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捻くれ者の恋  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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信じたい

現在、毎日投稿企画を実施中です。

本作品は午後6時ごろを目安に毎日更新されます。

よろしければ読みに来てください!

 セレーネが自室のソファベッドで目を覚ました頃、仕事場で昼休憩をとっていたケイの元に一通の封筒が届いた。


 厳重に封をされた茶封筒の中に入っているのは、ケイがとある探偵事務所に依頼していたセレーネの素行調査の報告書だ。


 情報収集の速さと内容の正確さが売りで裏からの信用が熱い探偵事務所の報告書は非常に簡潔で、セレーネの半生が淡々と分かりやすく書かれていた。


 十年以上も前の情報をどのようにして調べたのか。


 セレーネが巡ってきた奴隷市の名称や商人の名前、今まで一般市民として働いてきた勤務先の名称だけでなく、彼女の両親が蒸発した原因や幼い頃の暮らしぶり、当時の犯罪歴なども載っていた。


 せいぜい十枚程度の紙にまとめられただけの簡素な内容が異常に重々しく苦しい。


 報告書の文には一切、書き手の感情が映し出されていない。


 セレーネの悲劇を増幅させ、読み手の情緒を揺れ動かすような書き方もされていなかった。


 だが、それだというのに書かれている内容そのものがあまりにも過酷で、ケイは読んでいる最中に泣きだしてしまいそうになった。


『セレーネさん、妹さん、本当にいたんだ……』


 結局、セレーネは一つも嘘なんかついていなかった。


 妹と助け合って生きてきた歴史も、幼い頃、食べ物関係の窃盗を繰り返して何度も捕まっていたことも、性奴隷になった理由も、何もかも、ケイに自己申告していた通りだった。


『もう一度、話がしたい。虫がいいと思われるかもしれないし、セレーネさんはもう俺に愛想をつかしていて話なんかしたくないと思っているかもしれないけれど、それでも、もう一度話がしたい。嘘つきだって決めつけて傷つけたことも謝りたいし、それに、妹が実在してるってことは、もしかしたら、セレーネさんが騙されているってことにもなるかもしれないから』


 仮に妹が実在していたとしても、送られてきていた手紙が不誠実で怪しいものであることには変わりがない。


 メレーネ本人なのか、はたまた「妹を名乗る別の人物に」なのかは不明だが、諸情報を総合していくと、セレーネは誰かしらに騙されている可能性が高かった。


 セレーネのカモられ疑惑は、今後を考えるのに重要なカギを握る問題である。


『もしも、俺が疑心暗鬼になっていただけで本当はセレーネさんに妹がいたみたいに、今回も俺が手紙を疑いすぎただけでセレーネさんがカモられてないなら、それはそれでいいんだ。俺も家族が好きだからセレーネさんの気持ちは分かるし、妹を大切にできるセレーネさんが素敵だって思うし。だから、大切なセレーネさんが妹を助けたいって思うなら、手助けしたいとも思うんだ。思うんだけど、でも、夫じゃなくて金づるとして毟られるのは、どうしてもキツイな』


 金を払うこと自体が嫌なわけではない。


 ケイ自身にも大切な家族がいるから、妹を助けたいという気持ちは理解できたし、肉親への愛情と恋人への愛情が別枠に属することも肌感覚で分かるから、妹を捨ててでも自分を優先しろと言いたいわけでもなかった。


 あくまでも自分たちの生活に支障をきたさない範囲でならば支援することが可能だったし、大切なセレーネの笑顔を曇らせ、心を傷つけさせないためにも、むしろ金を払ってやりたいと思っていた。


 だが、それを歪みなく行うためには大前提として、

「セレーネから愛されていること」

 が必要になる。


 それがなければ、ケイはどうしても、

「大好きなセレーネさんのために」

 と笑って、お金を差し出せなかった。


 そして、どうしても自分が愛されることだけは信じられないケイには、セレーネがどんな言葉を使って自分を説得してきても、

「大好きな妹を助けるために自分に媚を売って、金銭を出させようとしている」

 ようにしか映らないことも、よく分かっていた。


 今のままの自分では、仮にメレーネにも、手紙にも、セレーネにも何の問題も無かったとしても、まともな話し合いをできないことや結論を出せないことがよく分かっていたのだ。


 だからこそ、ケイは今すぐ家に帰りたくなるような衝動を抑えて、自分の尻を作業机の椅子に括りつけていた。


『本当は、助けたい。セレーネさんのことだって信じたいよ。疑心暗鬼で、暗くて冷たくて粘着質で、自分のことばっかだ。こんな俺、俺が一番嫌いだ』


 本当は、ケイは優しくて素直な人になりたかった。


 真直ぐで愛情深くて情に脆い人になりたかった。


 愛する人のために自己を犠牲にしてもいいと、本気でそう思える人になりたかった。


 苦しみたくないから回避行動ばかりとっているケイだが、本当は騙されても良いからと前に進める人が好きで、苦しい時に泣ける人が好きで、「助けてくれ」と信頼している人に抱きつける人が好きだった。


 だが、どれも自分にあるようでないものばかりだ。


『カイ兄さんみたいになってみたかったな』


 ポツリと思い浮かぶカイは周囲を照らす太陽のような笑みを浮かべていて、ケイの憧れそのものだ。


 スッと席を立ったケイの足は自然とカイの執務室へ向かっていた。

次回か次々回くらいから展開が大きく動きます

話が進まねーなーって思ってる皆さん、すみません! m(_ _"m)



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