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15.悪役令嬢は案内する

「……分かった。ソフィアは、俺にとって恩人で大切な人だ」

「だってよ。ソフィア、どうだ?」

「どうだって何よ」

 いや、嬉しいわよ。嬉しいが、フランクが言っていることはきっとそうではない。

「何だ。あったら面白かったのによー」

 フランクは本当に面白いことが好きだ。しかし、他人を巻き込まないでほしい。


 

「てか、恩人ってどんなことしたんだよ」

 ギルに、脅して暗殺を強いた暗殺者集団を殲滅させて瀕死の弟を病院に入れた。事実はこうなるが、正直に言うわけにもいかないので、一部分を言う。

「病気の弟を病院に入れただけよ」

「へー。……まあ、今はそういうことにしとくか」

 気づいてるな。

 私はそう思う。

 これで気づいてなかったらおかしい。


 

「あ、ソフィア、この花綺麗だぞ」

「え?あら、本当ね。なんて名前かしら」

 私はギルに言われ、ギルが指す花に近づく。

 なんて名前だったかしら?

 咲き誇る真っ白の花は、まるで純粋なウェディングドレスのようで、花びらは幾重にも重なり合い、その完璧なまでに整った形に私は目を奪われる。清らかな白は、周囲の緑に鮮やかに映え、その存在感を際立たせている。庭師がやった水をまとった花びらは、光を反射してきらめき、花の美しさを一層引き立てている。風にそよぐ姿は、優雅な舞踏を踊っているかのよう。その控えめながらも堂々とした佇まいは、どんな場所にも気品をもたらす気がする。

「ダリアか。花言葉は感謝、豊かな愛情」

「ダリア……。そう、確かにそんな名前だったわね。ホント、美しいわね……」

 私はダリアから目を話すことが出来ずに居た。

「ソフィアに少し似てるな」

「え?」

 そう呟いたギルに目を向け、もう一度ダリアに戻す。そこには、純白の美しいダリアがあった。

 似てる?

「そうかしら……?」

「ああ。理由は上手く言い表せないけど、似てる」

「私はよく分からないけど……でも、ありがとう」

 この美しく、汚れなど一切ない花に似ていると言われたことが嬉しくて、そう返す。ギルは頬を赤く染め、立ち上がる。

 私も立ち上がり、歩き出す。



 私達が向かったのは図書館だった。

 「どう?」

 この図書館にはざっと四千万の本がある。

 結構な数だと思う。記憶を取り戻した日から数日後に、沢山買ってもらったのだ。そのうち三百冊はロマンス小説である。正直ライトノベルが良かったが、この世界には無かった。

「この家、いちいち大きいな」

「だって筆頭公爵家だもの」

「それはそうだけどよ」

 フランクは図書館を、腕を組んで見渡す。

 この図書館は三階まであって、部屋殆どが本棚で埋め尽くされている。ちなみに私は、よくここで魔法の訓練をしていた。魔導書があるからだ。私はもう、魔導書に乗っている魔法は殆どクリアしちゃったので、魔導書を使う機会はこれからほぼ無いと思う。

「すげーな。ここなら色んなのありそうだ」

「私の趣味も入ってるしね」

「ふーん。どれだろ」

「さあ、行きましょうか」

 私は、探し出そうとするフランクを引っ張り歩く。

 ロマンス小説、私は好きだけど、この堅苦しい貴族社会では大きな声で言うことが出来ない。つまり、次期宰相にバレるなんてこと絶対あってはならないのだ!



