残酷な質問
翌日リネットはお茶会に行かないことにした。
カミルにはまた明日と言ったが、このままじゃダメだと思ったからだ。
何がダメなのかと言えば、カミルに対する想いが加速して自分でこの気持ち制御することが難しくなるほど、彼のことが好きだというこの気持ちだ。
もっと近くにいたい、自分だけを見てほしい、愛して欲しい、クラウディアと結婚しないで欲しい。
止まる事を知らない罪深い欲求が底なしの沼の様に湧いてくる。これ以上カミルの近くにいたら自分を制御できないかもしれない。そうなるとノールズ王国まで巻き込んで兄アンディの二の舞を演じてしまう。
そうなる前にまずリネットはただのリネットに戻ることを考えはじめた。背負うものを無くし、自由になりたとえカミルに会えなくなっても彼を心の中で愛し続けることは許される。
兄のアンディも王として自覚しはじめ国も安定して来た。リネットの役目はこれから減る一方だ。少しずつ自由奔放さを演じて、あの姫に任せるのは不安だと思わせて、そっと出てゆこう。
手始めにお茶会を欠席しよう。そして今まで住んでいたけれど自由に行動できなかったこの帝国の街を見てみよう。
「お兄様、私は今日お茶会に行きません。ベティをエスコートして行って下さい」
リネットはアンディに言った。
「リネット?急にどうした?」
「特に,,もともと貴族の集まりは苦手ですし、私、一度この帝国の街を見てみたい、歩いてみたいのです。明日にはノールズに戻るから今日しかありません。」
「リネット?何を言っているんだ?すぐにリネットとバレるぞ!」
「お兄様、私はメイドだったのよ。その格好で行くから。ではごきげんよう」リネットはアンディに有無も言わせず行ってしまった。
「おや?今日はリネット姫は来ていないのか?」アンディはベティをエスコートし、皇帝の右側の席に着いた。
左側にはすでにカミルとクラウディアがいる。カミルはアンディとベティを見た。
「はい、申し訳ございません、妹は、、少し変わったとこがありまして、、帝国の街を見ると言って出て行ってしまいました。」
「街を見る?みんなリネット姫だと気がつくのではないか?」皇帝が言った。
「それが、なんとも言いづらいのですが、、妹はメイドの格好をして街に行ってしまいました。もちろん護衛の騎士は近くにいますが、、、」アンディは言いづらそうに言った。
「なんと!リネット姫は本当に自由な娘だな!その行動力と大胆さ、物怖じしないところは皇帝の素質があるぞ、あの姫は底しれない力を持っている。私が若かったら妻にしたい器だな」
「なんと恐れ多い、ご冗談はそこまでになさってくださいませ。。」アンディは驚いた。リネットは皇帝に一目を置かれていた。
クラウディアは一瞬眉をひそめた。カミルは表情を変えず聞いていた。しかしその瞳は何かを考えている。
「カミルはリネット姫と家族の様な関係だろう?彼女は昔からそうなのか?」皇帝はカミルに聞いた。
「……リネットは、、なんでも一人で決めてしまう性格で昔からハラハラさせられています。彼女のことで安心したことは一度もありません」カミルは言った。
「そんな自由な姫は今頃街で楽しんでいるかな?」皇帝は笑った。
「ところでカミル達はいつ結婚するのだ?」皇帝は聞いた。
「結婚、、ですか?」カミルが言った。
「カミル、クラウディアの様な素晴らしい姫を待たせるのは罪だぞ、カミルも結婚して本当の幸せと家族をつくれ。二人の結婚を許す。」皇帝は言った。
「クラウディア、早く結婚したいだろ?カミルはモテるから不安な生活に終わりが来る様祈ってるよ」皇帝は言った。
「ありがとうございます」クラウディアは微笑みながら皇帝に言った。
カミルは黙っていた。
ベティはカミルを見てクラウディアを見てアンディに小声で言った。「リネット今日いなくてよかった。。」
リネットはメイドの格好をして帝国の街を見て回っていた。活気があり流通している野菜は皆新鮮で見たことのない野菜もあった。
ノールズ王国の麦も流通している。これはカーティス公爵が買取り流通させてくれた。リネットは感謝をした。
久しぶりの自由をリネットは堪能している。身分なんてなくていい。
私はこんな生活が本当は大好き。生きているって感じられる。
私は私であり続けるためにもう少し戦わなきゃいけない。リネットは街を歩きながらいろいろな事を考えた。ノールズ王国がもっと成長するために必要な事、国民が笑顔で過ごせるようにやらなければならない事、まだまだ沢山課題がある。
アンディと相談しなければ。
リネットは帝国の城が見渡せる丘の上にやってきた。ここは噂に聞いていたが行ったことがなく一度見てみたいと思っていた。
ここから見える景色は夕方が美しいと聞いた。リネットはベンチに腰をかけ色々と考えていた。
少し疲れたので目を瞑って大きく深呼吸した。その後眠ってしまった。
「あれ?」
リネットは目が覚めた。いつのまにか眠ってしまっていた。夕日を見るはずがいまは満天の星。。。
「あーーーしまった!!!眠ってしまった!帰らなきゃ!」リネットは飛び起きて気がついた。
誰かにもたれかかって眠っていた。
「あ、、す、すみません、、いつのまにか眠ってしまって、、あの、、申し訳ありません。。。」
リネットはフードを被って座っていた男性に謝った。
「リネット、お前は本当に、、、、」
「……カミル?」
リネットは驚いた。リネットがもたれかかっていた男性はカミルだった。
「なんでカミルが、、?」リネットは驚いている。
「リネット、お前は本当に、、本当に俺を安心させないな。こんなところで眠る姫は初めて見たよ。」
「カミル、私は今メイドなの。」リネットは言った。
「あははは、確かにそうだな。懐かしい。俺はメイドのお前も気に入っている」
「メイドの私も?それ以外何かあった?」
「リネット、お前はノールズ王国の姫だ」
「カミル、姫の私も気に入っているの?何か違う?」
「そうだな、何も違わない。リネットはリネットだからな」そう言ってカミルはリネットの頭を撫でた。
「カミル、なぜここにいるの?」リネットは不思議に思い聞いた。
「リネットがお茶会にこなかったから探しに来た」
「なぜ?」リネットは聞いた。
「理由が必要なのか?」
「……わからない。けど、カミルが昔みたいにそばにいてくれる環境に慣れたくない」リネットは言った。
「なぜ?」カミルは聞いた。
「私には私が生きるべき場所があるからカミルの近くにいると寂しくなっちゃうしね。それにクラウディア様に悪いわ」
「リネット、俺がクラウディアと結婚したら、、、寂しいか?」
カミルは急にそんな事を言った。
リネットはなんて残酷なことをカミルは言うのだろうとショックを受けた。
寂しい?そんな簡単な感情じゃない。でもその感情は表に出す事は出来ない。出来るわけがない。
そう思って今まで来たのに今さらそれをカミルに言うの?寂しいです、悲しいです。結婚しないでって。
言えるわけないじゃない。口が裂けても言えないよ。
「カミルってバカ? 話にならないわ」
リネットは怒ったふりをして立ち上がり歩いて丘を降りていった。丘を降りた先に思いもよらないひとが立っていた。
クラウディアだ。
リネットはすぐにフードを脱ぎクラウディアに挨拶をした。
「クラウディア様、、リネットでございます。」
「リネット、久しぶりですね。」クラウディアは輝く笑顔で言った。
「はい、大変ご無沙汰を、、」リネットは言った。
「クラウディア?なぜここにいる?」カミルがクラウディアに気がついた。