10.悪役令嬢はお茶会で正論令息と出会う
正論令息編は短めです。これ合わせて3話。
ギルが公爵家に来てから数日。
ギルは執事として型につき始めていた。他の執事たちとも仲良くなり、よく話しているのを見かけた。
朝、パンを小さくちぎって口の中に放り込んでいると、お父様が言った。
「ソフィア、今度ハワード侯爵家でお茶会が開かれるんだがこれを機にお茶会デビューしてみないかい?」
お茶会。
この世界では七・八歳からお茶会デビューをする。そして十五歳の社交界デビューに備える。これが一般的だ。もちろん貴族だけである。
同年代の貴族の子息、令嬢で集まり交流を図るのが目的だ。
「もちろんですわ。お父様」
私はそうにこやかに言った。
お茶会当日、私はお父様がくれたドレスを着て会場のハワード侯爵家にやってきた。
「皆様、本日は我が家のお茶会に参加していただきありがとうございます。王都ではやりの食べ物などもご用意しましたので、ぜひお召し上がりください」
そう言いお茶会を開始したのは、ハワード侯爵だ。穏やかで優しい印象を持つ。
まず私は、私の次に位の高い人の元に向かう。
確か名前は――
「お初にお目にかかります。サブジーナス公爵家のソフィアと申します」
「ごお丁寧にありがとうございます。フランク・ロペスと申します」
フランク・ロペス。乙女ゲーム「アマリリスの聖女」の攻略対象だ。宰相の嫡子でもある。時期宰相だ。
「……」
無言が嫌で、周りに飛んでいる蝶について話す。
「ここの蝶は綺麗ですよね。目を奪われましたわ」
「僕もそう思います。ちなみに、この蝶の種類名はオオムラサキというそうです」
そう彼は言うと、ハッとなにかに気づく。なんだろうと思ったが、私は気にせず会話を進める。
「オオムラサキですか。なら、美しいことにも納得です。ありがとうございます。詳しいのですね」
「はい……図鑑で見まして……」
彼は驚きながら言う。変なことを言ったかと疑問に思う。
「そうなのですね。一回で覚えられたのですか?凄いですね。ではお聞きしたいことがあるのですが、魔法ってどういう原理でなっているのでしょう。先生にも同じようなことを尋ねたのですが、よく分からなくて」
「魔法は、大きく二種類の原理で発動されます。一つは、水や風などの自然の力を利用したもので、もう一つは想像し強い意志で発動されます」
「そうなのですね。とても分かりやすかったです。ありがとうございます!教え方、お上手ですね」
「ありがとうございます……」
彼はそう心此処にあらずで言うので、大丈夫かと私は不安になる。すると、後ろで咳払いが聞こえ、私は長く話しすぎてしまったと反省する。
「すいません少々長くなってしまって。そろそろ御暇しますね。楽しかったですわ」
私は家庭教師による成果の美しいカーテシーを見せ、ここから離れる。
今回のお茶会では、何人かの友人を集める予定だった。
だが、無理だと今思う。
「ソフィア様、そのお召し物とても素敵ですわね。ソフィア様を更に輝かせていますわ」
「ええ。本当にお綺麗ですわ」
「ソフィア様、私は貴女から目を離すことが出来ません。どうか私の恋を救ってください」
「ソフィア様の笑顔は薔薇も負けます。どうか貴女の笑顔を私に見せてください」
無理。
前世で私はこんなこと無かったので、反応に困っている。というか、あったら凄いと思う。こんな凄いお世辞を言われてもと、顔が死にかける。
「皆様、ありがとうございます。出来ることならもっと皆様とお話したいのですが、私少々疲れてしましたの。花に癒されたいので失礼しますわ」
そう言って私は人混みから抜け出し、近くに居た使用人に頼んで庭園に連れて行ってもらう。
ドアを出てから右に曲がり、真っすぐ進んでいると庭園に着く。
私は連れてきてくれた使用人にお礼を言って外に出る。
「綺麗……」
そう私は呟く。
春の光が息をのむほどに鮮やかな色彩をたたえた庭園に降り注ぐ。無数の花々が、まるで宝石をちりばめた絨毯のように、どこまでも広がっていた。風がそよぐたびに、甘く優しい香りが辺りを包み込み、蝶や蜜蜂たちが楽しげに舞い踊る。
色とりどりの花弁は、陽の光を浴びて微かにきらめき、その繊細な造形は、自然の神秘を感じさせる。深紅のバラ、清らかな白百合、鮮やかな黄色のチューリップ、そして奥ゆかしい紫のすみれ。それぞれが、その短い命を謳歌するように、精一杯に咲き誇っている。
サブジーナス公爵家の庭園も美しいが、こことは比べ物にならない。
どうしてこんなに美しいのだろうと疑問に思っていたが、私はハワード侯爵と公爵夫人が自然、お花が好きだということを思い出して納得する。
城の庭にも引けを取らないと思う。
庭園の美しさに息も忘れていると、少し遠くから声が聞こえた。
なんだろうと声が聞こえた方に近づくと、数人の貴族子息がフランクを囲んでいた。察して近くに潜んでいると、誰かがフランクに言う。
「お前、気持ち悪いんだよ。いつも正論ばっか言って知識を開かしやがって。俺達を下に見てるんだろ」
「……そうじゃねえし、やめたほうが良いぞ。お前らのためにも。俺にこんなことしてるってバレたらどうなるか分かるよな?」
何故煽るかな?
