表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/79

第76話 日記

「……本当に良いのか?」


 宝物庫のさらに奥にある部屋の中に、日向王国初代国王の残した日記が展示されていた。

 その日記を指先、凛久は蒼へと問いかける。


「あぁ、約束通り読んでもらって構わない」


 凛久は、蒼と頼吉の跡目争いに参加することで、初代国王が残した日記を読ませてもらうことを約束していた。

 その約束を守るため、蒼は凛久をこの部屋へと案内した。

 先日、現国王で父の吉護も家臣のいる場で凛久に許可を出していたため、貴重品ばかりが置かれている宝物庫にすんなりと入れたのだ。


「あっ! 念のためこれを……」


「ん? あぁ……」


 日記に手を伸ばそうとした凛久だったが、蒼から待ったがかかる。

 何故止められたのか分からず、凛久は蒼へと視線を向ける。

 そして、蒼が持っていた手袋を見て納得した。

 閲覧する許可は出したが、国の宝とも言うべき品だ。

 手の皮脂や汗などで汚れないように、手袋をして欲しいということなのだろう。

 蒼から受け取った凛久は、すぐさまその手袋を装着した。


“パラ……”


「…………」


 折り目すら付けないように丁寧に扱いながら、凛久は日記を読み進める。

 集中しているせいか、凛久はずっと無言のままだ。


「なるほど……」


「んっ? 何か分かったのかい?」


 しばらくの間ページをめくる音以外鳴らないでいた室内だったが、凛久がようやく声を漏らす。

 邪魔をしないように黙って見守っていた蒼は、その声に反応した。


「あぁ……、思っていた通り、日向の初代国王は日本人のようだ」


 蒼から、日向の初代国王は自分と同じく異世界人だと聞いていた。

 そして、多くの日本人と同じく黒髪黒目の日向人が日本語を話していることから、凛久は何となくそんな可能性は考えられた。

 もしかしたら、自分と同じ日本人ではないかと。

 その考えは、この日記を読んだことで正解だったということが確認できた。


「……日本人?」


 日本人などと言われても、蒼からすると何のことだ分からないため、首を傾げる。


「俺と同じ国の出身ってことだ」


「そうか」


 首を傾げた蒼に対し、凛久は簡単に説明をする。

 同じ異世界人だということは分かっていたが、出身国まで同じだとは思っていなかった。

 しかし、同じ国から来たからと言われても、地球のことなど良く分からない蒼は、凛久の説明を受けても特に驚くようなことはない。


「細かく言うと、俺の世界において日本という国は、日向と同じ規模の領土を持つ国だ」


「そうなのか!? てっきり、ほとんどが凛久や初代さまと同じ民族ばかり世界から来たのかと……」


 凛久の追加の説明に、蒼が驚きの声を上げる。

 どういう訳か、初代国王と凛久はこの世界へと辿り着いた。

 2人が同じ世界から来たということは、同じ言語を使用していることから予想できた。

 そのため、蒼はそう言った人間ばかりが済んでいる世界から来たのではないかと思っていた。

 しかし、日向と同じ程度の大きさの国と言われると驚きだ。

 もしかしたら、他の国の人間が来ていたかもしれない。

 この世界と凛久たちの世界が、何らかの理由で繋がっているのは分かるが、同じ国に繋がるなんて、かなり低い可能性なのではないだろうか。


「ただ……」


「んっ?」


 同じ国の人間なのは間違いない。

 しかし、粗大国王と自分とは違う所がある。

 そのため、凛久は言葉を言い淀む。


「俺が生きている時代より、だいぶ前の人間のようだ」


「時代?」


「あぁ……」


 完全に凛久の勘でしかないが、文章の書き方から江戸時代末期から明治時代に生きていた人間なのではないかと思える。

 同じ日本人でも、江戸時代の書物なんて漢字ばかりで全然読めないはずだからだ。


「俺が生きていた時代から、150年近く前の人間のようだ」


「そうか……」


 江戸末期から明治時代となると、自分がこの世界に来る時の年数で計算すると大体150年くらい前だ。

 初代国王は、この世界に来て剣で名声を上げたらしいが、その時代ならまだ腰に刀を差している人間もいた。

 その剣技に、この世界特有の魔力という未知の力を合わせ、力を示したのだろう。


『それにしても……』


 初代国王が強くなれた理由は理解できた。

 しかし、いくら時代が違うとは言っても、国を作るなんてどれだけバイタリティーに溢れていた人間だったのだろうか。


「…………」


 少しの間蒼と話をした後、凛久はまたも無言になって日記を読み進めていった。






「ハァ~……」


 また無言の時間が過ぎ、凛久は大きく息を吐く。


「読み終わった?」


「あぁ……」


 何時間が経過したのか分からないが、凛久が閉じた日記の巻数を見て、蒼は全て読み終わったのだと思い問いかけた。

 その問いに、凛久は返事をする。


「……もしかして、帰還方法は書かれていなかったか?」


「……いや、ちゃんと書かれていた」


 凛久がした返事のトーンから、蒼は期待していた情報が得られなかったのではないか考えた。

 そのことを問いかけると、凛久は首を横に振って返答した。


「じゃあ、元の世界に帰れるんだね?」


「あぁ……」


 期待していたように、日記の中には元の世界へと戻るための方法が書かれていた。

 初代国王も、この世界の色々な国の伝承や書物から情報を仕入れたが、結局見つけることができなかったようだ。

 しかし、初代国王王妃の予知夢によって、元の世界に帰還できる方法が記されていた。

 それを利用すれば、きっと元の世界に戻ることができるだろう。


「そうか……」


 凛久が求めていた情報が手に入れられた。

 危険な跡目争いに巻き込んでしまい、申し訳ない思いをしてたが、これで少しは恩を返せたはずだ。

 その思いから、蒼は笑みを浮かべた。


「そうだ! 確か、もうすぐ蒼が後を継ぐ事を正式に発表するんだっけか?」


「あぁ、そうだが?」


 読み終わった日記を元に戻し、凛久は思いだしたように蒼へ問いかける。

 跡目争いに勝利し、吉護を救出した。

 当然蒼が次の国王となる。

 そのことを国民に知らしめるため、王太子としての発表とお披露目会が近々開催されることが決まっている。

 凛久の問いかけに対し、蒼は頷きで返答した後に問いを返す。


「まぁ、日向観光もしたいし、しばらくはこの国にいるつもりだ。まずは蒼の晴れ姿を楽しみにしているよ」


「そうか……」


 時代が違うとはいえ、同じ国出身の人間が作り出した国。

 跡目争いで暇がなかったため、観光をして回りたい。

 それをしてからこの国を出ていくつもりだということを、凛久は遠回しに蒼へと伝えた。

 元の世界に戻る方法が分かったのだから、それをおこなうために出ていってしまうのだろう。

 凛久の言葉に蒼は返事をするが、その声はどことなく暗く感じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