カミルの恋人
ある日カミルは邸宅に美しい令嬢を連れてきた。今までそんなことは一度もなかったのでリネットはショックを受けた。でも仕方がないこと。リネットの気持ちなんて届く訳がないし、見てもらえるなんて考えられない。この思いは誰にも言わずに胸の奥に。いつもそう思っている。
カミルとその令嬢はカーティス公爵に挨拶するために貴賓室で待っている。カーティス公爵はリネットに「お茶は違うメイドに任せて、ワシの部屋のカーテンを違う色に替えておくれ」と言ってくれた。内心ホッとした。心の準備ができていない状態で会いたくなかった。カーティス公爵の部屋に入りカーテンを外しアーサー執事に聞いた。
「カーティス公爵様はリネット様がお選びになった色で良いかと思います。」リネットはそう言われたので他のメイドに案内をされてカーテンが保管されている倉庫に入った。色々と見ていたがペパーミントグリーンの優しい色が目に飛び込んできた。「あ、これが良い」リネットはその色のカーテンを持ってカーティス公爵の部屋に戻りカーテンを付けていった。部屋がパッと明るくなったような気がした。
「ああ、きっとこのカーテンはここに来たかったのね」そう呟いて振り向いたらカーティス公爵がいた。「あ、カーティス様、この色はいかがでしょうか、、」リネットは聞いた。「……」カーティス公爵は黙っている。「あ、もしお気に召さなければすぐに替えますから」そう言ってカーテンを外そうとしたら「リネット、お前は本当に、、」カーティス公爵がそう言いながらリネットを抱きしめた。
「カーティス様?」リネットは訳がわからず戸惑っていると「リネット、このカーテンの色は、死んだ息子とカミルの母親がワシに送ってくれたものでな、ずっと辛くて使えなかったんじゃ、でも今日リネットがつけてくれた時に、あの二人の気持ちがわかったんじゃ。」「私は余計なことをしたのでは、、、」
「いいや違う、昔二人と一度だけ一緒に出かけたことがあってな、その時まだ春先で馬車から見た農地一面がこの色に染まっておってな、本当に美しくて忘れらてなかったんじゃ。それから少し後に二人からこのカーテンをもらったんだが、その後色々とあって、、家を出てゆかれてな、もう見たくないと思っていたんじゃが、今ならわかるんじゃ、あの時に感じたあの気持ちはずっと永遠に残っている、その永遠をワシに贈りたかったんだと。」
「カーティス様、私はこのカーテンがここに来たいって言っているように感じました。きっとカミルのご両親も同じ気持ちだったと信じています」リネットはこのカーテンがこの色が大好きになった。
リネットは気持ちが暖かくなったような気がしてそっとカーティス公爵の部屋から出ていった。倉庫の鍵を閉めようと階段を降りたところでカミルと令嬢に会ってしまった。
「リネット!」カミルはリネットを呼び、隣の令嬢を紹介した。「リネット、こちらはシンディー=アガター令嬢だ。」「お初にお目にかかります、私メイドのリネットと申します。シンディ様どうぞよろしくお願い申し上げます」リネットは慌てて挨拶をした。「あなたがリネット?カミル様から聞いておりました。可愛い妹がいると」シンディは笑顔で言った。
妹、、身体中の血が凍るような衝撃を受けた。「妹、、だなんて滅相もありません、私はメイドの身分ですから身に余るお言葉でございます」リネットは辛くなった。自分がいるせいでカミルがリネットを説明しなくてはいけなくなるだなんて、、。そして妹といわれ、、、。。泣きたくなった。。
「リネット、噂通りの子ね、カミル様が心配する気持ちも分かりますわ」「ああ、なんと言ってもお祖父様のお気に入りでもあるからな。」「いえ、、」リネットは返事に困ってきた。
「リネット、これからもシンディはここにくるから宜しく。俺たち今日お祖父様にも許可を貰ったんだ。」「まあ!それは良かったですね、シンディ様、不慣れな点はございますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」リネットは丁重に挨拶をし下がった。
倉庫に鍵をかけてリネットは部屋に戻った。カミルの新しい恋人はとても綺麗な人だった。落ち着いていて包容力がありそうで、邸宅に連れて来てカーティス公爵に許可を得る位だから本気で付き合おうとしている人なんだと思った。胸が苦しくなり涙が出てきた。馬鹿なリネット、分かっていた事じゃない。。こぼれ落ちる涙を拭って気持ちを入れ替える為に深呼吸をした。
……カミルは私のことを妹と表現した。妹か。。妹のように大事に思ってくれているのは喜ばしいこと,妹にもなれない人いるもんね、、。贅沢よ,私はカミルと一緒に住んでいるし。これ以上望んだらいけないわ。リネットはそう自分に言い聞かせた。