俺の日常 ~タクシー編~
俺は今日も仕事を終わらせて、アプリで呼んだタクシーの中に入る。
体が疲労を感じる中で、道路に一つの車が止まり、車が開く。
「…今日はどこまでですか?」
深く帽子をかぶった運転手は、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。
車の中も、まるでこの運転手を示すかのように薄気味悪かった。
だが、俺はそんなことを気にしている暇はなかったので、自宅までの道を指示する。
「…じゃあ〇〇町の〇丁目のところまで」
「かしこまりました」
とだけ運転手は話し、車を発進させる。
車の走る音だけがこだまする中、このタクシーの中に違和感を覚えた。
料金メーターがないのだ。
普通のタクシーだったら料金メーターが設置されていて、そこでいくら支払うのかが分かるのだ。
なのだが、その料金メーターがなかったので違和感を覚えてしまった。
だが、この車を降りて別のタクシーを呼ぶのは違うと思い、気にすることを辞めた。
「…お客さん、ちょっとお話でも聞かないですか?」
「お話…ですか?」
運転手は、車を運転しながら俺に話しかける。
「自分は…運転手になって長い年月が経つんですけども、それなりの体験はしてきましたよ。聞きますか?」
運転手からのそういう話を聞く機会はほぼないだろうし、せっかくだから聞くことにした。
「そうですか、分かりました。あれはそうですねぇ…とある雨の日のことですね…」
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雨が地面に強く当たる日に傘を持っていなければ地獄だろう。
その中、タクシーを依頼した一人の女性がいた。
運転手はその女性のもとへ車を走らせ到着、女性はこの雨の中、何も気にせず外で待っていた。
「お疲れ様です、今日はどちらへ行きますか?」
「…とある墓地までいいですか?」
「…全然、かまわないですよ」
運転手は女性の行きたい墓地に言われたとおりに誘導した。
女性とは何も話さず、ただただ沈黙の時間が過ぎ去っていくだけだった。
目的の場所に到着したのだろう、薄暗い墓地が見えてきた。
「…お客さん、もう到着しましたよ」
そう言いながら後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。
先ほどまで女性が座っていた座席は、触ると水でぬれていた。
墓地の方に目をやると、その女性は、タクシーのことを気にせず奥へと進んでいった。
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「…という話です」
その男性が話を終えた後、運転手が目的の場所に到着したのだが、その男性は眠ってしまっていた。
目的地には、話に出ていた墓地だった。
運転手は後部座席に移動し、こうつぶやいた。
「…お迎えの時間ですよ?」
運転手とタクシーは、その男性と共にいなくなっていった。