一目会いたい
それから一年半、カミルは学園を首席で卒業し、アレン,エルマ,ベティ達と帝国に戻ってきた。
船着場にカミルを迎えにきたのはカーティス公爵だけだった。
「お祖父様ただいま帰りました。長い間ありがとうございました。」
カミルはカーティス公爵に挨拶をした。
「ところでリネットは?」
カミルはリネットの姿がないことが気になった。
リネットが学園に来て、あんな別れ方をした後、何度か手紙を書いたが返事がなかった。
カミルはカーティス公爵にも手紙でリネットのことを書いたが、忙しいが元気だと書いてあったので安心していたが,嫌な予感がした。
「カミル、とりあえず帰ろう。」
カーティス公爵は黙ったまま馬車に乗り二人は邸宅に帰った。
「お祖父様、リネットはどこですか?」
カミルは邸宅に入ってすぐに聞いた。
「カミル、、、リネットはいなくなってしまった。。」
カーティス公爵は力なく言った。
「え?リネットが居なくなった?!」
カミルは血の気が引いていくのを感じた。
「いつからいないんですか?自分で出て行ったんですか?!」
カミルは聞いた。
「あの日、学園で別れたあの日からだ。。」
「うそだ、、、一年以上も前にですか?!なぜ黙っていたんですか?!」
カミルはカーティス公爵を責めた。
「すまない、カミルはやるべきことがあるから言えなかった」
「そんなもの、、リネットは幼い頃から一緒にいた家族なんです!なぜ?!!」
「カミル、聞いてくれ、今わかっていることを話す」
そう言ってカーティス公爵は執務室に入りカミルに話をしはじめた。
「リネットは他の令嬢と間違えられて拉致された。船で隣の部屋の令嬢と間違えられて拉致され、奴隷市場に売られた。そこで辺境の貴族のメイドとして買われた。リネットの居場所もわかっておる」
「奴隷市場、、、リネット、、、」
「だけどな、カミル、リネットは自分の意思で帰ってこないのもある。メイドだったら逃げることができるがそれをしていないのだ。リネットはいつもここから出ることを考えていたからな。。」
「……なぜです?」
「カミル、先月手紙でメイシー国のクラウディア姫と学園を卒業したら婚約したいと書いていたな。わしは反対しない。お前が幸せになることが一番だと思っておる。リネットもワシと同じ気持ちだ。だがな、血もつながっていないリネットがお前のそばにいることは良くないのだ。それに、、今まで言えなかったがリネットはノールズ王国の姫だ」
「リネットが。。姫だと?!」
「カミル、薄々リネットが普通の人間ではないと気がついていただろう。。」
「メイドならまだしも、姫がいるなんてことになると世界を揺るがしてしまう。リネットはここに迷惑をかけたくないといつも思っていたんじゃ。だから本当はすぐにでも連れ戻したかったが、、、踏み込めないのだ」
カミルは頭の中が真っ白になった。
「リネットが、、ノールズ王国の、、ハッ、、ノールズ王国、、アンディの妹?!」
「そうだ、腹違いで第一王子はリネットの顔を知らない。リネットは幼い頃から後継者争いに巻き込まれて誘拐され、その後保護されてお前達に出会ったのだ。」
「嘘だろ、、リネット、、なぜ、どうして言ってくれなかった。。。」
「カミル、リネットはお前にこれ以上重たいもの背負わせたくないと思っていたんだ。そういう子だ。」
カミルは部屋に戻り今聞いた衝撃的な事実を受け止められないでいた。
「なぜ、、リネットはなぜ言ってくれなかった。相談してくれなかった。。俺はそんなに頼りなかったのか?家族だと思っていたのに、、どうして、、、。」
カミルはリネットに信頼されていなかったと思い衝撃を受けていた。
「リネットは俺を信じてくれていなかったのか?お祖父様は違うと言った。信じているからこそ言えなかった?!」
「リネット、、」
カミルはすぐにその辺境貴族の屋敷に行こうと思いカーティス公爵に言った。
「お祖父様、リネットに会いに行きたいとおもいます。会えなくても一目元気な姿が見れたら、、、」
「……ダメだ。カミルそれはダメだ。」
「何故ですか?!」
「カミル、お前は既に帝国の中心的存在になっている。お前はもう自由に行動できるほど世間はお前を放っておかない。……それに、、一週間後クラウディア姫がいらっしゃるだろ?姫が滞在する別宅の準備は出来ている。そんな時にお前が辺境まで行ったら二週間は帰ってこれないのだぞ?」
カーティス公爵は静かに言った。
「お祖父様、、それでも俺はリネットに会いたい、、今すぐに行きたいのです!」
カミルは諦めない。
「カミル!!お前のその中途半端な想いがリネットを傷つけて追い詰めていることがわからないのか?!一つを得るために一つは手放さねばならない!それが現実なんだ!!」
「俺がリネットを追い詰めている?、、、」
「カミル、リネットは自分でここに帰らないと決めたんだ。我々ができることはもう遠くから見守ること以外ないのだ。たとえリネットがノールズ王国に連れ戻されても我々に出来ることは見守ること以外ない。それがルークラフト公爵家の立場であり、お前の立場なんだ」
カミルは拳を握りしめた。
今の自分の立場が自分の思いと別のところにある。
リネットを見守ることしか出来ない?今リネットがノールズ王国に連れ戻されていても、目の前で拉致されても見守ることしか出来ない?
そんな未来を望んだことは一度も無い。
ただ三人で以前のように暮らせる事を望んでもそれも望むことができない?
カミルは黙って部屋に戻った。
ただ一目会いたいだけなのに許されない。
そもそも、もうずっと前にリネットはいなくなっていた。
それを知らずに平穏に過ごしていた自分が一番許せない。。。