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あのひと

作者: shiro
掲載日:2023/03/10



「さよなら」







当たり前に返事はなかった。

二度と会うことのないその顔に背を向けて、ぱたり、と戸を閉める。


長い間、一緒に過ごしてきたと思う。

誰よりもあなたのそばにいたと思う。

だからこそ、わかっていた。




「もう、諦めてるから」



乾いた笑顔で何度そう言ってきただろう。

いろいろ言ってくる周りに対して、だけど何よりも、自分に言い聞かせるために。







今日の今日まで、本当に最後の最後まで、あなたの心にはあのひとがいた。

私を大切にしてくれた、あなた。

だけど私ではどうにも、どうしても届かない場所に、あのひとがいる。


広くはない、だけど心の中のいちばんいちばん、あったかくて大切な場所に。


「……っ、」


ぐしゃりと前髪ごと涙を潰して俯いた。

悔しい、悲しい、寂しい、辛い、どうして?、だけどどうしようもなく大好きで離れられなくて、ずっとずっとそばにいた。いさせてもらった。

それほどに私は、あなたが大好きだったんだ。



だからわかるよ。

いやでもわかるんだ。


溢れてくる涙もそのままに、空を仰ぐ。


大好きな人がいるという幸せ。

どうしようもなく心の中をその人が占めてしまう嬉しさと切なさ。


あなたもそれを、知っていたんだ。

大好きなあなたにそんな人がいることが、あなたも同じ気持ちを知っているんだという共感が、この期に及んで私を喜ばせる。


「ばかみたい、」


震える喉も、到底美しくない嗚咽も全部思い切り吐き出しながら前を向く。

そんな綱渡りのような感情の中、私は今日までここにいたのだ。

歪みながら、なぜだか少し、口角が上がっていく。




別れの後なのに、泣き笑ってぐちゃぐちゃな私の顔は、一体どんなふうに見えるのか。

わからないけど、いっそ気持ちが良かった。こんなにもぐちゃぐちゃで、こんなにも渦巻いて、こんなにも醜い感情をそのまま貼り付けたような顔、きっと頭のおかしな奴に見えるに違いない。




ざまぁみろ、


何に対してなのか、誰に対してなのかもわからない。

口元だけでその言葉を空気に乗せて、その場でただ、蹲った。





















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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公のぐちゃぐちゃになった心が強くこちらに伝わってきて、とてもせつない気持ちになりました。 どうやっても相手のいちばんになれない。それってどうしようもなくて、本当につらいことですよね。 主…
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