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捻くれ者の恋  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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怒り強めの忠告

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本作品は午後6時ごろを目安に毎日更新されます。

よろしければ読みに来てください!

 あっけにとられるケイの表情を盗み見て、カイがイライラとしたまま口の端だけをニタリと持ち上げる。


「だってそうだろ? 従順で馬鹿で主人に媚売って依存していく事でしかできない女に本気になって入れ込んでるんだからよ。でも、確かに奴隷っていいよな。ケイみたいに性奴隷の女を選んで嫁の真似事をさせれば、何にでも使える便利な道具が手に入るわけなんだからよ。気に食わなきゃ、ぶん殴るなり、リサイクルに出すなりすりゃいいんだろ? ストレスも解消できてちょうどいいな。俺も買ってこようかな」


 こめかみに浮かべた青筋をピクピクと痙攣させながら皮肉を並べ立てるような口調で捲し立てる。


「兄さん?」


 毒のたっぷりと染み込んだ重々しい軽口に当てられてピシリと固まったケイが、カイを非道な化け物でも見るかのような怯えた目つきで凝視した。


 視線を受けたカイが再度、舌打ちをする。


「よりにもよって、お前がそんな目で俺を見んのかよ。どの程度の扱いをセレーネとかって女にしてるのか知らねーけどよ、お前がやってることって、結局そういうことだろ? で、しょうがねえから奴隷の女もお前の馬鹿に付き合ってやって、それらしく振舞ってやってんだよ。生活もかかってるしな。腹ん中じゃお前のことを虚仮にして、心の底から気持ちわりぃなって思いながら甘えて、甘えさせてやってんだよ。それを本気にしてどうすんだ? 馬鹿がよ」


 ケッと吐き捨てられたカイの言葉に心臓が大きく跳ね上がる。


 首筋や背中にツッと冷たい汗が流れて体の表面どころか内臓まで冷えた。


 一度はねてからドッドッドと鳴り続けている心臓にまで細かな汗が流れているように感じるのは、カイの言葉が図星だったからだろう。


 最近、浮かれて目を背けていた事実を突きつけられ、ケイは激しく動揺した。


「分かってる」


 セレーネの好意を本気にせぬよう己を律し、惚れてしまわぬように気を付けていたのなど、せいぜい最初の一ヶ月くらいだ。


 カイの理屈を受け入れることなどとっくにできなくなっていたのに、現実を見せつけられるのも厳しい言葉で叱責されるのも嫌で、嘘を吐いた。


 それを見逃すほど、カイは優しくない。


 不機嫌に歪んだカイの唇がグニャリと歪んで開く。


「分かってないだろ。大体お前、優しくて自分の言うことを聞いてくれて閉じ込めて置けるから奴隷を妻にするんだって言ってたじゃねえか。そんな破綻した感覚を持ってる奴が、よくもまあ恥ずかしげもなく色恋を語れるよな。本当、馬鹿じゃねえの? 自分の弟だけど、馬鹿すぎて言葉がそれ以外出てこねえんだわ」


 ため息交じりに言葉を出して額を押さえ、イライラと舌打ちを繰り返す。


 カイを中心に出される不穏でイラついた空気が辺りを支配しており、惚気から生まれた穏やかな空気など霧散してしまっている。


 やけに威圧的な空気が小心者の口を封じた。


「うるさいよ」


 黙りこくってカイの詰りを受けていたケイがボソッと呟く。


「あ?」


 カイがとても育ちのいい坊ちゃんとは思えない態度で凄み、ケイに圧をかける。

 だが、意外と気の強いケイが負けずに真っ赤な目元でギッとカイを睨み返した。


「いいから、黙って。それで、出てって」


 ハッキリと大きな声で告げ、ソファの上で股を開いてドッカリと座り込むカイを睨み続ける。


 威圧的な瞳と泣きそうになりながらも意思の変わらない怒りの瞳が真直ぐにぶつかって、しばし硬直状態になる。


 緊迫した空気を動かしたのはカイの方だった。


 カイが聞こえるように大きく舌打ちをしてソファから立ち上がる。


 それからツカツカと不機嫌にドアの方へ向かって行ったのだが、扉を開ける前に立ち止まってクルリとケイの方を振り返った。


「俺は計三回、女に裏切られてる。全部浮気だ」


 何の話だとケイが訝しげな表情になる。

 だが、先ほどまでのイライラとした態度とは少し違い、カイの目つきは何処か真剣だった。


「全員、俺なりに好きだったよ。綺麗で可愛くて……喜ぶ顔が見たかったからさ、欲しいって言われた物は全部買い与えて、できることなら何でもしてやった。ものだけじゃねえ。優しくしてやった。気を遣ってきた。本気だった。で、その結果が浮気だ。もっと一緒にいてほしかった、愛して欲しかったって口をそろえて言うんだよ。何様なんだろうな。俺にどうしろって言いたかったんだろうな」


 クソッ、と呻いて拳の裏を扉に叩きつける。


 ゴンと鈍い音がしたが、傷を負ったのは固い板ではなく柔らかな皮膚の方だろう。


 カイが小さく舌打ちをする。


 ツラツラと捲し立てた言葉は何処か落ち込んでいて、先ほどまでに比べると随分と静かな雰囲気だったのだが、地を這う声そのものにはタップリと恨みが染み込んでいて重々しい。


 かえってゾクゾクとした怒りが伝わってきて、カイの冷たい瞳をまともに見てしまったケイはブルリと背を震わせた。


「真っ当な女を相手にして、できるだけ大事にして、それでもこんな目に遭ってる。性奴隷を買うなんて真似をした奴が良い恋愛なんかできるかよ。自惚れて勘違いしてんじゃねえよ、このカスが。どうせ最後は裏切られる。俺たちがガキの頃から吐き捨てられてきた呪いの言葉と血筋、忘れるんじゃねえぞ」


 想像以上にカイの言葉が心臓に突き刺さったのは、怒る声の奥底に自分を心配するような忠告の響きがあったからだろうか。


 カイが出て行った後も、言葉だけはケイの脳に居座って動かなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白すぎですよ!週間ランキングに載っている作品と文章構成能力全然変わらないのにこのポイントはおかしい! 頑張ってください!!
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