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捻くれ者の恋  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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16/77

呪いと歪み

現在、毎日投稿企画を実施中です。

本作品は午後6時ごろを目安に毎日更新されます。

よろしければ読みに来てください!

 ヒステリックに浪費癖、浮気癖、暴力癖が酷く、他者を顧みないなど当たり前。


 夫は金を巻き上げるための道具。


 子どもは仕方なく作った邪魔な何か。


 与えられるのは当たり前のこと。


 気まぐれに微少の奉仕をして悦に浸り、過剰なまでに自己肯定感を上げる。


 常に周囲にいる人間を小馬鹿にしていないと自分を保つことさえもできない。


 そんな千人に一人いるかどうかさえも分からないような、倫理観も品性もない、姿ばかり取り繕った化け物。


 コレがケイたち三人兄弟の母親で、もっといえば祖父の配偶者も似たような類いの女性だった。


 世間体のために祖父が結婚したのは浪費家で浮気癖の酷い女性だ。


 愛人の家を転々としている彼女は基本的に家に帰らず、稀に帰宅したかと思えば金の無心を繰り返していた。


 祖父と顔を合わせれば口論ばかりで、ヒステリックな金切声と怒鳴り声の不協和音が夜中まで屋敷の廊下に響き渡ることもあった。


 実子を見れば「汚らしい」「気持ち悪い」と、嫌そうに唇を歪め、視界から出て行けと怒鳴る彼女だ。


 彼女の人間性に大きな問題があったことは、まず間違いがない。


 だが、だからと言って祖父が屑に引っ掛かってしまっただけの可愛そうで善良な男性なのかというと、これもまた異なった。


 祖父は祖父で人間性に大きな問題がある人だったのだ。


 祖母と口論をする原因は、彼女が由緒ある老舗の呉服屋の奥方として相応しくない行動をとるからであり、彼女を家や家業のための道具としか認識していない。


 だからこそ、どんなに口論をしても婚姻関係を続けることと年に数回の貴族等が集まる重要なパーティーに出席し、上品な奥方としてふるまうという条件さえのませることができれば、基本的に彼女のことは野放しにしていた。


 愛情の欠片も無い、仮面すら被れていない夫婦だった。


 そして、祖父において最悪だったのが、義務で生んだ一人息子、すなわちケイたちの父親に対する態度だった。


 品位と人格をマトモにするための躾と称して妻を殴ったその手で、まだ幼く泣きじゃくる息子の胸ぐらをつかみあげる。


「お前は家を継がせるためだけに作った子供だ。価値を示せなければすぐに捨てて次を作る」


「お前はバカ女に似た品位も脳も足らない屑のガキだ。だが、それでもマシな屑だから目をかけてメシをやってるんだ。お前みたいな屑にここまでしてやれる親は他にいない。お前は幸せだ。感謝しろ」


「メソメソ泣くな。女々しい性格をしやがって。そんなんで家を継げると思っているのか。この愚図が。これだからあんな女と子供を作るのは嫌だったんだ。お得意先の余りものだから仕方がなくもらってやったっていうのに……なんだその目は? 俺に逆らうつもりか?」


 罵声に人格否定。


 すぐに出る手足。


 固く子供の肌を打つ棒状の何か。


 このような人間が語る品性とは一体何なのか。


 酷い暴力に晒されたまま勉強と社交と品位を上げるらしい習い事を強制され、ケイたちの父親は少しずつ体を大人へと近づけていく。


 温かい家庭への飢えと両親に対する怨恨、ひいては人間そのものへの憎悪と激しい劣等感を持ったまま成人し、当主の座を継いだ彼は、やがて父の強制した相手と結婚をすることになった。


