ひねくれさん
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ひょんなことから始まったセレーネの奴隷生活は穏やかだ。
二人暮らしだから汚れた食器も衣服もゴミもたいして出ないし、家自体はそれなりに大きいが、物が多くないので掃除をしなければならない箇所も少ない。
元が綺麗であるからフローリングや窓をピカピカに磨くと気持ちが良いくらいに汚れがとれるし、ケイが用意してくれた真新しい掃除道具を試してみるのも楽しい。
『家事ってまともな道具さえ使うことができれば、けっこう楽しいものなのね。今日はシーツをフワフワに仕上げたし、あとは、仕込んでおいたアイスの味見でもしましょうか』
セレーネは元々、真面目で勤勉な性格をしている。
少しならば文字を読むことができる彼女はケイが購入した『家事のコツ』という本を読み、基礎知識を得ながら黙々と家事をこなしていった。
できることが増えるのが嬉しくて、ケイが綺麗になった自宅を褒めてくれることに幸福を感じていた。
そして、そんなセレーネのマイブームは料理である。
食べることが大好きなセレーネにとって、頑張れば見たことも聞いたことも無い美味しい料理を食べることができ、しかもケイに「美味しいよ!」と褒めてもらえる料理が楽しくて堪らなかった。
お金持ちの台所に必須のアイテム、冷凍庫をガラガラと開けて中から四角い容器を取り出す。
カパリと蓋を開けると白とピンクと赤のマーブルが美しいイチゴの自家製アイスクリームが顔を覗かせた。
甘酸っぱくセレーネを誘う香りが辺りに漂う。
セレーネは早速とばかりにスプーン一杯分のアイスをくりぬくと真っ白い器の上にポテンと盛りつけた。
少し溶けかけた丸っこいフォルムに魅了されて、セレーネが異常なほどテンションを爆上げる。
『おお……なんて麗しいお姿! 今すぐ食べてあげますからね!!』
いっぺんに食べてしまうのがもったいなくて、スプーンの先でちょこんとアイスを削ると口に放り込んだ。
舌の上でじんわりと溶けるアイスが口の中をイチゴの酸味とバニラの爽やかな甘みで満たす。
本来ならばそのままかぶりつきたいところを泣く泣く冷凍し、更にクラッシュした上で贅沢に混ぜ込んだイチゴは噛み砕いた瞬間に弾け、口内へ涼しさと瑞々しさを届ける。
安物のアイスですら大して食べていないセレーネだが、そんな彼女でも今食べているアイスがかなり高級で贅沢な物なのだということを理解できた。
『おいし~い!! やっぱり、何度もレシピを見返して失敗を繰り返しながら一生懸命作っただけはあるわ!』
なお、失敗作は基本的にすべてセレーネの胃の中である。
水っぽいアイスですら美味しくいただけた時、セレーネは自分の味覚が貧乏で心の底からよかったと思った。
『早くご主人様帰ってこないかな~! この感動を分かち合いたい!』
人よりも食い意地が張っていることを自覚しているセレーネだが、美味しすぎるアイスを独り占めしようとは思わなかった。
頬が緩んでしまうほど美味しい物は人と食べたほうが楽しい。
自分の作った食事をありがたがって、美味しいと笑うケイの姿が好きな彼女にとっては特に。
『褒めてくれるから帰ってきてほしいな~、ご主人様。褒めてくれるから、明日のアイスのフレーバーはご主人様が好きな桃にしちゃおうかな~、褒めてくれるから!』
心の中でくらい素直になればいいというのに、天邪鬼なセレーネは一緒に暮らして以来、確実にケイへ向けられ始めている恋心を捻くれた言葉で隠してしまう。
理由はいくつかあるが、単純に性格だろう。
セレーネは自分の妹以外に素直に愛情を表現するのが苦手だ。
その後、セレーネは晩御飯を作り始め、ケイが途中で帰宅すると火を消してイソイソと玄関へ向かった。
「おかえりなさい、ご主人様。今日のご飯は鶏の照り焼きとお野菜のスープですよ」
ブンブンと振られた透明な尻尾も屈託のない笑顔も本物なのだから、
『今日もちゃんとお嫁さんのふりしたわよ! ちゃんと新婚風でエプロンをつけてきたし、お出迎えしたし、ニコニコ笑えたし!』
などと、しょうもない言い訳を並べ立てなくても良いのだが。
セレーネはとんだ捻くれ者である。
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