妹と言われ
それから毎週シンディは邸宅に来るようになった。邸宅に来る時には必ずカーティス公爵に手土産とお花を持ってきた。メイド達にもやさしく本当に出来た令嬢だった。
リネットはこんな令嬢がカミルの妻としてこのルークラフト公爵家に入れば皆んな幸せになれると思っていた。カミルが令嬢を大切にしていることも伝わって来た。
いつもシルビアの事を最優先にするカミルは穏やかな幸せを手に入れていた。時々抱きしめ合う二人や、キスをして見つめ合うふたりをリネットは見かけた。正直辛い、何度も部屋で泣いた。だけどリネットは心からカミルの幸せが続くことを願った。カミルの幸せが自分の幸せだと思っている。自分がカミルに出来ることは幸せを祈る以外無かった。
カーティス公爵は二人について特に何も言わなかった。いつも通りリネットを可愛がり大切にしてくれた。ただ、リネットは二人が結婚をしてもここにいて良いのか不安になった。
事情を知らない二人がもしリネットにお使いを頼んだり、何か用事を頼んでもリネットは外に行くことが出来ない。出てしまったらもうここには戻れないと確信している。でも秘密を打ち明ける勇気もなく、打ち明けても迷惑でしかない現実を考えると、カーティス公爵にも多大な負担をかけているこの現実が辛かった。
カーティス公爵はそんなリネットの心を知っていた。リネットを安心させるためにいつも通りリネットを大切にしているが、気になる事があった。シンディの本音がカーティス公爵に見えてこない部分があった。それはリネットの事だ。シンディはカミルがリネットを妹のように可愛がっていると知っているのに一度もリネットにお土産は無かった。
それに、一緒にお茶を飲むことも上手く避けていた。
カーティス公爵はアーサーにシンディの動向に注意するよう伝えた。アーサーはリネットがノールズ王国の姫だとカーティス公爵から知らされており、秘密裏にリネットをさまざまな要因から守っている。カーティス公爵が最も信用する側近だ。
ある日リネットはカーティス公爵に呼ばれ貴賓室に行った。そこにはカミルとシンディがいた。リネットは挨拶をしカーティス公爵の指示を待った。カーティス公爵は微笑んでリネットに隣に座るように言った。リネットは慌ててその誘いを辞退した。
その瞬間シンディは一瞬だが険しい目をした事をカーティス公爵は見逃さなかった。その真意はまだわからなかったが、リネットを嫌がっている事だけは確認できた。カーティス公爵はリネットに散歩に行こうと提案し、一緒に部屋を出ていった。カミルはなんとなく試されたと感じシンディを見た。シンディは優しくカミルに微笑んだ。
カーティス公爵と庭を歩いている時に綿毛を見つけた。
リネットはそれを見て「カーティス様、私は幼い頃城から見える街の中で子供達がこの綿毛を持って走っている姿を見て本当に羨ましく思っていました。あの子達は自由に何処でもいける。その手の綿毛も自由に行ける。その頃の私は自由なんてありませんでした。手には剣を持たされ、女の子だから万が一の時は戦いダメだったら自害するように、七歳の私はそう言われて育ちました。」
「リネット、、」「だから今は本当に幸せで、でもきっと私の本当に住まなければいけない世界は、、ここでは無いと、思っています。」「リネット、ワシはそんなことは絶対にさせないし、リネットがそれを選ぶことは許さんぞ」
「ありがとうございます、これはただの思い出話ですから気になさらないで!!」そう言ってリネットは綿毛を摘んで手に持って優しく振った。沢山の種が自由に空に登っていった。
カーティス公爵は何かがあったらリネットがここを出て行ってしまうと感じた。