 件の化け物だ。


 彼女は上流階級の生まれともあって中々に美しい所作をしていたし、決して容姿も悪くなかった。


 加えて、新婚時は化け物じみたヘドロのような本性を隠していたため、慎ましやかに生活し、旦那にも優しく接していた。


 ケイたちの父親も初めは彼女のことが特別好きではなかったが、生まれて初めて得た愛情らしきものに晒されるとあっという間に彼女へ恋愛感情を抱くようになった。


 彼女に好いてもらいたくて高価なプレゼントを贈る。


 嫌われるのが嫌だから何をされても咎めない。


 自分が殴られたら痛い事や怒鳴られたら怖い事を知っているから、可能な限り声は荒げないし暴力も振るわない。


 常に相手のご機嫌伺いをしてしまう。


 そんな彼の弱くて優しい性質を見た彼女は、段々に横柄で浅ましい内面を晒していくようになった。


 奪えるだけ金銭をむしり取り、気分に合わせて彼を詰る、殴る、蹴る。


 夫をありとあらゆる欲、ストレスのはけ口にして平然と嘲笑う。


 そんな彼女は最終的に、遊び過ぎたが故の病気で若くして亡くなった。


 そして、天罰のごとく彼女が病死した時、ケイたちの父親の人格も崩壊した。


 どんなに女性が自身へ非情を強いてきた存在であり、強い怨恨を感じざるを得ない相手だったとしても、彼が妻に依存していた事実や心のよりどころにしていた事実、歪んだ愛情を持っていた事実は覆せないからだ。


 妻が死んで以来、彼は酒浸りになり、勤務時間以外は常に酒を飲むようになった。


 また、妻のヒステリックから身を挺して守っていたはずの実子らにも怨恨を塗りつけるようになってしまった。


 散々、妻にされてきた仕打ちを語ることで子供らの母親の人格を否定し、それをケイたちへの否定へ繋げる。


 時折、お前らは本当に俺の子なのかと疑い、詰ったりもした。


「俺たちは呪われてる。先代も、その前も、その更にずっと前にも、まともなヤツなんて誰一人、存在しなかった。お前たちは俺と同じ屑だ。お前たち全員、誰かに愛されることなんてないまま死んでいく。女には必ず裏切られる。特にケイは俺にそっくりだ。泣くことしかできない、弱々しいクソガキだ」


「早く酒を持ってこい。クソが」


「お前たち全員、惨めに死ぬんだ。俺とおんなじで死ぬんだ。絶対に裏切られる。裏切られちまえばいい」


 酒瓶を壁に投げつけ、何度も同じ怨恨を子供たちに向かって吐き続けた。


 本来、ケイたちの父親が悪い女性と婚約を結んでしまったことと、子どもたちの人生には何の関連性もなくてしかるべきだ。


 両親仲が良いからといって、その子供が熱い恋愛をするとも限らないし、その逆も無い。


 たとえ不仲な両親の下で生まれた子供が悲しい恋愛をしたとしても、やはり、この二つの事象には関連性が無いとみるのが普通だろう。


 だが、カイとケイは物心がついた頃から、二人の兄であるスイに関しては十代の頃から投げつけられている呪いの言葉だ。


 歪んだ思想を植え付けられたまま育った子供たちの心も、健やかに成長してはくれない。


 兄弟で唯一、母親の姿が明確に記憶に残っている長男のスイは実母の影響で女性不審に陥り、他者へ恋愛感情を持つこと自体ができなくなってしまった。


 現在、スイは自然豊かな町はずれの土地に小さなログハウスを構えて、そこで複数匹の動物を飼い、心を癒して満たす生活を続けている。


 街で見かけた温かい家族を羨ましく思うことはあるようだが、自ら幸せな家庭を築こうとは思えないらしい。


 また、次男のカイは女性とまともな恋愛関係を築こうと尽力するものの、ケイから見ても、

「何故、わざわざ、その不誠実で人間を人間とも思っていなさそうな女性の所にいくの?」

 と、首を傾げてしまうような相手へ走ってしまい、惨敗続きだ。


 基本的に捨てられた翌日には自宅や勤務の終わった執務室で酔いつぶれてクダを撒き、ハグ魔になって、無理やり招集したスイやケイに抱きついている。


 なお、スイは大人しく抱きつかせてやっているものの、ケイの方は恥ずかしがって拒否しているようだ。


 そして、そんな二人の兄の在り方や特に自分へアタリが強かった父親の姿を見ながら成長し、誰よりも捻くれた大人になったケイは、歪みの境地へと達してしまい、配偶者を買うという暴挙に出た。

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