第73話 城内②
「なっ!?」「城がっ!!」
突如王城の方から破裂音が聞こえ、野木衆の者たちは驚きの表情へ変わる。
「まさか、何者かが侵入したのか!?」
「バカな!」
破裂音は一発だけではないことから、城に異変が起きているのは確実だ。
しかし、蒼と花紡衆の者たちはこの場にいる。
頼吉を逃がすためには、彼女らを止めていれば問題ないはずだ。
だというのに、どうして城に異変が起きているのか。
その理由が分からない野木衆の者たちは、戸惑いの声を上げることしかできなかった。
「……何だっ?」
頼吉を逃がさないために王城へ向かおうとしている自分たちだが、野木衆の者たちのによって阻まれている。
突破までの時間が長くなればなるほど、頼吉を捕えることが困難になっていしまうため、焦りの気持ちが湧いていた。
そんななか、何者かが城に侵入した入したことを知り、蒼や花紡衆の者たちも同様に戸惑っていた。
「まさかっ! 凛久か!?」
ここにおらず、城に侵入できる者。
そう考えた時、蒼には心当たりがあった。
それは凛久だ。
思い浮かぶとそれ以外考えられなくなり、蒼は何故か分からないが笑みが浮かんできた。
「凛久殿が……」
蒼の呟きが聞こえたことで、花紡衆の者たちも凛久が侵入したのだと思うようになった。
それにより、彼らの表情から焦りの色が消えた。
「貴様ら! どうやって仲間を城に入れた!?」
花紡衆の者たちの表情から、野木衆の者たちは城に侵入させた者のことを何か知っていると判断する。
侵入させた方法が分かれば、これ以上敵を城に入れることを阻止できる。
その思いから、野木衆の者は忍刀で斬りかかると共に悠斗に問いかける。
「……教えるかよ!」
悠斗は攻撃を忍刀で受け流し、僅かな間を空けて敵に返答した。
問いかけられたからといって、敵なのだから教えるわけがない。
というより、異世界人の凛久なら、自分たちの想像できない突拍子もない方法で城に侵入できたのだろう。
だが、それがどういった方法なのかまでは分からない。
そのため、惚けているのではなく、答えられないと言った方が良いかもしれない。
「くそがっ!!」
野木衆の方からすると、当然惚けられたと受け取る。
正直に答えるとは思っていなかったが、予想通りの返答を受けて、イラ立ちと共に攻撃をして来た。
「フッ!!」
頼吉を追わないといけない所だが、もう凛久が迫っている。
この国に関係ない凛久に任せるのは元御庭番花紡衆の名折れだが、彼なら少数の護衛を蹴散らして頼吉を仕留めるなり捕まえるなりしてくれるはず。
それならば、自分たちは慌てる必要はない。
余裕が生まれた花紡衆の者たちは、先程までの無闇に攻めるようなことはしなくなり、確実に敵に攻撃を与える戦闘に切り替えた。
無駄な力が抜けたことが功を奏したのか、蒼と花紡衆の者たちはこれまでよりも野木衆を討つ速度が増した。
“パンッ!!”“パンッ!!”
「ギャッ!!」「グアッ!!」
迫り来る敵に銃を向け、引き金を引く凛久。
破裂音と共に魔力の弾丸が発射され、2人の敵の胸を撃ち抜いた。
「このっ!!」
「っ!!」
2人の敵に対処した凛久の隙をつくように、他の敵が襲い掛かってくる。
頼吉の護衛のために、城へと戻ってきた野木衆の者だ。
仲間が攻撃して敵の隙を作る。
この戦いで何度もやられたが、室内では距離を取ることができない分、凛久にとってはなかなか面倒だ。
「ワウッ!!」
「グアッ!!」
野木衆の忍刀が凛久に迫る。
しかし、それを阻止するようにクウが動く。
城の廊下の壁を蹴るようにして反動を付けると、クウは野木衆の男の横っ腹に体当たりした。
直撃をくらった野木衆の者は吹き飛び、壁に体を強かに打ち付ける。
当たりどころが悪かったのか、倒れたその男は動かなくなった。
「くそーっ!!」
残った敵の1人が、凛久へと襲い掛かってくる。
自分1人では、凛久とクウのコンビには勝てないことは分かっている。
だが、何としても頼吉を逃がす時間を作るため、何もしないでやられるわけにはいかない。
数秒でも時間を稼ぐための、破れかぶれの攻撃だ。
“パンッ!!”
「ウッ!!」
王城の廊下が広いと言っても、たいして動き回れないのは野木衆の者も同じだ。
動きが俊敏だとしても、銃口を合わせれば良いだけの凛久からすれば、連携の無い単独攻撃は脅威にならない。
向かってきた野木衆の男に銃口を向け、凛久は引き金を引く。
破裂音が鳴り響いたすぐ後、男は崩れるようにしてその場に倒れた。
「ハァ、ハァ……」
クウと共に4人の敵を討ち倒し、凛久は息を整える。
動き回れないのは凛久も同様。
銃による狙撃に一度でも失敗すれば、自分の方が死んでいたかもしれない。
そう考えると、息をするのも忘れるほど集中するしかなかった。
「ワウッ?」
「あぁ、大丈夫。アカルジーラ迷宮並に集中力を使っただけだから」
息の乱れた凛久を、クウが心配するように鳴く。
そんなクウを安心させるように、凛久は頭を撫でてあげる。
「それに、思ったより魔力を使用したからな……」
凛久が誰よりも先に城に忍び込むことができたのは、転移の魔法を使用したからだ。
転移魔法は、一度行ったことがある場所に移動する魔法だ。
しかし、凛久は城になど行ったことはない。
では、どうやって城に転移したのかと言うと、頼吉を撃つためにスコープで見た王城内のイメージを利用して転移したからだ。
転移先のイメージがしっかりしていないと転移できないことが多いのだが、イメージを補完するように魔力を込めたのが正解だった。
魔法を使用している感覚から出来るのではないかと思っていたが、ぶっつけ本番で成功した。
その分魔力を使用したため疲労したが、感覚に従って正解だったようだ。
「頼吉を追いかけないと……」
この戦いを終わらせるためには、頼吉を捕まえるか仕留めないとならない。
魔力をかなり消費して疲労を感じているが、そんな事を言っている場合ではない。
すぐにでも追いかけようと、凛久は移動を開始した。
「クウ。お前が頼りだ」
「ワウッ!!」
頼吉を逃がすために残った者たちを相手にしている間に、頼吉の行方が分からなくなってしまった。
このでかい王城を調べて回っている暇はない。
最短距離で頼吉を追うために、凛久はクウに話しかける。
クウの鼻による探知。
それによって、凛久は頼吉を追いかけることにした。




