第75話 宝物庫
「……兄上、父上はどこですか?」
凛久とクウの活躍により、頼吉を捕えることに成功した。
それにより、城内に残っていた者たちも降伏し、蒼と花紡衆の者たちは王城を奪取することに成功した。
城内に入った蒼がまずおこなったのは、頼吉へのこの質問だった。
兄妹による跡目争いが始まったのは、父である吉護の体調不良がきっかけだ。
回復したという話もあったが、兄に命を狙われ、国を脱出するしかなかった蒼は、父が今どうなっているのか分からなかった。
最悪の答えも覚悟しつつ、蒼は頼吉からの返答を待った。
「……地下牢だ」
「っ!! 牢……」
その答えを聞いて、愛は一瞬声を失う。
王をしかも自分の父を、罪人でもないのに牢に閉じ込めているなんて、頼吉の正気を疑いたくなる。
「なんてことを! ……いえ、生きていらっしゃるなら……」
あまりのことに、この場で腹を斬らせたいところだが、蒼はその怒りをすぐに抑える。
頼吉のやったことは許しがたいが、父が生きていることは確認ができた。
とりあえず、それを確認するため、蒼は城の地下にある牢へと向かって行った。
「父上!!」
「蒼!?」
王城の地下牢。
そこの1つに王である吉護が閉じ込められていた。
蒼の声を聞いて、吉護は俯いていた顔を上げる。
最後に見た時から多少痩せたようだが、床に臥せっているという様子ではなかった。
「ご無事で良かった!」
「おぉ! 蒼……」
父の姿を確認した蒼は、すぐさま牢のカギを開ける。
そして、カギを開けるとすぐに父の吉護へと抱きついた。
久しぶりに娘の元気な姿を見れたからか、吉護も嬉しそうに蒼を抱きしめる。
そんな2人の目には、自然と涙が浮かんでいた。
「やった!」
「さすが蒼様だ!」
頼吉の捕縛。
その情報は、すぐさま日向の北部地域にいる小野寺や佐久間たちに伝わった。
「ふざけるな! あのバカ殿め!」
北部へと攻め込んでいた山野辺たちにも、同じ情報が届く。
それどころか、病気で床に臥せっていたと言われていた吉護が、地下牢から救出されたという話だ。
その情報は国中に広まっており、国民は蒼を称賛し、頼吉への怒りが噴出した。
その頼吉派の山野辺たちも、国民たちにとっては怒りの対象になっており、官軍だったはずの状況から完全に賊軍へと変わってしまった。
蒼たちによる王都強襲の可能性を考えて、王都の守りをもう少し固めてはどうかと山野辺たちは提案していたが、頼吉は野木衆がいるから問題ないと却下した。
その結果がこれでは、もっと強く言っておくべきだった。
こうなったら北部を攻めている場合ではない。
中立派は確実に吉護に付く。
そうなったら、王命により挙兵し、今度は自分たちが囲まれて殺されることになる。
そうなる前に、すぐに吉護への降伏と謝罪の態度を示すしかない。
そう考えた山野辺たちは、北部侵略のための砦への攻撃をやめ、撤退を開始した。
その後、復帰した頼吉の命により、頼吉の処刑が決定した。
それにより、長く続いた跡目争いは終結した。
◆◆◆◆◆
「面を上げよ」
「はい」
頼吉の処刑の日程が決定した数日後、王都の宿で従魔のクウとのんびり過ごしていた凛久は王城に呼ばれることになった。
蒼の使いの者より謁見の作法を学んだ凛久は、吉護の前に参上した。
胡坐をして頭を下げる凛久に対し、吉護が声をかける。
それを受けて、凛久は頭を上げた。
「そなたのことは蒼から聞いている。この度は、我が国の問題の解決に助力頂き感謝する」
「いいえ」
吉護が凛久に対し、王として感謝の言葉をかける。
見た目は完全に日向人だが、凛久は転移してきた異世界人だということを、蒼が説明してくれたのだろう。
昔の日本に似た国とは言っても、たしかに凛久はこの国に関係はない。
しかし、凛久からすると完全なボランティアという訳ではないため、凛久は恐縮したように返事をした。
「話によると、元の世界に帰るための方法を探していて、その方法が初代様の残した書物にあるかもしれないとか?」
「はい」
吉護の言うように、この戦いに参加したのは元の世界に帰るための方法を見つけるためだ。
蒼の話によると、この国の初代国王も自分と同じ転移者だ。
それならば、初代が残した書物の中に、元の世界に戻るための方法が書かれている可能性がある。
その書物の閲覧が目的で、この国の跡目争いに参加したのだ。
「今回の礼と言ってはなんだが、初代様の残した書物の閲覧を許可する。他にも褒賞を用意するつもりだが、それは後程とさせていただきたい」
「ありがとうございます」
今回の戦いで、凛久は敵大将である頼吉を捕縛するという最大の働きをした。
当然褒賞を与えない訳にはいかない。
しかし、今は内乱が治まったばかりで、国内が安定していない状況のため、吉護は褒賞は後回しにしてひとまず凛久の求めている初代国王の残した書物の閲覧を許可した。
凛久としては、褒賞なんかよりもその書物の閲覧の方が重要のため、素直に感謝の言葉を返した。
「……やっぱりお姫様なんだな?」
「何? やっとわかったの?」
吉護への謁見を済ませた翌日。
凛久は、またも登城した。
城に到着するとある一室に通され、座って待っていたら花紡衆の風巻を従者とした蒼が姿を現し、凛久の前へと座る。
その姿は、冒険者の時とは全く異なり、綺麗な着物姿をしていたため、凛久は思ったことをそのまま声に出した。
その凛久の言葉に、蒼はドヤ顔をして問い返して来た。
「まぁ……」
姫だということは聞いていたから分かっていた。
しかし、冒険者の時の格好からは、今の姿を想像できなかったため、ようやく今完全に納得したと言ったところだろうか。
「じゃあ、行こうか?」
「あぁ」
蒼の言葉を受け、凛久は立ち上がる。
そして、彼女の案内を受けて、移動を開始した。
「宝物庫に保管しているなんて、かなり厳重なんだな?」
「まあね」
城の中を少し歩き、目的地の宝物庫にはすぐに着いた。
警備の兵が扉の前におり、蒼の姿を見ると扉の開錠を始めた。
「……これが?」
「えぇ、初代様の残した日記よ」
蒼と風巻と共に宝物庫に入ると、色々な物が整理されて飾られている中を通り、更に扉のある場所へと案内される。
その中に入ると、目的である数冊の書物が展示されていた。
凛久が求めていた、転移者である初代日向国王の残した日記だ。




