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12.正論令息は公爵令嬢を面白い女と呼ぶ

「お初にお目にかかります。サブジーナス公爵家のソフィアと申します」

「ごお丁寧にありがとうございます。宰相家嫡男、フランク・ロペスと申します」

 俺はそう返す。

 

「……」


 沈黙が流れる。彼女は気まずそうにし、話し出す。

「ここの蝶は綺麗ですよね。目を奪われましたわ」

「僕もそう思います。ちなみに、この蝶の種類名はオオムラサキというそうです」

 そう言った所で俺はハッとする。

 またやっちまった。でも、治すことは出来ないんだよな。彼女もきっと、俺を嫌悪するか引くかするだろう。

 そう思っていたが、彼女は会話を進める。

「オオムラサキですか。なら、美しいことにも納得です。ありがとうございます。詳しいのですね」

「はい……図鑑で見まして……」

 俺はそう返したが、驚きで心が満ちていた。

 彼女は何故平然としてるんだ?両親までもが俺を嫌悪したのに。

「そうなのですね。一回で覚えられたのですか?凄いですね。ではお聞きしたいことがあるのですが、魔法ってどういう原理でなっているのでしょう。先生にも同じようなことを尋ねたのですが、よく分からなくて」

「魔法は、大きく二種類の原理で発動されます。一つは、水や風などの自然の力を利用したもので、もう一つは想像し強い意志で発動されます」

「そうなのですね。とても分かりやすかったです。ありがとうございます!教え方、お上手ですね」

「ありがとうございます……」

 褒められ、もうよく分からなくなり取り敢えず感謝を述べる。彼女は、俺の顔を見て、何故か心配そうな顔になったが、丁度後ろで咳払いが聞こえ彼女は美しいカーテシーを見せて去って行った。

 変な奴。

 そう思った。


 

 その後、何人かの令嬢令息に挨拶をされたが、俺はいつもの癖で知識を披露してしまい引かれたり嫌な目で見られたりした。

 やっぱ、あいつが異常だったんだよなー。全然気にしないし、逆に褒めるなんてな。もうあの時のことが夢かとすら思えてきたぞ。

 近くのテーブルに置いてあったジュースを取って、飲むと数人の令息が俺に声をかけてきた。

「フランク様。少しよろしいでしょうか」

 彼らは笑顔で言うが、表情の後ろにある感情が分かる。

 でも、どうすんだよ。お前ら俺より全員爵位下だよな。

 そう思いながら、彼らにつれられるまま歩く。



 周りの景色が変わり、花や木に囲まれていく。

 庭園だな。

 風が吹くたび花の甘い香りが辺りを包む。花は薔薇や白百合、チューリップなど沢山の種類があった。

 そういや、このお茶会主催のハワード侯爵と侯爵夫人、自然が好きだったな。家紋も確か花だった。

 庭園の美しさに納得していると、彼らは俺を噴水の前で囲む。

「お前、気持ち悪いんだよ。いつも正論ばっか言って知識を開かしやがって。俺達を下に見てるんだろ」

「……そうじゃねえし、やめたほうが良いぞ。お前らのためにも。俺にこんなことしてるってバレたらどうなるか分かるよな?」

 俺が父や母に報告したらどうなるか分かってんのかな、こいつら。まあ両親は今はそんなこと興味なさそうだけど。お前らのせいで家族もろとも貴族位剥奪されて平民に落とされたらどうすんだよ。責任取れんのか?お前ら死ぬぞ。

「っ!お前、一回懲らしめられたいか?」

「だから、やめたほうが良いって。俺より爵位が上なら分かるけどお前ら下だろ」

「うるせえ!」

 誰かが俺を押す。

 うわ、こいつらやりやがった。

 目をつぶって水に濡れるのを覚悟していると、背中に力が入り、前に倒れる。

「!?」

 何が起こったんだ?

 

 ザッブーン!


 そう大きな音を立てて誰かが噴水に体を浸からせる。俺はゆっくり立ち上がり、噴水に振り向く。

「え……?」

 俺の代わりに噴水に浸かったのは、ソフィア・サブジーナス、筆頭公爵家の一人娘だった。

 あの時のことは夢じゃなかったのか。でも、何で俺を……。

「ソ、ソフィア様!?」

「何で噴水に……」

「こいつのことをどうして庇ったのですか??」

 彼らはそう戸惑う。

 彼女は噴水に手をつき、立ち上がる。髪を払い、「ヴェンティレーション」と彼女が唱えると、暖かい風が吹いて彼女のドレスや髪などを乾かす。

 嘘だろ。この年でもう魔法を使えるなんて。

「ねえ貴方達」

 彼女が低い声で言う。さっきの姿とは大違いだな。

 彼らは肩をビクリと上げる。

 筆頭公爵家を敵に回すくらいの覚悟はしないといけないよな、この状況。



「貴族がこんなことしていいと思ってるの?」

「でも、こいつが正論ばっか言って、知識をひれかして、俺達を下に見てるから……」

  そう彼らは言い訳をする。

 こういう状況で、言い訳しても良いことねぇのに。ま、しょうがないか。

「そうだとしても、そんかことしては駄目だって分かるでしょ?やっていいことと、悪い事の区別は貴方達は出来るはずよ。貴族は、自分より下のものを守るためにあるのだと私は思っているわ。まだ七歳だから許される?そんなはずないじゃない。貴族は平民と比べて明らかに強い力を持っているの。その力を弱いものを虐げるために今のままだとなると思うわ。でも、その力はそのために使っていいものではない。もう習ってるでしょ?貴族の義務。どう?これでも続けようと思う?」

「……」

 彼らは押し黙る。

 おお、論破した。でも、こういうのって当たり前なんだよな。やってる人、普通に居るしな。彼女が変なんだよな。

 彼女は彼らの姿を見て、静かに溜息をつき空を見上げる。表情が申し訳ないと語っているので、厳しい言い方になってしまったとでも思っているんだろう。


 

「ごめんなさい前に押してしまって」

 彼女は気を取り直して俺に言う。

「いや、大丈夫。だけど、何で俺を助けたんだよ」

 俺は聞く。

 あ、口調取り繕うの忘れたな。まあ、いっか。彼女は気にしなさそうだし。ホント、何でかな。別に助けたって良いことねぇのに。

「私がやりたかったから。それにこの子達の行動も見過ごせなくて」

「俺のこと……嫌いじゃなねえの?変だと思わないのかよ?」

「全然」

 彼女は間も開けず答える。

 マジか。面白いな。

「へー。ま、改めて助けてくれてありがとな」

 偽善ってわけでもなさそうなんだよな。偽善のやつは、良いことをすると自分偉い、優しいってふんぞり返ったり得意げな顔になったりするし。

「なあ、俺お前と友達になりたい。……駄目か?」

「ううん。そんなことない!友達になりましょうフランク!」

 間髪入れず答えるってこと、彼女らしいな。

 出会って数十分なのに、そう思ってしまう。



「……ありがとな」

 俺を嫌悪しないで、引かないでくれて。普通に扱ってくれてよ。

「何で?」

 彼女はそう聞くが、俺は「秘密」と言って誤魔化し、歩き出す。

 別に、分からないなら分からなくて良い。

「ええーちょっと、フランク!」

 彼女は、ソフィアは走って俺に追いつき、文句を言い出す。それを、適当に受け流しをしながら俺は考える。

 ソフィア……変なやつで、面白いやつで、俺を嫌悪したり引いたりしない女。

 やっぱり面白。



 これから楽しくなりそうだな。

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