女王リネット
リネットは辺境貴族のバリー・リプトン伯爵の家でメイドをしていた。
奴隷市場に連れて行かれる途中、前方を走っていた馬車が止まり具合の悪くなったバリ伯爵の応急手当てをしたリネットはそれが縁でバリー伯爵に買われメイドになった。
バリー伯爵は一人暮らしで息子や娘は帝都に出て行ってしまい帰ってくることがなかった。
バリー伯爵は持病がありほとんど邸宅ですごしているが、子供達は父親の面倒を見る気がない。
邸宅に帰ってくるのは数年に一度だけだ。彼の奥さんはもういない。二年前に亡くなった。
バリー伯爵は偏屈な難しい人間だが、根は悪い人ではなかった。
リネットはこの哀れな男の面倒を見ることにした。リネットに自由な時間は沢山あったが、ここを出ることはしなかった。
カーティス公爵が心配していると思うと申し訳なく思ったが運命の歯車が回ってしまいもう戻ることはできないと思った。
なぜならカミルがクラウディアと婚約するという噂が新聞に載っていた。
それほどまでにカミルは有名になっていた。リネットはもう二度とカミルに会えないと思った。
カミルは遠い人になってしまった。万が一会えるならばリネットがノールズ王国に戻り姫になりどこぞの国のパーティーやイベントに呼ばれた時くらいだ。
そんな風に再会してもカミルの隣にはクラウディアがいる。
そして今ノールズ王国は第一皇子アンディの失態でもはや帝国の敵国に成り下がっている。
アンディはカミルの彼女であるクラウディアにしつこく付き纏い問題を起こし学園を退学させられたと新聞に載っていた。
怒った父であるバーナード王はアンディを謹慎処分にしたが、それを不服に思ったアンディは父であるバーナード王を拘束し幽閉した。それにより国が乱れ今は他国との国交もままならない状態になっていると書いてあった。
しかしリネットには関係のないこと。リネットはバリー伯爵のメイドとして変わらず働いていた。
それから一年半が経った頃、バリー伯爵が急死した。
遺言が残されており彼の全ての財産をリネットが相続してしまったのだ。
怒り狂った息子と娘が来たが、どうすることも出来なかった。
その為娘は何度もリネットを殺そうとした。リネットはすぐに放棄し、全てリネットがいた孤児院に寄付をして辺境を出て行った。
そのタイミングでリネットを探すノールズ王国の人間に見つかり国に連れ戻されてしまった。
リネットは十数年ぶりに帰ったノールズ王国がこんなに悲惨な国になっているとは想像もできなかった。
第一皇子は酒に溺れ政治もまともに出来ない状況だったが、父であるバーナードを幽閉したままでその生死は不明だった。
こんなまともではない国に突然戻され、父と兄の代わりに国の代表として立つように家臣達から命をかけてお願いされ、リネットは大きな決断をした。
今まで逃げまわった人生だったが、初めて立ち向かおうと思った。
この国に住む国民のために自分の人生をかけても悔いはない。
どうせ死ぬだけの人生。
本当に欲しいものは絶対に手に入らない。
きっとこれからもずっと。
幼い頃から憧れて見つめ続けてきたカミルとはきっともう会えない。
この国はカミルの帝国と、クラウディアの王国に今は敵国と認定され国交も断絶し、それにならい他国も国交を断絶しほぼ孤立した国になってしまっている。
だけどこの国の人間として国民の生活を守るために自分が立たなければいけない。
リネットはそのために命をかけることにした。
まずリネットは城にある不要な贅沢品を全て売ってしまった。
そしてアンディを強制的に病院に入院させアルコール中毒を治すことにした。
父である王はリネットが戻った時にはもうすでに亡くなっていたので簡素な葬式をし埋葬された。
リネットは城の贅沢品を売ったお金で沢山の種を買った。
その種は麦だ。
ノールズ王国は麦の栽培に適した地域で、二期作が出来る。
その上良質な麦が取れるので比較的高く売買出来る。それに食糧にもなる。
まずは自給自足できる国を作ることにした。
リネットも姫でありながら国民と共に働きその姿を見た国民がリネットと共に働きノールズ王国の結束は急激に強くなった。
一年も立たぬうちにノールズ王国の麦は高額で他国にも売買されるようになった。
その利益でリネットはすぐに貯水工事を始め、田畑にスムーズに水が行き届くようになり、農作物の栽培が爆発的に増えて、その利益も増えて行った。
そして衛生面でも下水工事を行い乳児の死亡率を格段に下げ人口も増えて行った。
リネットのその手腕をノールズ王国の貴族達は褒め称え、尊敬の念を抱くようになり政治も安定して行った。
リネットは誰からも愛される女王になった。