誕生日プレゼント
現在、毎日投稿企画を実施中です。
本作品は午後6時ごろを目安に毎日更新されます。
遅れることもありますが、原則翌日の午前6時までには更新されておりますので、見捨てずに見守っていただけると嬉しいです!
よろしければ、明日以降も読みに来てください!
ムーディーな雰囲気の店内であるからか客が増えてからも基本的に店の中は静かで、二人の間には穏やかな空気が流れている。
何か行動を起こすのならば、今だろう。
カイはバクバクと鳴る心臓を落ち着けるためにコーヒーを一口すすると、ジャケットのポケットに大切に仕舞い込まれていたラッピング袋を取り出した。
「あのさ、アメリアちゃん、俺、アメリアちゃんに誕生日プレゼントを用意したんだ。良かったら受け取ってもらえるかな?」
心配そうな表情で問いかけるカイに、少し目を丸くしたアメリアがコクリと頷いて大切そうに両手でプレゼントを預かる。
「もちろん。ありがとう、カイ君。あのさ、開けてみてもいい?」
ソワソワとした様子のアメリアがリボンに指をかけてチラチラとカイの顔を覗く。
恥ずかしそうに破顔したカイが「いいよ」と返事したのを聞くと、アメリアは丁寧に封を開けた。
中から出てきたのは真っ白い小箱であり、更にその中にはモフモフのクッションに埋まった銀色のヘアピンが一本、入っていた。
真直ぐに伸びた銀のピンの先には繊細に丸くカットされた真っ赤な宝石がはめ込まれており、それが光を反射して周囲をぼんやりと赤色に染めている。
美しい宝石が主役である事は間違いないが、細身で繊細なピン部分も控えめながら明確な自己主張をしており、白銀のような上品な輝きを放っていた。
ゴテゴテと飾られているわけではないが質素なわけでもないヘアピンはアメリアの好みで、コレを選んでくれたのがカイだったから嬉しくて堪らなかった。
「綺麗」
アメリアが感嘆をもらすように呟く。
「気に入ってくれた?」
アメリアが普段から身に着けているアクセサリーを通じてカイは何となく彼女の好みを知っていたが、それでも詳しいわけではなかったし、ピンを選んだ理由も単純に「似合いそう」と思ったからだった。
そのため、素敵な物を選んだという自信はあったが彼女が気に入る物を選択できたという自信はない。
少し不安そうな顔をしたかいが問いかけると、アメリアはコクコクと頷いた。
「すごく綺麗で、可愛くて、嬉しい。本当にありがとう、カイ君。早速つけてみてもいい?」
アメリアの瞳は彼女の手元にあるガーネットと同様にキラキラと輝いている。
「もちろん」
カイはホッと安堵の笑みを浮かべた。
アメリアは頷くカイの姿を確認すると素早く手鏡を取り出して自身の横髪へピンを慎重に差し込んだ。
それから彼女は手鏡の前で顔の角度を変え、丁寧にヘアピンの位置を確認する。
微調整が済むとアメリアは鏡からカイの方へ目線を変え、彼に向ってニッコリと微笑んだ。
「ねえ、カイ君、やっぱりこのヘアピン、凄くかわいい。どうかな? 私に似合ってるかな?」
本来、銀や赤が似合う髪色は黒だろうが、アメリアは茶髪だ。
しかし、彼女の髪色は正確にはダークブラウンに属しており、傍目から見ると真っ黒にしか見えないほど色も濃い。
そのためヘアピンとの相性も良く、神秘的な銀と小さく燃える情熱的な赤が静かにアメリアの艶やかな黒っぽい髪の上で輝いていた。
決してアクセサリーに飾られること無く、かといって自身の存在感でヘアピンの価値を打ちおけしてしまうこともなく、共存して凛と背を伸ばすアメリアは美しい。
アメリアに見惚れたカイが頬を上気させてコクコクと頷いた。
「似合ってる。なんていうかさ、アメリアちゃんに似合うかもって買ったんだけど、やっぱり思った通りだった。凄く綺麗で、格好よくてさ。あんまり上手い言葉が出てこないんだけれど、でも、すごく似合ってる」
消失する語彙力の中で一生懸命にアメリアを褒めるカイに、彼女が嬉しそうに目を細める。
「ありがとう、カイ君」
何度目かもわからぬ礼を口にすると、カイも照れたように「うん」と頷いた。
カイがほんの少しだけ温度を保持しているミルクたっぷりのカフェオレを口に含む。
そうして、彼がドキドキと鳴る心臓を落ち着かせていると、アメリアが静かに手を伸ばしてテーブルの上に無造作に置かれていたカイの手を包み込んだ。
アメリアはそのままモゾリを指を動かし、自身の指とカイの節くれだった指を絡ませる。
「カイ君、あのね、図々しいお願いがあるんだ。とりあえず、聞くだけ聞いてくれる?」
絡ませた手を自身の方へ引き寄せ、酷く真剣な表情でカイの顔を覗き込む。
静かになったはずのカイの心臓が温まって、トクン、トクンと跳ねた。
「いいよ? どうしたの?」
