この気持ちは誰にも奪えない
会場ではパーティーが続いている。
リネットは賓客の貴族達の接待をし、令嬢達のノールズ王国産シルクでドレスが作りたいと言う要望に仕立て屋を紹介し、使われている野菜やお茶,ワイン等自国の最高級品を使って貴族達の購買意欲を刺激して営業活動も完璧にこなした。
アンディとベティは夫婦になり、本当に幸せそうに皇帝達と話をしている。
ベティは甘え上手で早速皇后に赤ちゃんの身につける肌着の専門店を教えてもらって、帝国に里帰りの際に一緒に出かける約束を交わしていた。もう安心だ。
一通り目処がつきリネットは会場の隅っこにある人が来ないテラスに入り休憩をしていた。
「リネット、少し話しませんか?」
リネットは突然声をかけられて驚いてテラスの入り口を見た。
クラウディアが入ってきた。
嫌です!!と言えず「クラウディア様、どうぞ」と言って椅子を勧めた。
クラウディアは美しい作法で椅子に腰をかけてリネットを見た。
「クラウディア様、いかがされましたか?」リネットはクラウディアを見て言った。
「リネット、カミルをとらないで」
クラウディアは突然核心を突いてきた。
「カミルとは友達で家族で、でも恋人ではありません。クラウディア様もご存じのはずです」リネットは答えた。
「ウフフ、分かっています。カミルと婚約し、結婚するのは私です」クラウディアは言った。
そんなことわかっている。なぜわざわざそんな事を言うの?リネットは嫌な気持ちになった。
「そうです。クラウディア様であって、私ではありません。だからとるなどありません。」リネットは言った。
「でもリネットはカミルが好きでしょ?」クラウディアは言った。
何が言いたいの?リネットはどう答えようかと考えた。
「私の気持ちがどうであれ、それは関係ないことではありませんか?」
「そうかしら?だって家族のふりしてリネットはずっとカミルを好きだったのでしょう?カミルの優しさは恋愛じゃないって知っててもそれでも彼にしがみついているのはルール違反じゃないかしら?」
クラウディアは微笑みながら言った。
彼の優しさにしがみつく?それができるならどれほどよかったか。
それが出来たらここには居なかった。
「クラウディア様、私は自分からカミルに助けてと言った事は一度もありません。何故だかわかりますか?カミルは自分をかえりみず助けてくれる人だからです。だけど私の立場や環境,境遇で助けてと言えばカミルの命に直結するから絶対に言いませんでした。」
リネットは勝手なことをいうクラウディアに対し心底怒りを感じたが、冷静に話をした。
「けれどリネット、先ほどもカミルに助けられたじゃない?」クラウディアは言った。
「あ、えっとフィル公爵様の事でしょうか?」
「そう、あの人に言い寄られていた時カミルがリネットを助けたわ」クラウディアは言った。
「クラウディア様、先程はカミルの判断で助けてくれました。カミルがそうしてくれる事もダメなのでしょうか?私はカミルに助けられてはいけないのでしょうか?」リネットは聞いた。
「私にとって不愉快です」クラウディアが言った。
「クラウディア様、クラウディア様はカミルが好きですか?」リネットは聞いた。
「ええ、愛しています。カミルは誰よりも強く優しく私を愛してくれるステキな人です」
「そんなカミルと結婚できるのにどうして私を気にするのでしょうか?私はこんな性格で、こんな容姿で、クラウディア様と比べものにならないほどダメな人間です。気にする価値さえありません」リネットは言った。
「でもね、リネット、私はリネットがカミルを好きなことが嫌なの。諦めているとは思うけど好きで居てほしくない。」
クラウディアは言った。
リネットは自分がカミルを好きだという気持ちもダメだと言われたら自分に何も無くなってしまう。
これだけは譲れない。
自分の心は自分の意思で自分の自由でいたい。
「クラウディア様、私の心は私のもの。たとえ殺されても私から奪う事はできません。」
リネットは毅然とした態度で言った。
「私はリネットを認めません。カミルも絶対に渡しません」クラウディアは言った。
「クラウディア様、私もカミルも物ではありません。自分の意思で考え動いています。今クラウディア様の婚約者はカミルです。それはカミルが選んだこと。それが答えです。失礼します」リネットはそう言ってテラスから出て行った。