 次に私はメイドや侍女達が居る宿舎に行く。

 使用人は大事だから紹介したい。フランクだったら理解は一応してくれるだろう。

 侍女や執事は別館に住んでいて、女性と男性でそれぞれ分かれている。別に分けなくても大丈夫じゃないかと思うが、恋愛など問題を起こさないために分けられているそうだ。

 私達は別館に入る。

 まだ昼なので、予想通り人を全然見つけることが出来ない。

 多すぎると厄介だけど、居なくても困るのよね。どうしよう。

「あれ?お嬢様?」

 私は呼びかけられ、振り向く。

 そこには綺麗な薄紫色の瞳を持ち、艶のある短い黒髪をもった美少女が居た。

「ローラ……!」

 彼女は私の専属侍女だ。世話をだいたい任している。

「どうしたんですか、こんな所に」

「今日のお茶会で出来た友達に家を案内していて、ここも案内したいなって思って」

「そうなんですか」

 彼女は微笑む。

 可愛いなぁ。

「でも、ここには私以外いませんからもう一つのほうに行ってみるのはどうでしょう?」

「あら、そうなの?ありがとう、そうすることにするわ」

「いえ」


 

 私達は次に、執事たちが住むもう一つの別館に向かって歩く。

「さっきの、ソフィアの専属侍女か?」

「ええ、そうよ。可愛いでしょ」

「……まあ、そうかもなー」

 ローラの可愛さが分からないのか。まあ、確かに次期宰相だし、美少女群がりそうよね。なら、しょうがないのか。

 そんなことを考えながら歩いていると、別館に着く。

 この屋敷は使用人の中で男性が一番多いから、女性用の別館と比べて大きかった。私達は、ドアの前に立つ。

 相変わらず、迫力がある。始めて来た時に少しビビったのを思い出すな。

 私は息を整えて、扉をコンコンと叩く。そして、「失礼します」と中に入る。

「あ」

「?どうしたの?」

「いや、俺の仕事だったから」

「あ、ごめん」

 前世では執事なんて身の回りに居なかったから、しょうがないのよね。

 中には、女性達が住む別館の三十倍以上の人が居た。

 あっちが一人だったから、倍を使うと凄い人数に聞こえるわね。でも、何でこんなに人が多いのかしら?仕事があるはずなのだけど。

「え、ソフィア様!?」

「?」

 声がした先には、ウィリアムが居た。

「やっほー」

 軽い気持ちで手を振ると、「俺、夢見てんのかな」とウィリアムは呟く。

「いや、夢じゃないわよ!?」

 私が手を振るの、そんなにおかしい!?

 「ハハ。冗談ですよ」

 ウィリアムは笑って言う。

「それで、誰かに用事ですか?」

「いえ、今日出来た友達に紹介したいなって思って」

「後ろの人ですか?」

「うん」

 ウィリアムは、後ろにいるフランクを覗き込み、目を見開く。

「え、次期宰相のフランク・ロペス様じゃないですか!?」

「うん。そうだよ」

「そんな高貴族に何でここを紹介しようと思ったんですか?」

 あら?貴族のマナーで、使用人を紹介しちゃ駄目ってことあったかしら?

「皆も私の大切な人たちだから、紹介したいなって思ったんだけど。駄目だった?」



 …………………あれ?

 返事がない。というか、何で他の皆も私を見て固まって黙りこくってるの?なんで?

「私、変なこと言ったかな?」

 私はおそるおそるそう聞く。すると、皆はハッとしたような表情をする。

「いや……そんなことないです。ありがとうございます」

 最初は少し戸惑い気味だったが、徐々にいつも道理の口調になって、最後には笑顔を見せてくれた。

 ウィリアムの笑顔、良いな。向日葵みたいね。



「ウィリアム、明日のことなんだが……」

 誰かがドアから出てきて、ウィリアムに近づいてくる。しかし、私と目線が合うと姿勢を正す。

「失礼いたしました。ソフィア様。ロペス宰相子息もいらっしゃいますが、どのようなご要件でしょう」

 真面目。というか、フランクのこと知ってるのね。

「いや、要件とかそういうのじゃなくて。フランクにこの屋敷のことを紹介することになったから、ここもしたいと思って」

「そうなのですね。失礼ですが、何故ここを?」

「私にとっては皆も家族みたいなものだからなんだけど。いきなり来るの、迷惑だったかしら?」

 不安になって、私はそう聞き返す。

「いえ、そのようなことは。ところで、明日の打ち合わせがあるためウィリアムをお借りしてもよろしいでしょうか」

「ええ。時間を取らせて悪かったわね」

「ありがとうございます」

 彼はそう言いながら礼をして、ウィリアムと話し出す。

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