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捻くれ者の恋  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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にらめっこアメリア

 アメリアがカイの下で秘書として働き始めて、もう三年になる。


 彼女にとってカイは非常に働きやすい上司だ。


 軽い雑談を振ってくることはあるが、プライベートに踏み込んでくることはないから仕事上のコミュニケーションをとるだけで済む。


 意思疎通もスムーズであるし、テキパキと動く人だから与えてくる指示も明確でわかりやすい。


 仕事で重責を負っているカイだが、責任を誰かに押し付けたり他人をむやみに誹謗中傷したりすることも無い。


 人一倍働いているのがカイだから、仕事が忙しくなった時に業務を増やされたり、残業を余儀なくされたりしても反感を覚えなかった。


 アメリアはカイを上司としても人としても尊敬していたし、そんな彼の元で働くことを気に入っていた。


 それが崩れたのが半年以上前に執務室でつぶれるカイを介抱した時のことだ。


 当時、付き合っていた恋人に浮気をされた挙句に捨てられたカイは例のごとく執務室で飲んだくれていたのだが、一緒に飲んでいたはずのスイやケイに部屋に置き去りにされてしまったため、酔いつぶれたまま仕事場で朝を迎えた。


 アメリアは常にカイにくっついて仕事をしているわけではないが、少なくとも出勤時と退勤時には彼に挨拶をしに行く。


 そのため、執務室で酔いつぶれて眠りこけるカイを発見したのもアメリアが最初だった。


 本来、アメリアの主な業務はカイの業務の補佐とその他の雑用などだ。


 彼女個人で抱えている仕事もあるため、あまり時間を無駄にすることはできない。


 少なくともカイの世話は業務内容に入っておらず、アメリアが酒瓶などの転がる荒れた室内を掃除したり、彼を介抱したりしなければならない理由はない。


 だが、普段から仕事で世話になっており、カイに対してそれなりに情を持っているアメリアは今回だけだと限定して、彼の面倒を見ていた。


 二日酔いで体調を極限にまで悪化させ、ソファで寝転がって呻く事しかできなくなったカイを横目に掃除などや仕事を進めていたアメリアの感想は、

「カイ様は想像の五倍はダメ人間だったんですね」

 だった。


 この一件でカイに失望し、心底彼を嫌いになったというわけではなかったが、アメリアの中で彼の株はだいぶ下がった。


 しかし、その代わりにアメリアはカイに対して少し親しみを覚えるようになっていた。


 欠点を晒すカイと接することを通じて、アメリアは初めて、これまでただの上司としてしか見ていなかった人間が自分の内側に少し入り込んだような不思議な感覚を覚えたのだ。


 この日以降、アメリアは何となくカイが気になるようになった。


 そして、カイが満面の笑みで「彼女ができたんだ!」と報告してきた日に、アメリアは初めて自分が彼に恋心を抱いていたのだと気がついた。


 恋愛感情を抱くと同時に失恋したアメリアは、その日、帰宅した後に少しだけ涙を流し、翌日からは感情を切り替えて黙々と働いた。


 カイに彼女ができてからも彼のことは好きだったが、秘書の立場を利用して彼にアプローチをかけることはなかった。


 略奪愛をする気にはなれなかったし、カイは誠実だから恋人がいる時に声をかけても決してなびいたりはしないだろうなと思っていた。


 それに、カイの綺麗な心を好きになったから、彼に汚い事はしたくなかった。


 アメリアは時折、嬉しそうに彼女のことを報告してくるカイにひっそり泣かされて、ただひたすらに職務を全うし続けた。


 しかし、そんな彼女にも、ある日突然に転機が訪れた。


 カイが付き合っていた女性に手酷く振られたのだ。


 可哀想だと思う反面、チャンスだとも思った。


 傷心につけこむような真似をする自分が美しくないと思ったが、それでもカイに近づきたかったから、アメリアは執務室で酔っ払っていたカイの元を訪ねた。


 本当は一緒に酒を飲んで話を聞いてやりたかったが、アメリアではイマイチ誘い方が分からない。


 とりあえず、その日はカイに送ってもらって帰宅して、この日以降は彼のことをランチやディナーなどに積極的に誘うようになった。


 そうするとカイの方も誘ってくれるようになり、今では平日、休日問わず多くの時間を共有する仲となっている。


 数か月前に比べるとカイとの距離は随分と縮まっていた。


 もう少し距離を詰めることができたら告白をしようかと考えていたアメリアだが、今はそんなドキドキとした感情の募る思考も吹き飛ばして、一生懸命にクローゼットを漁っていた。


 既に夜も更けていて、だいぶ遅い時間だ。


 これから出かけるわけではない。


 照れ笑いを浮かべるカイから、

「アメリアちゃんの誕生日って×日だよね。もしもよかったら、その日、俺とデートに行かない?」

 と誘われていたため、当日用の衣服を一生懸命に探していたのだ。


 表情があまり動かないアメリアにしては珍しく口角を上げて、ご機嫌に鼻歌を歌っている。


『今年の私の誕生日、休日でよかった。どんな服を着て行こうかな。あんまり硬くない服……でも、あまりカジュアルにし過ぎると変かな。かといって、仕事着の延長みたいな服を着ていくのも良くないだろうし』


 浮かれた感情と悩みで熱くなる頭を抱えるアメリアは今日からデートまでの数日間、クローゼットや姿見、ドレッサーとにらめっこしていた。

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また、マシュマロにて感想や質問も募集しております。

よろしければ宙色にマシュマロを食べさせてやってください(以下、URL)


https://marshmallow-qa.com/2l0jom2q3ik0jmh?t=5b9U2L&utm_medium=url_text&utm_source=promotion


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