心に沁みる優しさ
作品全体の流れを鑑みて、「お兄ちゃんにご褒美」というおまけ話と今回のエピソードを入れ替えるため、前に投稿していた分を削除して新規エピソードとして今回の話を投稿し直しました。
現在、毎日投稿企画を実施中です。
本作品は午後6時ごろを目安に毎日更新されます。
遅れることもありますが、原則翌日の午前6時までには更新されておりますので、見捨てずに見守っていただけると嬉しいです!
よろしければ、明日以降も読みに来てください!
翌日、セレーネは軽い頭痛を起こしながら目を覚ました。
体には薄い毛布が乗っかっており、ホクホクと温かい。
『ここは、ご主人様の部屋?』
ぼやけた頭で周囲を見回す。
隣にケイはいないようだ。
額を押さえながら起き上がって毛布がズルリと胸元から落ちた時、セレーネは「キャッ!」と悲鳴を上げた。
一糸まとわぬプルリとした自分の巨乳が視界に飛び込んできたからだ。
イエーイ! とはしゃいで揺れ、暴れる胸を大慌てでギュムッと抱き、確保する。
『裸!? やけに毛布がスベスベで変にスースーすると思ったら……まさか!』
全裸という、嫌な予感が脳をかすめる。
恐る恐る体に引っ掛かったままの毛布を持ち上げて中を覗いてみたら、残念ながらというか、案の定というか、下も生まれたままの姿となっていた。
真っ青だった顔色が途端にカッと熱くなる。
ペタペタと何かを確かめるように全身に触れた。
『ま、まさか、ご主人様と一夜の過ちを!? いや、別に好きだから過ちではないけど、どうせならもうちょっとロマンチックなのが良……いや、違うわね』
モジモジとしていたセレーネの頭に鋭い痛みが走り、同時に昨夜の記憶がよぎる。
昨日のセレーネは非常に我儘なお子様になっていたので、ケイが掛けてくれた毛布を暑苦しく感じ、文句を言いながら自分で服を脱ぎ始めたのだ。
『そうだ。確か私は、裸は駄目だよ、風邪ひいちゃうよ、襲っちゃうよって叱りながら服を着せてくれたご主人様に無駄に歯向かって脱ぎ続けたんだった。しかも、酔っ払いには普通の人の体温が気持ち良かったからって、そのまま、ご主人様に抱きついて……』
一つ思い出せば他の記憶も次から次に溢れ出してくるようになる。
肌と肌が触れ合う感覚が気持ち良いからとケイの衣服を脱がせようとしたり、ベッドに潜り込んでからもやたらとケイの胸を欲しがったり、
「雄っぱいをもらえなきゃ、ねんねしません!!」
と、駄々をこねたりした、非常にしょうもなく恥ずかしい記憶たちだ。
諸々を思い出したセレーネの顔色は羞恥心で真っ赤になったり、申し訳なさで真っ青になったりと慌ただしい。
吐き気を催すほどの動悸も激しくて一向に落ち着く気配がない。
『お酒で記憶が消えるとか、嘘よね!? 消えるもんなら消えててほしかったわよ! よりにもよって、こんな!!』
穴があったら入りたい。
何なら自力で三メートルくらいの穴を掘って、自らそこに埋まりたい。
そして、二度と出て来られないように上から土をかけてほしい。
そう本気で思ってしまうほど強い羞恥を感じていたのだが、だからと言って実際に土に埋まったり、ケイから逃げ出したりするわけにもいかない。
セレーネは無言で頭を抱えた。
『ご主人様、困ってたよね。流石に甘え過ぎた、というか暴れすぎた。会わせる顔がない。でも、記憶が間違いじゃなければ、結構ご主人様は酔っ払いの私に優しかった気がする』
ペタッと抱き着けば抱き返してくれたし、叱り方もうるさい酔っ払いに接するには随分と優しかった。
ベッド付近に来てからも水差しに入った水を飲ませてくれたり、体温が下がらないように毛布を掛けてくれたり、眠るまで抱き締めてくれていたり、とにかく甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていた。
ノーガードの巨乳を押し付けて困らせた記憶はあるが、特に向こうから触れられた記憶も無い。
『ごめんなさい、ご主人様。でも大好き……』
実はセレーネ、昨日はとある出来事が原因で心に深い傷を負っていた。
それが要因でヤケになって酒を購入し、がぶ飲みして悪酔いしたわけなのだが、そんな彼女にはケイの愛情深い優しさが沁みて仕方がなかった。
心臓の奥がじ~んと温まって、目の奥の方からジワジワと涙が溢れてくる。
プカリと水の中に浮かんでいるような、誰かに包み込まれているかのような安心感を覚えて堪らなくなった。
そして、精神的に落ち着いたら体もまともに目覚めだし、昨日の夕方ごろから酒以外入れていない腹がキュルルと鳴った。
深酒した翌日であるせいか微量の吐き気を感じるが、それ以上に体の底から湧きあがる食欲を感じる。
『良い匂いがする』
食に敏感なセレーネが不意に感じ取ったのは、どこからか流れてくる、ふんわりとした香辛料の優しく美味しい香りだ。
セレーネは手早く落ちていた衣服を身に着けると台所へ向かった。
そっとドアを開けて台所内を覗き込むと、グツグツと茹る鍋の前で調理を続けているケイが見える。
「おはようございます、ご主人様」
セレーネにしては随分と控えめな声でモジモジと声をかける。
すると、セレーネに気がついたケイが彼女の方へ視線をよこす。
セレーネはバツが悪くなってケイの顔を見られなくなり、静かに目を逸らした。
彼女の心境を知っているのか否か、ケイがクスクスと柔らかい笑い声を立てる。
「おはよう、セレーネさん。もう、平気? 二日酔いはどう?」
「少し頭が痛いですが、それらしい症状もなく元気です」
「それなら良かった。俺さ、野菜のスープ作ってたんだ。でも、完成までにもうちょっと時間がかかるから、セレーネさんは先にお風呂に入って汗を流しておいで
」
柔らかな声や笑顔が、喧嘩をする前のケイや昨晩、自分の面倒を見てくれた彼にピッタリと重なる。
優しいケイに愛おしさが増すと同時に、ますます彼への罪悪感が募った。
「あの、ご主人様、ごめんなさい」
「うん。分かった。でも、その話はセレーネさんがお風呂を上がってから聞くね」
震え声になるセレーネに対し、ニコリと笑ったケイの笑顔が少し黒っぽい。
セレーネの酒で弱った体に優しいフォローを入れるつもりはあるようだが、それはそれとして彼女をシッカリと叱るつもりもあるらしい。
「お風呂で反省してきます」
トボトボと風呂へ向かったセレーネは少しだけ長風呂をして、それからリビングへと帰ってきた。
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