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第71話 敵の策

「ハァ、ハァ……」


「ハァ、ハァ……」


 互角の戦いを続けている花紡衆頭領の風巻と、野木衆の頭領道豪。

 両者共、体中に細かい傷を負い、魔力も体力も残り少なくなり、息を切らしながらも睨み合う。


「っっっ!?」


 風巻とのギリギリの戦いをしながらも、他の戦いには気を張っていたため、ある戦いに変化が起きたことを察知する。

 その結果に驚き、道豪は目を見開いて固まった。


「……どうやら、あっちも決着が着いたようだな」


 道豪と同様、他の戦いに気を張っていたのは風巻も同じだ。

 自分たち以外の戦いの1つが決したことを感じ取り、道豪とは反対に笑みを浮かべた。


「房羅に続いて源昭まで……」


 勝敗が決したのは、凛久と源昭の戦いだ。

 風巻との戦いの最中、源昭の方が凛久を追い込んでいると思っていた。

 予想以上の強さから房羅が蒼に屈したが、源昭がいれば勝利に導くことができるはず。

 そう考えていただけに、源昭がやられてしまったことは強力な痛手だ。


「諦めろ! 道豪!」


「くっ!!」


 蒼に加え、凛久までいる。

 数に押されていたが、あの2人が加われば劣勢も覆すことができる。

 そのことは道豪も気付いているはず。

 そう考えた風巻は、道豪に潔く負けを認めるように促した。


「…………」


“スッ!!”


「っ!? 貴様! 今のはなんの合図だ!?」


 風巻に言われたことは事実。

 このままでは、野木衆は全滅してしまい、頼吉を担いでの天下も終わりを迎えてしまう。

 そんな状況で、道豪は無言で手を動かした。

 そのおかしな手の動きに、何か嫌な予感を覚えた風巻は、その手の動きの意味を問いかける。


「教えるわけないだろ?」


「くっ!」


 恐らく、どこかに潜んでいる仲間に何かしらの指示を出したのだろう。

 何をする気か分からないが、この状況でも何かしらの策があるのかもしれない。

 そう考えた風巻は、蒼や仲間たちの下へと向かおうとした。


「おっと行かせないぜ!」


「このっ!!」


 風巻を、蒼や花紡衆の所へ行かせるわけにはいかない。

 阻止するために、道豪は忍刀で風巻に斬りかかる。

 その攻撃を忍刀で受け止め、風巻は眉間に皺を寄せた。


「ぎっ……、どうやら勝てそうにないのは認めよう!」


「……っ!?」


 鍔迫り合いのような状況になりながら、道豪は風巻に話しかける。


「この戦いに負けても、我々はまだ負けていない!」


「……貴様! まさか!?」


 その口ぶりから、道豪は負けが覆せないことを悟ってる。

 しかし、何故かまだ諦めた様子がない。

 自分が道豪の状況だった場合、どう選択するのかを風巻は考える。

 そして、1つの考えが頭に浮かんだ。


「くそっ!」


「おっと! 言っただろ? 行かせないと……」


 道豪の狙いを仲間たちに知らせなければならない。

 そのため、風巻は道豪を無視して動こうとする。

 しかし、そうすることを読んでいる道豪は、風巻を行かせまいとまたも道を塞いだ。


「貴様を仕留めなければならないということか?」


「そうだが、そう簡単にはやられんぞ……」


 風巻と道豪の戦いは互角。

 最後の策を成功さるためにも、風巻をこの場に留めておかなければならない。

 そう考えた道豪を倒すため、風巻は戦いを再開させた。






「ハッ!!」


「ぐあっ!!」


「おぉ!!」「蒼様!!」


 花紡衆の所に、多くの野木衆の者たちが集結している。

 そのことを察した蒼は、勝敗が決していた房羅をすぐさま仕留め、仲間のもとへと駆けつけた。

 そして、駆けつけるとすぐさま花紡衆を囲む野木衆の者たちを斬り倒し始めた。

 主である蒼の出現に、花紡衆の尚克や昇一が喜びを滲ませつつ声を上げる。


「ハッ!!」


「ぐあっ!!」


「それにしても……」


 蒼は、迫ってきた敵を斬りつける。

 そして、周囲を見てなんとなく違和感を感じた。


「みんな頑張ったようだな。敵が思っていた以上に少なくなっている」


 房羅との戦闘のために、蒼は花紡衆たちから離れた。

 そして、更なる野木衆増員の策を知り、すぐに房羅を仕留めて花紡衆の者たちの下へと向かった。

 自分がこの場に着く前に、凛久によってかなりの数が減らされたのは理解している。

 しかし、それにしても敵の数はかなり少ない。

 そのことから、蒼は懸命に戦った結果なのだろうと判断し、花紡衆の者たちに激励の言葉をかけた。


「ありがたきお言葉。……しかしながら、敵の数人がどういう訳かいなくなりました」


 風巻の部下である悠斗が、蒼の言葉に感謝する。

 しかし、敵の数が少ない理由は自分たちだけによるものではなく別にあるため、恐縮したように返答した。


「……どういうこと?」


「理由は分かりませんが、その数人はあちらに向かって行きました」


 敵が思っていたよりも少ないのは、花紡衆の彼らが倒したわけではなく逃げたためという説明に、蒼は首を傾げる。

 数で花紡衆を仕留めるために、野木衆の者たちはここに集まったのではないのか。

 敵の訳が分からない行動に首を傾げる蒼に、悠斗は逃げた野木衆の者たちの向かった方向を指差した。


「城の方? ……っ!! まさか!?」


 悠斗が指差した方向。

 そこには日向城しかない。

 日向城から増援したというのに、また日向城に戻っていくなんて、完全に無駄なことをしている。

 そんな無駄なことをして、敵方になんの優位性があるのか。

 現在の戦場全てを探知し、嫌な予感がした蒼は、何か意味があるのではないかと考える。

 少しの間思考を巡らせ、ある考えに至った蒼は、城へ向かって走り出そうとした。


「っ!?」


「行かせませんよ! たとえ我々が負けようとも……」


「クッ!!」


 蒼の進路を防ぐように、この場にいる野木衆の者たちが立ちはだかる。

 その行為や口ぶりから、蒼は自分の考えが正しいのだと判断した。


「皆っ! なんとかここを突破して城へ向かいなさい!」


「蒼さま?」


 敵の策を理解した蒼は、慌てた口調で花紡衆の者たちに指示を出す。

 その指示の意味が分からず、花紡衆の者たちは首を傾げた。


「この者らは兄上……、頼吉を王都から逃がす気だ!!」


「なっ!?」


 野木衆の全戦力で迎え撃てば、いくら蒼や花紡衆の者たちが強かろうと勝つことができる。

 そう考えていたが、凛久という強力な狙撃手の攻撃によって形勢は不利に陥った。

 そのため、ここでの戦いに見切りを受け、野木衆の者たちは数人の護衛と共に頼吉を逃がすことを決断したようだ。

 蒼はそのことを端的に説明し、花紡衆の者たちは驚きの声を上げた。

 頼吉に逃げられ、再起を計られるわけにはいかない。

 そう考えた蒼と花紡衆の者たちは、邪魔をする野木衆の者たちを突破しようと動き始めた。



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