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捻くれ者の恋  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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39/77

お兄ちゃんにご褒美

現在、毎日投稿企画を実施中です。

本作品は午後6時ごろを目安に毎日更新されます。

遅れることもありますが、原則翌日の午前6時までには更新されておりますので、見捨てずに見守っていただけると嬉しいです!

よろしければ、明日以降も読みに来てください!

 ケイを叱咤激励した後のカイは仕事に戻って黙々と執務を続けていた。


 ふと集中が途切れた頃、コンコンとドアがノックされる。


『ケイかな?』


 まだ用事があったのだろうか思いつつドアを開ける。

 すると、そこにはアメリアが立っていた。


「あれ!? アメリアちゃ……さん!?」


 急なアメリアの来訪に驚き、慌てて適当に掻き上げていた前髪を直す。


 現在がアメリアにとって就業中ということになっているのか、あるいは休憩時間と言うことになっているのか分からず、そのせいで呼称も迷子になった。


 慌てるカイをアメリアが横目でチラッとだけ見る。


「アメリアちゃんでいいですよ、カイ様。失礼します」


 軽く一礼したアメリアが慣れた様子でカイの横をすり抜け、執務室の中へ入ってくる。

 そして、ポスンとソファに腰を下ろし、テーブルに紙袋を乗っけた。


「こちら、近くのカフェで購入してきたサンドイッチです。よろしければ一緒に遅めのランチを食べましょう」


 カイが今日は一人でランチを食べているはずだと予想を立てていたアメリアだが、実は彼女、本当は彼と一緒に食事をとるつもりで執務室まで訪れていた。


 だが、室内に人の気配を察知し、かつ、コッソリと覗いてみたらカイとケイが何やら神妙な顔つきで会話をしているのが見えたので、一度、出直すことにした。


 初めは二人の話が終わってからカイをランチへ誘おうと考えていたのだが、途中で会話が長引き、外へお昼を食べに行く時間が無くなってしまう可能性があることに気がついたため、予定を変更して差し入れを届けるという形式に変えた。