今日のカイは心臓の運動と休憩の差が激しくて、グラフで可視化したら紙面には鋭い針のような山と谷ばかりが並んでしまいそうだ。
格好つけのカイはすぐに動揺して荒ぶる心臓を悟られたくなくて、平静を装いながら問いかけた。
「実はもう一つ、プレゼントが欲しいんだ」
「プレゼント? どんなのが欲しいの?」
「物凄く入手難易度が高いもの。ほしいって言って、必ずもらえるわけじゃないし、単純な我儘で手に入れてはいけないものだよ」
「え!? な、なんだろう。国宝とか? ごめん、アメリアちゃん、普通に売っている物じゃないとあげられないかも」
「あらら、残念。あいにく、売っているものじゃないんだ」
クスクス笑いのアメリアがプレゼントの詳細をはぐらかす。
すると、カイがムッと口角を下げた。
「アメリアちゃん、あんまり焦らさないで教えてくれよ。出来るだけあげられるように頑張ってみるからさ」
相変わらず、カイは物を買い与える行為が異性への愛情表現だと思っている。
というか、気がつけば恋人とのかかわりの大半が「相手へ物を与えること」になってしまっていたカイだから、意中の女性に物を強請られたら与えなければならないんだと思い込んでいた。
ケイが聞けば考え直せと叱り飛ばすだろうカイの思考だが、彼は本気だ。
そのため、カイは一生懸命にアメリアの言うプレゼントの詳細を探っていた。
頭を悩ませるカイにアメリアが小さく微笑んで、無言で彼の手を引く。
そして、中途半端に曲げられた指の先にキスを落とした。
「アメリアちゃん!?」
ギョッと目を丸くしたカイが、悩んで下げていた目線を上に戻し、アメリアの顔を覗き込む。
「カイ君がほしい」
「え!?」
「だから、カイ君がほしい」
ハッキリと告げるとアメリアは唇であむっとキスをしていたカイの指先を食んだ。
突然の奇行にカイが顔を真っ赤にしてパキリと固まる。
わなわなと震える唇をそのままに、ギョッと丸くなる瞳でアメリアの無表情に近い真剣な顔を覗き込んだ。
カイが何も言わないのを見て、アメリアが口を開く。
「ね、難しいお願いでしょう? 非売品で、自分の意志も心もあるからさ、私の我儘じゃ手に入らないの。カイ君もね、私のこと好きじゃないと手に入らないんだ。でも、私はカイ君のことすごく好きだから、どうしてもほしいんだよね、カイ君の肉体も、心も」
上目づかいでアメリアがゆっくりと言葉を出す。
だが、落ち着いているはずのアメリアの声は何処か震えていて、カイと繋いでいない方の手はギュッと緊張したように握り込まれていた。
それも当然だろう。
少し返答に困るアメリアの情熱的な言葉は、彼女史上初の強い想いがこもった告白なのだから。
「あ、えっと、さ、そんなに欲しいの?」
言葉に詰まったカイが恥ずかしそうに目を泳がせる。
アメリアは深く頷いた。
「ほしいよ。一年くらい前から、ずっとほしかった。どうかな? やっぱり、もらえないかな?」
寂しそうに首を傾げるアメリアにカイがブンブンと首を横に振る。
「ち、違う! 別に、俺でよければ全然あげるというか、むしろあげたいというか!? でも、あのさ、俺、告白されるの初めてだし、ぜんぜん心の準備ができてなかったというか、なんて返事していいか分からなかったっていうかさ、と、とにかく、俺はあげる!」
慌てたカイが既に自分の指と絡むアメリアの手を、空いている方の手のひらでキュッと包み込んだ。
真っ赤になるカイは湯気が出るのではないかと思えるほどにホクホクと温まっている。
カイの焦った心情が前面に飛び出た少し不格好で素直な返事に、一瞬だけ虚を突かれて目を丸くしていたアメリアが「よかった!」と破顔した。
「ありがとうね、カイ君」
「うん」
「ねえ、これからは恋人としてよろしくね」
「うん、よろしくね、アメリアちゃん」
ホコホコと火照った二人は最後に冷たくなったコーヒーを飲み干して、それから仲良く並んでレストランを後にした。
あとは明日投稿される、おまけ話でカイとアメリアメインの恋愛話は一時的におしまいです。
ただ、その後もアメリアとカイは出てきますし、突発的に後日談的な感じで二人の話をいれたりもします。
いいねや評価、感想等いただけると大変励みになります!
また、マシュマロにて感想や質問も募集しております。
よろしければ宙色にマシュマロを食べさせてやってください(以下、URL)
https://marshmallow-qa.com/2l0jom2q3ik0jmh?t=5b9U2L&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
こちらはX(旧Twitter)です
https://x.com/SorairoMomiji_S?t=atRzcXH29t32h-XoF98biQ&s=09
よろしければ、是非!(*´∇`*)




