第72話 城内
「くそっ!!」
蒼の指示に従い、この場を突破しようとする花紡衆の者たち。
王城にいる頼吉に逃げられたら、また体勢を立て直されてしまう。
そうなったら、頼吉を仕留めることが困難になる。
何としても逃げる前に捕まえるなり、仕留めたいところなのだが、野木衆の者たちがそうはさせてくれない。
邪魔をされ続けることに、花紡衆の悠斗は焦りを募らせていた。
「きついだろうが、何としても突破しろ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
悠斗の気持ちも分からなくはない。
戦力を考えると、逃げられたら頼吉を狙う機会が失われる。
ここまでの戦いで、花紡衆の者たちが疲労しているのは分かる。
支給した回復薬も尽きているのだろう。
全員どこかしらを怪我したまま戦っている。
しかし、今は何としても突破するしかないため、蒼は花紡衆の者たちを奮起させる。
その意を汲み、花紡衆の者たちも気合いを入れて野木衆の囲いから突破を目指した。
「何としても死守しろ!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
今回の戦いで、野木衆の大半は命を落とすことになる。
蒼と花紡衆の強さを見誤っていた部分もあるが、一番の予想外は凛久による遠距離攻撃だった。
しかし、頼吉が逃げきれば次がある。
次はその遠距離攻撃の対策を講じればいい。
そう考え、野木衆の者たちも、蒼と花紡衆に対抗するように気合いを入れた。
突破しようとする蒼と花紡衆、それを阻止しようとする野木衆という構図で戦いが進んで行った。
◆◆◆◆◆
「グゥ……」
「うぅ……」
頼吉の逃走を知った風巻。
彼も城へ向けて移動したいところだ。
しかし、いつまで経っても道豪との勝敗が着かないでいたため、一向に白に近付くことはできないでいた。
両者ともに全身に傷を負い、体力も尽きかけながらも、膝を屈することはしない。
「しぶとい奴め!!」
「こっちの台詞だ!!」
お互い距離を詰めると忍刀で斬りかかる。
しかし、技術は互角。
風巻は道豪の邪魔により、城に向かうことができないでいた。
◆◆◆◆◆
「ふざけるな!!」
蒼たちが目指す王城では、頼吉が怒りを露わにしていた。
「何故私が逃げなければならないのだ!?」
野木衆を総動員して待ち受けることで、確実に蒼と花紡衆たちを潰すことができると信じていた。
自分は王城でのんびり勝利の報告を待っていればいいだけだと思っていたのに、開始早々に命の危機に瀕するような攻撃が飛んできた。
野木衆の源昭が身を挺したことにより回避することができたが、一歩間違えれば死んでいた可能性がある。
その恐怖に、これまで城の一室で隠れるように震えているしかなかった。
それも、勝利をすると信じていたからこそ我慢できたことだ。
それなのに、勝利どころか敗北が濃厚な状況になったから、この場から逃げないといけないなんて言われても、すぐに納得できるわけがない。
「何のためにお前ら野木衆がいるのだ!?」
長子である兄の克吉、武の才に恵まれた妹の蒼、その2人に挟まれ、自分は誰からも凡夫として見られてきた。
いつかそれを覆したいと思い、文武に力を注いできたが、結局どちらも2人に勝つことなんてできなかった。
自分には才がない。
それを自覚し、打ちひしがれた時に野木衆の道豪が接触してきた。
野木衆と組むことで、無関係と思われた跡目争いに加わることができるようになった。
そして、今では2人を差し置いて自分が一番王に近い。
誰もが認める王になるためには、蒼を倒さなければならない。
その蒼に負けるとあっては、野木衆と組んだ意味が無い。
まさかの敗戦濃厚に、頼吉は逃走を進言してきた男を叱責をした。
「そのことに関しては返す言葉もありません」
叱責を受けた野木衆の男は、俯きながら返答する。
頼吉と同様、自分たちも勝利を確信していた。
なにせ、野木衆全戦力をつぎ込んで挑んだのだから。
それなのにこの結果では、叱責を受けても仕方がない。
「しかしながら、この場から退避していただかないと、頼吉様のお命が……」
「くっ!!」
頼吉がイラ立つのも仕方がない。
しかし、いつまでもこの場にいては、蒼もしくは花紡衆の誰かが攻め込んできてしまう。
仲間がいつまで時間を稼いでいられるか分からない以上、出来る限り速やかにこの城から脱出したい。
そう考え、護衛を任された男は、早々の脱出を頼吉に求めた。
「おのれ……、蒼め!!」
兄の克吉を倒し、後は妹の蒼だけとなった。
そもそも、蒼に武の才能があったことが間違いなのだ。
そんな、完全に八つ当たりの思いと共に、頼吉は城の一室から逃走を開始しようとした。
「こちらへ!」
「分かっている!」
城には地下に秘密の通路が存在している。
王族である頼吉は、そのことは知っている。
そのため、余計な案内など必要ない。
そんなことよりも、敵が来ないかの方が心配だ。
“パンッ!!”
「ぐあっ!!」
「「「「「っっっ!?」」」」」
破裂音が鳴り、城の兵が1人倒れる。
何が起きたのかと、廊下を歩く頼吉たちは慌てて後方へ振り向いた。
「……犬?」
「ッ!? ワウッ!!」
長い廊下のため距離があるが、倒れた兵の横から1匹の犬が現れた。
そして、その犬は頼吉のたちを見つけると、鳴き声を上げた。
「見つけたか? あっ!」
「っっっ!!」
鳴き声を上げた犬の近くから、何者かの声が聞こえる。
そして、犬のいる廊下に顔を出すと、頼吉たちの存在に気付いた。
「頼吉ってのはお前か!?」
現れたのは凛久とその従魔のクウだ。
凛久は、野木衆の者たちに囲まれるように、見栄えのいい服装をした男がいるのを確認する。
それを見て、この男が頼吉なのだろうと判断し、確認のために問いかけた。
「なっ!? 殺れ! お前ら!」
何者かは分からないが、王族である自分を呼び捨てにしている。
そのことに文句を言いたいところだが、そんな事を言っている場合ではない。
花紡衆の者には見えないが、そんな態度を取るようなのは敵でしかない。
そのことを理解した頼吉は、護衛の者たちに侵入者である凛久を仕留めるよう指示を出し、自分は2人の護衛と共に逃走用の地下通路へと向かって行った。
「行かせるな!!」
「おうっ!」
指示に従い、頼吉を逃がそうと野木衆の4人がその場に残る。
凛久を迎え撃つつもりのようだ。
「あっ! クウ! 捕まえるぞ!」
「アウッ!!」
殿様みたいな着物の男が、走り出してしまった。
逃がすわけにはいかないため、凛久はクウと共に頼吉を追いかけようと、残った野木衆の4人との戦闘を開始した。




