愛してる
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ご機嫌なケイがモギュッとセレーネを抱き直してポフンと頭を撫でる。
「それだけ聞けたら安心したよ。さあ、寝ようか」
ゆっくりとセレーネの背中を撫でるケイは、半ば無意識に彼女を寝かしつけようとしているようだ。
そのまま柔らかく目を閉じるケイに、セレーネは、「え?」と目を丸くした。
ギョッと体を起き上がらせる彼女にケイが、
「どうしたの?」
と、首を傾げている。
「いえ、イヤらしいことはしないんですか? せっかく買ったのに」
「セレーネさん、約束を忘れないで欲しい」
割と直接的な言葉にケイがシュンと落ち込んでしまった。
「すみません。ですが、どちらにせよ夫婦の営みでは?」
「セレーネさん、したいの?」
ケイが期待半分、諦め半分といった瞳でセレーネの表情を覗き見る。
だが、セレーネとしては別に好んで行為に及びたいわけではない。
しなければいけないと思っているだけだ。
そのため、「何言ってんだコイツ」という内面を露骨に表情に出すと、すぐにハッとして、
「……あ! はい」
と、とってつけたような返事をした。
分かりやすいセレーネにケイは苦笑いである。
「セレーネさん、嘘つくの下手だね。いいよ、分かってたから。だから、大丈夫。それに、そういうのは本当に好きな人の間でするものだから。だから、その、いつか、本当にセレーネさんが俺のことを好きになってくれたら、したい」
恥ずかしくなってしまったのか、シーツの中に潜ってモゴモゴと話すケイの姿は、健全で潔癖な純朴青年そのものだ。
とても巨乳に惹かれて性奴隷を購入した人物とは思えない。
『あんなにおっぱい見てたくせに!? あんなにおっぱい見てたくせに!?』
セレーネの方も驚き過ぎて鼓動が止まりそうである。
だが、確かに振り返ってみると、ケイは一度も自分からセレーネの胸に触れていない。
抱き合った時には体が密着したため、セレーネの巨乳がケイのみぞおち辺りにぶつかることとなったが、それでも揉み回してきたりはしなかった。
加えて、ケイは基本的に許可なくセレーネの身体を触ったりしない。
許可なく自主的に行ったことと言えば、セレーネの胸鑑賞のみである。
「あの、本当に良いのですか? 別にシてもいいんですよ? それに、そんなに気を遣ってくださらなくても平気ですし」
相変わらず、セレーネは別にシたいわけではない。
純情で、みだりに自分の体に触れてこず、性行為も行わないと断言したケイに、「ラッキー」と思ってしまっている自分もいる。
だが同時に、わざわざ「性奴隷」を買ったのに、スケベおやじ程度か、それに満たない程度のセクハラしか仕掛けず、モジモジとしているケイのことが、どうしても気になってしまっていた。
性奴隷は奴隷よりもずっと値段が高いため、お金の払い損じゃない!? と、要らぬお節介心を沸かせているのだ。
加えて、自身を買ってもらう時に「奉仕する」と言ってしまったセレーネだ。
そうであるのに何もしないのは、嘘を吐いたようであるし、自身を売った商人が何やらケイに吹っかけていたらしい場面も目撃していたので、余計に気になってしまった。
そのため、セレーネは、
「ほら、触っても大丈夫なんですよ?」
と、声をかけながらシーツの中に潜り込んで丸くなるケイの上にのしかかり、バウンバウンと雑に胸を押し付けた。
なかなかにハレンチな光景である。
「セ、セレーネさん! 止めて! 誘惑しないで! 俺は君が思っているよりも君のおっぱいの虜なんだ!」
シーツの中で丸まるケイが上ずった声でセレーネを制止するが、フンフンと鼻息の荒い彼女は、
「分かってるから押し付けてるんですよ!」
と、押し付けることを止めない。
「酷い!!」
真っ赤になってシーツ内の温度を上げていたケイだが、キッと目つきを鋭くし、決心をするとセレーネを押し倒して、そのまま彼女の巨乳に顔面を埋めた。
どうやらケイはセレーネの胸に挟まることで欲を押さえ込んでいるらしい。
ギュムムと抱き着いて顔面を押し付け、数秒ほど深呼吸を繰り返すと、最終的に安心したような溜息を吐いた。
「あったか柔らかおっぱい。買ってよかった……じゃなくて、セレーネさんが俺のお嫁さんでよかった」
「ご主人様が約束を忘れてどうするんですか」
ふぃ~と風呂上がりのような溜息を吐いて胸に挟まり、そのまま自分の体にちょっかいをかけてくるケイに少し呆れたが、セレーネは同時に安心感も覚えた。
『良かった、普通にしょうもないスケベだわ。ご主人様は気色が悪い方が落ち着くわね。ちゃんと役割だって果たせるし。このくらいが安心するわ』
何となく、汗ばむケイの頭をゆっくりと撫でた。
『目を細めてる。気持ちが良いのかしら?』
髪を梳いていると、ケイがモソモソと動く。
「ねえ、セレーネさん、もう一個だけ、最後にお願いをしてもいい?」
「いいですよ」
「眠る前、必ず『愛しています、ケイさん』って言って。『愛しています、ケイさん。おやすみなさい』って」
一言一句たがえず、唱えるように述べてほしいのだと、ケイが恥ずかしそうに強請る。
たまに幼い姿を覗かせるケイだが、特に今は、小さなはにかみ屋の子供のようだ。
「『愛しています、ケイさん。おやすみなさい』」
コクリと頷いたセレーネが少し優しい声色で述べた。
「うん。俺も愛してるよ、セレーネさん。おやすみ」
ニコリと微笑むとケイはセレーネの胸に顔を埋めたまま瞳を閉じ、そのまま眠った。
特別な行為をしていないのに、お喋りのせいで初めての夜が長い。
おまけにセレーネは妹以外に初めていわれた「愛してる」にドキドキしてしまって、ケイがスヤスヤと寝息を立てた後も、なかなか寝付けなかった。
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