2022/12/8_9:57:56
ひとしきり飲むと、彼女は緩い動きでペットボトルを腰の位置まで落とした。
時間も時間だったのでできれば急ぎたい。できれば。別に言葉を交わした訳でもないが、2人で歩き出した。教室に着くや否や、ドアを通行止めにする形で、柑一生が挨拶をしてきた。彼は三上蘭に好意に近しいものを抱いているのだろう。視線が俺からずれて隣にいる三上まで落とされた。三上は柑の熱烈な視線に気づく様子はなく、隙間をすり抜けて行った。
柑は渋々、という感じでドアから離れ、自分のいる精神年齢3歳ぐらいのグループの会話の登場人物に自分をねじ込んでいた。
チャイムも着席と同時に、学校に鳴り響いた。
夕方。
なんとなく学校の空気が緩くなる時間帯、放課後の予定について意気揚々と話すクラスメートがごった返す中、三上蘭は猫のように人混みを通り抜け、素早くローファーを履いて校舎を後にようとしているところだった。
三上の後ろに静かについていくように俺も後に続いた。
学校が校風に自由を掲げているので、制服はあるがアウターは自由だった。10mほど先にいる三上は、黒いロングコートをふわふわと揺らしながら歩いていた。
歩く様子はまるで地に足がついていないみたいで、おぼつかない足取りが見ていて不安感を煽ってくる。
都心から少し離れた所なので静かな住宅街が続いて見栄えもしない道を毎日歩くのは退屈でもある。ただ中央線に少しお世話になれば都心へ行けるので、立地はいいとつくづく思った。
そのとき、三上が後ろを振り返った。気配に気付き、電柱から三上へと視線が移る
あ、失敗
三上がこちらへ近付いてきた気がする。もうみてないしわからないけど。
ツカツカ。ローファーとアスファルトがぶつかり合う音が聞こえている。近づきながら。
「春馬、どうしてついてきてるの?」