そうフランクに言いたい。彼はきっと正論を言っているだけで煽ろうとは思っていないんだろうけど、同世代の子には分からないよ。
頭を抱えたい気分だ。
「っ!お前、一回懲らしめられたいか?」
「だから、やめたほうが良いって。聞いてた?俺よりお前ら爵位下だろ」
「うるせえ!」
一人の男の子が、フランクを押す。フランクの後ろには運悪く、それとも男たちが狙ったのか噴水があった。私はヤバいと思い、ダッと地面を蹴って彼に近づく。そしてフランクの後ろに回って背中を押す。
ザッブーン!
そう大きな音をたてて私は噴水に体を浸からせる。水が飛び上がり、髪や顔も濡れる。ドレスなんてアウトである。水が染み込んでいる。始めて着た一級品のドレスだったのだが。
「え……?」
フランクはそう戸惑う。それはそうだが、今はフランクよりも男の子たちが先だ。
「ソ、ソフィア様!?」
「何で噴水に……」
「こいつのことをどうして庇ったのですか??」
私は噴水に手をつき立ち上がる。
彼らは私を見つめる。
髪を払い、私は「ヴェンティレーション」と唱え、暖かい風で髪やドレス、顔を乾かす。
乾くと、私は男の子たちに向かって話しかける。
「ねえ貴方達」
そう言うと彼らはビクリと肩を上に上げる。
「貴族がこんなことしていいと思ってるの?」
「でも、こいつが正論ばっか言って、知識をひれかして、俺達を下に見てるから……」
そう彼らは言い訳をする。まだ七歳なのだからしょうがないかもしれない。でも、そんな考えは今から直していかなければ。
「そうだとしても、そんかことしては駄目だって分かるでしょ?やっていいことと、悪い事の区別は貴方達は出来るはずよ」
小学校一年生くらいは感情につられやすい。庶民だっらまだ黙っていられた。でも、貴族となると話は変わってくる。
「貴族は、自分より下のものを守るためにあるのだと私は思っているわ。まだ七歳だから許される?そんなはずないじゃない。貴族は平民と比べて明らかに強い力を持っているの。その力を弱いものを虐げるために今のままだとなると思うわ。でも、その力はそのために使っていいものではない。もう習ってるでしょ?貴族の義務。どう?これでも続けようと思う?」
「……」
彼らは押し黙る。でも、分かってくれたと直感的に思う。厳しい言い方になってしまったけど、嫌われてしまうかもしれないけどしょうがない。
私は静かに溜息をついたあと、一回空を見上げる。青く澄んだ綺麗な空だ。
「ごめんなさい前に押してしまって」
そう私はフランクに言う。
「いや、大丈夫。だけど、何で俺を助けたんだよ」
彼は敬語も忘れて私に聞く。
「私がやりたかったから。それにこの子達の行動も見過ごせなくて」
「俺のこと……嫌いじゃなねえの?変だと思わないのかよ?」
「全然」
そう返すと彼は驚いたように目を見開く。
「へー。ま、改めて助けてくれてありがとな」
彼はそう呟き、一回口を閉ざす。
「なあ、俺お前と友達になりたい。……駄目か?」
「ううん。そんなことない!友達になりましょうフランク!」
「……ありがとな」
「何で?」
お礼を言うのは別に無くわないが、フランクが幸せそうに笑んでいたので、そんなにかと私は尋ねる。
「秘密」
そう彼は言って、「そろそろ戻らないとな」と誤魔化す。
「ええーちょっと、フランク!」
私は彼の元に走り、不満を言った。




