捻くれ者の恋
本編は完結しましたが、これ以降もおまけ話などを投稿します
「ねえ、ケイさん、何かしてほしい事はないですか?」
「してほしい事?」
シーツから顔を覗かせたケイがキョトンとした表情になる。
すると、セレーネがシッカリ頷いた。
「はい。何だかお喋りをしている間に目も覚めちゃいましたし。それに、さっきからケイさんに甘え通しなので、一つくらいはお返ししたいなと思って」
「でも俺、さっき抱っこしてもらったよ。それに、今もまだ抱っこしてもらってるし」
「ん~、でも、もう少し何かしたいです。ケイさんは普段から我儘を言うようで言わないですし、何か、こう、返したいなぁって。なければないでいいんですけれど、あれば!」
ぜひ! と声をかけるセレーネの目は爛々としていて元気いっぱいだ。
どうやら、たっぷりと泣いた後、ケイにアレコレ話したおかげで悪感情の大部分を浄化することができたらしい。
眠気まで乗り越えたセレーネはすっかりいつもの調子に戻っていて、ケイのことを構いたくて仕方がなくなっていた。
早く! 早く! と、ケイの甘えを強請るセレーネに彼が苦笑いを浮かべる。
「どっちかって言うと普段甘えてるのは俺な気がするけど、でも、まあ、セレーネさんがそう言ってくれるなら少し考えようかな」
満更でもない様子でセレーネの姿をチラリと見たり、斜め上の方を眺めたりして甘えの内容を考える。
やがて、何かを思いついたらしいケイが無言でシーツを被ってセレーネの胸元にギュッと抱き着いた。
「どうしたんですか? ケイさん」
「いや、あの、セレーネさん、少し体力を使うお願いをしてもいい?」
シーツに潜ったまま、ボソボソと恥ずかしそうに言葉を出す。
ベッド、羞恥、体力消耗系。
この三つの単語が頭の中で並んだ時、導き出される答えは基本的に一つだろう。
「さてはスケベな事ですね、ケイさん! いいですよ! 何だかんだ元気になったので、どんなことでも!!」
スケベにだいぶ乗り気なセレーネが鼻息を荒くしてシーツを剥ぎとろうとする。
すると、ケイが「違うよ!」と慌てた声を出して、奪われないように大急ぎでシーツを体に巻き付けた。
シーツと一緒に剥ぎとられそうになったシャツもキチンと着直しておく。
「全く、セレーネさんのお馬鹿さん! 消耗するのは体力じゃなくて精神力だったかも。とにかく、俺のお願いはスケベ系のお願いじゃないから!」
プクッと頬を膨らませて怒るケイにセレーネがしょぼんと眉を下げる。
「残念ですね。私の方はいつでもイチャつく準備ができているのに」
「あ、でも、イチャイチャはイチャイチャかも。あの、さ、セレーネさん、嫌じゃなかったら俺の好きなとこ教えてもらってもいい?」
「好きなところ?」
「うん。出来たらたくさん。どうしても無かったら、一個か二個でも良いから」
そうは言いつつも、過去にセレーネからアプローチされた経験から、ケイは彼女が大量に「ケイの好きな所」を抱えているのを知っている。
そのため、ケイは考え込むセレーネをかなり期待した表情で見つめていたのだが、一分、二分と時間が経過しても彼女が口を開かないのを見ると段々不安になって表情を曇らせていった。
「ねえ、セレーネさん、もしかして何にもない? 改めて考えたら、俺のこと別に好きじゃないなって思うようになっちゃった? あ、あのさ、俺、まだセレーネさんにかわいいって言ってもらった鎖骨のホクロついてるよ。消えてないよ?」
眉を下げてセレーネの顔を覗き込むケイは酷く不安そうであり、シーツの中から這い出てシャツの襟を広げ、鎖骨付近を露出していた。
ケイがチラリと見せているのは綺麗に骨の形が浮き出た陶器のように白い鎖骨であり、右側の付け根にポツンとセクシーなホクロが置かれている。
セレーネの目がケイの胸元へ釘付けになった。