 ちなみにカイの方はアメリアの細かい事情を全く察していないため、

「やった! 今日は一緒にご飯が食べられるぞ!」

 くらいの感覚で、ひっそり喜んでいる。


「ありがとう、アメリアちゃん。そしたら俺、コーヒーを淹れるよ」


 浮かれたカイが慣れた手つきで二人分のコーヒーを淹れた。


 ケイの時と同様に片方がブラックコーヒーで、もう片方が甘いカフェオレだ。


 対になっている二つのマグカップを持って来てアメリアの隣に座ったカイはカフェオレを自分側に、そしてブラックコーヒーを彼女の側に置いた。


 コーヒーを貰ったアメリアが、「ありがとうございます」と会釈をして、交換するようにカイへバゲットを差し出す。


 縦に長いバゲットはハムやチーズ、生野菜などをたっぷり挟み込んでいてボリューミーであり、非常に美味しそうだ。


「はい、カイ様。よろしければどうぞ」


「ありがとう、アメリアちゃん。美味しそうだね。ん? あれ? アメリアちゃん?」


 どうぞ、大きなバゲットを向けてくるアメリアだが、カイがしっかりと受け取って以降も彼女は一向に手を離す気配がない。


「あの、アメリアちゃん?」


 くれる気があるんだよね? と彼女の表情を覗き見るが、アメリアはカイにコクリと頷くばかりだ。


「どうぞ」


「どうぞって」


 もしかして、このまま一口かじれ! という意味なのだろうか。


 だが、「あ~ん」をするにはアメリアの表情や態度が全くもって甘くない。


 眼鏡の奥底にあるのは執務中と変わりない、無表情ぎみの冷たい目だ。


『でも、状況的には一口どうぞってことだもんな』


 勝手に齧りつけば叱られそうな気がして怖くなるが、だからと言ってこのまま硬直しているわけにもいかない。


 カイは思い切ってサンドイッチを一口齧ってみた。


 固いバゲットは意外と噛み切れないため、自分でも両手を使って押さえ、引っ張りながら千切り取るようにして食べる。


 思ったよりも大きくなってしまった一口をシッカリと頬張って飲み込んだ。


「美味しいですか?」


「うん。結構うまいよ。バゲットのしっかりした感じとハムの肉々しさが好きだな。ドレッシングも美味い!」


 口の端についていたドレッシングを指で拭って舐め、ニコリと笑う。


 するとアメリアも、

「それはよかったです」

 と、微笑んだ。


 それからのアメリアは齧られたサンドイッチをすんなりケイに手渡し、自分でも似たような物を取り出して食べ進める。


「お話は上手くいきましたか?」


 二人でサンドイッチを半分程食べ進めた頃、唐突にアメリアが問いかけてきた。


「話って、ケイとの話だよな。アメリアちゃん、俺がさっきまでケイと話したって知ってたんだ。うん。多分、上手くいったよ。ケイがちゃんと、俺の目を見て話を聞いてくれたから」


「そうですか。それはよかったです」


「ありがとう。ケイは、小さい頃と変わらないんだ。生意気なところも、泣き虫なところも、変に気が強いところも、頑張り屋なところも、全部。すぐに俺を頼るところだって変わらない。でも、ケイは成長するから、けっこう変わった部分もあるんだよな」


 昔のケイは飲み込めない意見が出てくるとすぐに反発して、フルフルと首を横に振り、言葉を拒んでいた。


 泣きだして、毛布の中に閉じこもっていた。


 そして、そんな風に意固地になるケイに対して何度も説得を続け、怖がる彼を勇気づけたり、一緒に課題を解決してやったりするのがカイの仕事だった。


 「兄」という役職は、ケイよりも二年ほど早く生まれてきてしまったせいでカイに勝手にくっついてきた責務だ。


 この責務に煩わしさを感じたことがないとは口が裂けても言えない。


 自分のことを優先したいと思ったことだって一度や二度ではないし、ケイのことを疎ましく感じて意地悪をしてしまったこともある。


 喧嘩だって何度もした。


 幼い頃は特に、泣いていればスイか自分に助けてもらえるケイが羨ましかった。


 だが同時に、甘えてギュッと抱き着き、頼ってくるケイの幼い姿や成長していく姿を見守るのが好きで、カイは何だかんだ「兄」という役割が嫌いではなかった。


 頼られることだって好きだったし嬉しかった。


 そして、それは今でも変わらない。


 しかし、少し前までは兄にベッタリだったケイも成人して時間が経てばすっかり成長し、最後の一歩は完全に自分の力でで踏み出すようになってしまった。


 セレーネと出会って以降、変わりたい気持ちが強くなって自立的な気持ちが大きく芽生えるようになってしまったのだ。


『嬉しいけど寂しい。でも、いい年こいて俺にベッタリな方が問題か。俺もいい加減、弟離れしなきゃな』


 ジッと自分の目を見つめてきたケイの力強い瞳を思い出す。


 カイはあの時、

「きっとケイはまだ自分の言うことを信じられない。どう説得したら前に進んでくれるのかな?」

 と、頭を悩ませていた。


 多少厄介でも面倒を見てやろうと少しワクワクしていた。


 それがすんなり自分の言葉を聞いて頷いてくれたので、カイはケイの成長を心から喜ぶとともに妙に寂しくなって、チクリと心臓の奥を痛めた。


『何気に恋愛も惨敗続きだし、格好つかねーよな、兄として。いや、まあ、そんなところで変に格好つける必要も無いんだけど、ただなぁ。俺がアメリアちゃんと上手くいくよりも、絶対にケイの方が先にセレーネちゃんと上手くいくじゃん。自分でもバカみたいな見栄だとは思うけどさ、でも、正直、兄貴としては常に弟よりも一歩先に行っておきたいよな。俺には兄貴みたいな人間としての余裕とか風格とかもないしさ。つーか、思い返せば最近は、ケイに酒で介抱してもらったり、愚痴聞いてもらったり、そんなんばっかだな。情けねえ』


