのことが悪く働いてしまうが、良いものだと私は思う。
「あ、そろそろ行かないと」
思い出したようにウィリアムは声を上げる。
「では、失礼します」
そう言って、ニカッと笑顔を見せる。
その笑みは、昨日、というか見るたび思うが、真夏の太陽の下で輝く向日葵のようなものだった。心がじんわりと温められるような、屈託のない明るさ。その笑顔は見る者の心まで明るく照らしてくれ、太陽のような力強さがある。今まで見てきた笑顔の中でもTOP5に入る、素敵で惚れ惚れとする笑顔だ。いつも明るく、頼りになる彼にとても良く似合っている。
「ウィリアムの笑顔はやっぱり素敵ね」
ポツリと呟くと、三人は首をビュンッと勢いよく私に向け、驚いたような顔で私を見る。
何でこっちを向いたのか分からず、皆どうしたのだろうと不思議に思っていると、ウィリアムと目が合っった。反射的に笑みを返すと、ウィリアムの顔が徐々に赤く染まっていく。
本当にどうしたのだろうか。
「どうしたの?」
「〜!いえ、何でもないです」
何でも無いと言うが、そんなことは無い筈だ。顔が真っ赤だ。
小説だと、無自覚な主人公が主人公を慕う人に何か言ってその人が赤くなるというのがある。しかし、ウィリアムはソフィアに虐げられてきた人なので私を慕うということはないだろう。つまり、何故赤くなったのか全くわからないということだ。虐げて自分から笑顔を奪ってきたにも関わらず自分の笑顔を褒めるなんてという軽蔑の怒りという訳ではないだろう。何人かそういう人いるかも知れないが、ウィリアムは無い。
もしもそうだとしたらシンプルに傷つく。
「ギル行くぞ!」
「え、ちょ、ゲランさん腕!緩めてください!腕が死にます!」
ウィリアムは側に控え立っていたギルの腕を掴み、ドアから出ていく。最後急に慌ただしくなったなと思いながら、私はずっと立ったままのレオンに椅子に座るよう言った。