「ケイさんの鎖骨エッチ!! じゃなかった。もちろんケイさんのかわいいホクロは今も大好きですよ。それに、ケイさん自体、今も大好きです。ただ、どこから話せばいいか迷ってしまって。ごめんなさい。それにしてもケイさんは不安になった困り眉がスケベかわいいですね。何故か無性に噛みたくなります。主に腕とか」
「え?」
「モジモジして不安がり、胸元をチラ見せしてくれるケイさんはエッチかわいくて堪らないですが、恋人を虐めるようなダークサイドに陥るのは良くないですし、取り敢えず思い付いたことを羅列しますね。まず、ケイさんの顔がかわいくて好きです。笑ってニコニコと細まるのも好きですし、随分と前にしたように私を睨みつけてきたのも、今考えるとエッチすぎてゾクゾクしちゃいます。もう、あんな風に疑われるのは勘弁ですが睨まれるだけならアリかも。アリですね。偶に睨んでください。ギャップがえぐくて至高です。そもそもケイさんそのものにギャップがあること自体、最高ですよね。私が悪いことをしたら普通に叱ってくれますし、モジモジしてるわりにスケベさんで肉食ですし。偶に夜中に私が寝静まった頃を見計らってムギューって引っ付いてくるの好きですよ。あと、そもそもがくっつきたがりでかわいいですよね、堪らないです。あ! あと、包容力抜群に見えて意外と甘えん坊で子供っぽい所も好きですよ。ちょっと目を離すと無駄に部屋を散らかすヤンチャなところも好きです。まあ、脱いだ服は籠に入れてくれると嬉しいですが。でも、自分が散らかしやすい分、私に寛容なところも最高に好きですよ」
鼻息の荒いセレーネが次々にケイの好きなところを発掘して捲し立てる。
他にも料理が得意な所や財力が高い所、家事ができるところに所作が丁寧なところなど、いくつも飛び出した好きなところが並べ立てられた。
たまに変な物やケイの羞恥を煽るような情報が混じっているものの、彼はセレーネの褒めに満足しているようで、ホクホクとした笑顔を浮かべている。
そして、そのままセレーネを見つめるケイのキラキラとした瞳が「もうちょっと出てこないかな」と強請っていた。
「そのかわいいお目目!! そういうとこ! そういうところが大好きなんですよ!! 俺のこと好きって聞いてくれるの好きですよ~! 構ったり、イチャイチャしたりするの好きなので! 要求されるとアレですよね、燃えちゃいますよね、心臓が!! 態度が控えめだったり遠慮しいだったりするところも好きですし、照れてモジモジしちゃうところも、甘えたくてチラチラ私の方を見たりし出すのも最高です。あと、けっこう気分が沈みやすくて、すぐに落ち込んじゃうところも、不安になっちゃうところも好きですし! 繊細で手間がかかるところ、かわいくて大好きですよ!!!!」
セレーネは大好き! と叫ぶと、「もう! もう!」とマットレスをペシペシと手のひらで叩き、言語化できない愛情を発散した。
とかく愛は伝わる姿なのでニヤけてしまうケイだが、同時にギアをいっぺんに三つも上げたセレーネに驚き、ちょっと引いていた。
「セ、セレーネさん? あの、セレーネさん?」
ポンと肩を叩くがセレーネの勢いはまずばかりで止まらない。
「やっぱり少し手間がかかる成人男性って言うのは至高ですね!! 面倒くさいは面倒くさくない。むしろご褒美!! 落ち込んでもトゲトゲになって周囲を傷つけるわけでもなく、ただ癒してと両手を広げてくれるケイさんをモギュッと抱き締める喜び! 大切なものが胸の中にいる安心感! メチャメチャスケベな事を考えながらコッソリ腰をサワサワしている私に向かって『くすぐったいよ』と笑うだけなケイさんのエッチさ!! 他にも拗ねてシーツに引きこもり、丸まってるケイさんもかわいくてちょっかい出したくなりますし、威嚇されると余計にお触りしたくなりますし、シーツに入り込んで移動しているのを見ると、ご一緒したくなっちゃいますね!!」
熱く語りながら、シーツを体に巻き付け、さなぎのような姿になったケイの方へジリジリとにじり寄っていく。
ケイも体にシーツを巻き付けたまま器用に起き上がり、セレーネから距離をとり始めた。