 何だか兄と弟の立場が逆転してしまったような気すらして、カイは内心でガックリと落ち込んでしまった。


 すると、アメリアがカイの頭の上にポンと手を置く。


 そして数回、ヨシヨシとカイの頭を撫でた。


「アメリアちゃん?」


 もしかして慰めてくれているんだろうか。


 そんなことを思い、チラリとアメリアの顔を覗き込むと彼女は目があった途端にビクリと肩を震わせ、大慌てで手を引っ込めた。


「申し訳ありません、カイ様。他意は無かったのですが、良いお兄ちゃんだなと思っていたら、つい。どうか、休憩中の戯れと言うことでお許しください」


 頬は真っ白だが耳は真っ赤なアメリアがシッカリと頭を下げる。

 普段冷静な彼女のパニクった姿が面白くて、カイの口元に無意識に笑みが浮かんだ。


「いいよ。そんなに謝らなくても大丈夫だ。それにしても俺が良い兄貴か。アメリアちゃんにはそう見えたの」


「はい。ケイ様のお話をするカイ様のお顔が愛おしげでしたから。ケイ様が少し羨ましいです。頼れるお兄ちゃんがいて」


「そうかな?」


 無表情であり無感情に近い態度で褒めてくるアメリアにカイがポリポリと頭を掻く。


 だが、疑問形の困った風な言葉とは裏腹に柔らかい目元が嬉しそうに細まっており、照れ半分、喜び半分という内面が外側にハッキリと表れていた。


 カイの姿を見て、アメリアも優しく微笑む。


「羨ましいですよ。私はひとりっ子だったので、兄という存在に憧れていましたから。強くて優しくてかわいいお兄ちゃんがいるケイ様が羨ましいです」


「……かわいい?」


「感情が分かりやすい、素直なお兄様はかわいいでしょう。とても強い心をお持ちで頼りがいがあるのに親しみやすくて、だからケイ様もカイ様を頼りたくなるんだと思いますよ。少なくとも私は完全無欠の強い人に自分の弱みを見せたいとは思えませんから。カイ様みたいに情があって、真剣に他人のことを考えられる素敵な方。そんな方に頼りたいですね、私だったら。弱さを素直に他人に開示するというのは、本当は強い人にしかできないのですよ」


 語るアメリアはなぜか早口だ。


 そして、無表情である。


 淡々と誉め言葉をぶつけられたカイは一瞬面食らった表情になったが、すぐに「そうかな?」照れ笑いを浮かべた。


 可愛い発言や弱さ云々など少し釈然としない部分もあったが、アメリアの言葉をおおむね好意的に受け取ったカイは上機嫌である。


「お兄ちゃんとして頑張ったカイ様にご褒美があるんです。といっても、大したものでもないのですが」


 そう前置きして、アメリアが生クリームとフルーツのたっぷり挟まったサンドイッチを取り出す。


 紙袋の底に入っていた保冷材のおかげか生クリームは未だに溶けだしておらず、バゲットもパリッと香ばしいままだ。


 おまけにタップリと振りかけられた粉砂糖が魅惑的だった。


「すごっ! うまそう!! 貰っても良いの!?」


「ええ。カイ様のために購入したものですから」


 甘いものに目がないカイがキラキラと瞳を輝かせる。


 それからアメリアが頷いたのを確認すると、カイはフルーツサンドにガブリと齧りついた。


 大きなバゲットをペロリと平らげてしまったカイが、甘いものは別腹! と言わんばかりにフルーツサンドを勢いよく食べ進めていく。


 ニコニコと笑う目元は細まっていて、一心不乱な口周りには粉砂糖とクリームがたっぷり付着している。


 一生懸命サンドイッチを食べ進めるカイは今だけ小さな子供のようだ。


 カイを横目で眺めていたアメリアは、思わずといった調子で、

「かわいい」

 と、小さく言葉を溢した。


 コーヒーを啜ってマグカップの内側に隠した口元はニマニマと笑んでおり、ギュッと握られた手のひらは何かに堪えるようにブルブルと震えている。


 だが、フルーツサンドに夢中なカイはアメリアの小さな変化に気がついていなかった。

 ゆったりと甘い時間が過ぎていく。

本編の甘いラブコメの箸休め的な?

甘さスッキリに仕上げました

あ、いや、先延ばし戦法のためのおまけ話じゃないですよ、はい


いいねや評価、感想等いただけると大変励みになります!

また、マシュマロにて感想や質問も募集しております。

よろしければ宙色にマシュマロを食べさせてやってください(以下、URL)


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よろしければ、是非!(*´∇`*)

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