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第74話 決着

「そろそろだな……」


「あぁ……」


 城内に侵入した凛久が頼吉の捕縛に迫るなか、風巻と道豪の戦いは、いまだに決着が着かないでいた。

 両者ともにボロボロで魔力も底をついており、立っているのがやっとと言ったところだろう。

 そんななか、2人共城の中の状況が気になっていた。

 凛久が城内に入ってしばらく経っている。

 そのため、そろそろ頼吉が捕縛、もしくは逃亡できたかの結果が分かる頃のはずだ。


「結果を知る前に決着を付けないとな?」


「そうだな……」


 結果を知ってのからだと、心理的な要素も加わっての決着になり、正式にどちらの方が強かったかという優劣が付けられない。

 ここまで来ると、風巻も道豪と同じように決着をつけたい。

 そのため、2人は頼吉の結果を知る前に決着をつけることに意見があった。


「最後の勝負……」


「あぁ……」


 尽きかけているため、魔力纏っての身体強化もない純粋な武術による勝負。

 それをおこなうために、2人は重い脚を引きずるようにして歩き、距離を埋める。


「お前の実力が、まさかここまでとはな……」


「フッ! それはこちらの台詞だ」


 お互い、自分の間合いまであと一歩のところまで近付くと、ふと思い話し始める。

 昔から、お互い比べられてばかりだった。

 かと言って、直接勝負をするようなことなどあり得ない。

 そのため、今このような状況は、どこかで望んでいたことかもしれない。

 次の攻防でどちらかが命を落とすことになる。

 だというのに、相手が同じような思いでいることに、両者共自然と笑みがうかんだ。


「「いざっ!! 勝負っ!!」」


 会話を終え、両者共忍刀を構える。

 そして、示し合わせたかのように、同じ言葉を口にした。


“ズバッ!!”


 一瞬の交錯。

 両者共、刀を振り終え、残心をとる。


「ぐっ!」


 動かないでいた2人だったが、先に動いたのは風巻。

 腹を抑えて蹲る。


「見事だ……」


 蹲る風巻に対し、道豪が称賛の言葉をかける。

 そして道豪は、


“ブシュッ!!”


 身体から大量の血液を噴き出し、前のめりに倒れた。


「ギリギリだった……」


 出血する腹を抑えつつ、ヨロヨロと立ち上がる風巻。

 胴を放ってきた道豪の攻撃に対し、腹を引いて反撃をおこなった。

 避けられるかギリギリのところだった。

 完全には躱しきれず、数cm斬られたのがその証明だ。


「最後は運か……」


 どっちに転んでもおかしくない戦いだったが、

 勝てた理由を考えた時、風巻には答えが見つからず、偶然の勝利だと結論付けた。


「後は頼みましたぞ。凛久殿……」


 本来なら頼吉の結果を知りに移動を開始したいところだが、力を使い果たし、体中傷だらけ。

 疲労でこれ以上動けないと判断した風巻は、その場に座り込み、体を休ませることにした。

 頼吉のことは、凛久に任せることにして。






◆◆◆◆◆


「ハァ、ハァ……」


 2人の野木衆の護衛を連れ、城内を走る頼吉。

 全力疾走をしたため息が切れる。


「もう少しの辛抱です。頼吉様」


「分かっている!! くそっ!!」


 妹の蒼と、その配下の花紡衆の者たちによって、野木衆の多くが倒され、ほぼ壊滅の状態にまで陥れられた。

 このまま城の中に籠っていては身に危険が及ぶため、頼吉は王城からの脱出を余儀なくされた。

 野木衆に任せておけば、蒼や花紡衆のこと倒してくれると信じて任せたというのに逃げなければならなくなってしまい、頼吉はイラ立ちつつ護衛の言葉に返事をした。


「どうぞ、頼吉様!」


「あぁ!」


 王城の地下には水路があり、頼吉はそれを利用して護衛と共に脱出を計る。

 水路に浮かんだ舟に先に乗り、護衛が頼吉を誘導する。

 それを受けて、頼吉も船に乗り込んだ。


「早く出せ!!」


「はいっ!」


 護衛たちの話だと、城内に侵入した敵は先程遭遇した1人と1匹らしいが、いつまで足止めできるか分からない。

 それに、野木衆のほとんどが倒されて警備の薄くなった城内に、侵入している敵が他にいないとも限らない。

 今敵に遭遇したら、護衛2人だけで抑えきれるも思えないため、頼吉は少しでも早く城から脱出するよう護衛の者に命令する。

 漕ぎ役を請け負った護衛の者は、その命令に従い、すぐさま櫓を漕ぎはじめた。


「あと少し……」


 地下にある薄暗い水路を進んで行くと、明かりが見えてくる。

 その明かりの下に出れば王城の外に出ることができ、港のすぐそばに着くことができる。


「フゥ~、ここまで来れば……」


 城の外まであと少し、明かりも強くなってきたことで、頼吉は安堵の息を吐く。

 港から別の町へと逃げれば、兵を集めて再起を計ることができる。

 次戦うことになった時は、生かして捕えるなんて考えは捨て、蒼の派閥ごと潰してやる。

 頼吉はそう決意していた。


“パンッ!!”“パンッ!!”


「「がっ!!」」


「っっっ!?」


 頼吉の前に座り、周囲に気を配る者と舟を漕ぐ者。

 護衛2人が2度の破裂音と共に倒れ、水路に落ちる。

 漕ぎ手がいなくなったことで舟が止まり、何が起きたのか分からない頼吉は慌てふためく。


“タンッ!! タンッ!! タンッ!!”


「なっ!?」


 舟の後方から、何かがこちらに向かって来る音がする。

 音の鳴り方から察するに、壁を蹴っているようだ。


“スタッ!!”


「っっっ!!」


 壁を蹴って近付いてきた何かが、舟に降り立つ。


「ワウッ!!」


「い、犬っ!?」


 降り立ったものを見て、頼吉は驚きの声を上げる。

 何が来たのかと思っていたら、現れたのが犬だったからだ。


「ワウッ!!」


 舟に降り立ったのは、凛久の従魔であるクウだ。

 頼吉の臭いを追って、ここまでたどり着いたのだ。

 そして、一声上げたクウは、戸惑う頼吉に迫る。


「ギャッ!!」


 接近すると共に、クウは頼吉の腹を右の前脚で殴りつける。

 腰の刀に手をやるも、抜く間もなくクウの一撃を受け、頼吉は前のめりに崩れ落ちた。


「わ、私が、い、犬ごときに……」


 自分が捕まるか殺されるときは、蒼か花紡衆の人間によってだと思っていた。

 しかし、蓋を開ければ、誰だか知らない人間の従魔、しかも犬の一撃で沈む。

 いくら蒼程の才を持っていなかったとはいえ、武を志した自分がこんな結果になるとは思わず、頼吉は悔しそうに呟いて気を失った。


「よくやったぞ! クウ!」


「ワウッ!!」


 魔法を使い、クウは頼吉の乗った舟を近くの港に止める。

 遠回りして駆けつけた凛久は、頼吉を捕まえたことを確認し、クウを褒める。

 主人である凛久に褒められ、クウは嬉しそうに尻尾を振って返事をした。



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