「ま、待ってセレーネさん! 侵入しようとしてる!? もしかして、侵入しようとしてる!?」
「勿論、ものすごく優しい所とか、さっき私を慰めてくれた包容力とか、最高なところはまだまだあるんですけれどね! でも、とにかく大好きなケイさんのお胸を見たくなっちゃったな!?!?」
移動のしやすさという観点で見ればケイとセレーネでは明らかに彼女の方に分がある。
そのため、セレーネは簡単にケイを壁際へ追い詰めることができた。
だが、防御力という観点では明らかにケイの方に分がある。
ケイはシーツの端を握り込むと、完全防備の耐性に入ってシーツを撒きとろうと試みるセレーネに対抗した。
「いいじゃないですか! 減るものじゃないですし、見せてくださいよぉ。ケイさんのスベスベ、ゴツゴツで綺麗なお体を! 薄っぺらいように見えて実は筋肉がついた腕とか、スマートなお腹とか、意外と太い太ももとか、脇とか見たいんですよ!! 見せて触らせてくださいよ~!! 腕の筋肉の柔くて硬い、不思議で魅力的な感触をもう一度味わいたいんですよ~!」
己の欲に忠実なセレーネがケイにモギューッと抱き着き、シーツの突破口を探そうと布をペタペタ触り出す。
しかし、セレーネはシーツの内側から手を弾かれた上に、ケイに「駄目」と首を横に振られてしまった。
途端に彼女がショックを受けた表情になる。
「どうしてですか!? せっかくベッド付近にいるんですから、おスケベな事しましょうよ!」
「駄目」
きっぱりと断られてセレーネが膝から崩れ落ちた。
彼女はケイの足元で這いつくばり、
「なんで……ケイさん、両想いになったらスケベするって……」
と、呻いている。
ちょっと泣いているのが非常に情けない。
ケイは崩壊したセレーネに一瞥をくれると、それからスッと彼女から目を逸らした。
「だって、その、せっかくの最初はロマンチックな感じがいいかなって思ったし。それに、その、くだらない意地だって思われるかもしれないけど、俺がセレーネさんのことをリードしたかったんだもん」
ちょっと拗ねた言葉を出すケイは恥ずかしいのか頬をほんのり赤くしている。
ケイの足元で四つん這いになっていたセレーネが、「うっ!」と心臓を押さえた。
がっつき過ぎて品のない行動をとったことを恥じているのではない。
予想外にかわいらしいケイの発言に胸を射抜かれて瀕死の重傷を負っているのだ。
「それに、そう言うことをする前はお風呂に入った方がいいでしょ。俺、けっこう汗かいちゃったからさ。セレーネさんに俺の汗まみれになったお腹とか脇は見せたくないよ」
目をハートにしたまま、コヒュッと息を吐くセレーネにケイがさらに追い打ちをかける。
セレーネは「ああっ!」と小さく絶叫すると、ドチャッと床の上に倒れ込んで死の間際の静かな呼吸を繰り返した。
「セレーネさんも俺とお風呂に行く?」
「い、行きます……」
「何で倒れたままなの?」
「ケイさんがかわいくて起きれない」
人としての正しい姿勢を失ったまま地面に頬ずりをするセレーネが片手だけ、ケイの方へ向ける。
仕方がないなとケイがセレーネを起き上がらせると、彼女は途端に人間らしく姿勢を正し、ウキウキで彼の隣を歩き始めた。
二人が会話を始めた頃はせいぜいお昼くらいだったのに、お喋りとイチャイチャを繰り返したせいで今ではすっかり日が沈んでいる。
だが、セレーネとケイは残りの時間もお喋りと遊びで溶かす、優雅な休日を過ごした。
今日、実った捻くれ者の恋は、これからものんびりと大きく育っていく。
ここで本編完結です。
今はちょっと余力がないので、後から全体の後書きを書きますね。
一度ここで「捻くれ者の恋」自体は完結なのですが、他にも二人の甘いおまけ話やカイとアメリアの話なんかも載せます。
良かったら読んでみてください。
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