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第70話 勝負あり

「ハッ!!」


「おわっ!!」


 源昭の投げた手裏剣が飛んでくる。

 それを、凛久は飛び退くことで躱した。


「このっ!!」


「っ!!」


 手裏剣を躱した凛久は、お返しとばかりに源昭へ銃を向け引き金を引く。

 しかし、その場にとどまることなく動き回っているため、弾は源昭に当たることなく飛んで行った。


「シッ!!」


「っぶね!!」


 銃による攻撃が無駄に終わった凛久に、源昭は一気に接近する。

 そして、距離を詰めた源昭は忍刀を振り、凛久の首を斬りかかった。


「面倒な……」


 忍刀による攻撃を防がれ、源昭は忌々し気に呟く。

 銃を使用して遠距離攻撃が得意なのは確かだが、凛久はちゃんと接近戦に対する対策はとっている。

 基本の型を蒼から教わり、アカルジーラ迷宮で鍛えた剣術だ。

 とは言っても、攻撃は銃頼りのため、防御重視の剣術になっている。


「それはこっちもだっての……」


 源昭の呟きに、凛久はそっくりそのまま返す。

 アカルジーラ迷宮の最下層の魔物と比べれば、源昭の速度はそこまでではない。

 しかし、魔物と人間では知能に差がある。

 どんなに速くても直進してくることが多い魔物とは違い、銃口を見て攻撃を受けないようにする人間の方が、戦う上では面倒でしかない。


『投擲武器が尽きるのを待つか……』


 ここまでの戦いで、自分の攻撃も源昭の攻撃も決定打にはならないことが分かった。

 この状態が続くとして、凛久は自分がどうすれば勝てるかを考える。

 そして導き出したのがこれだった。

 手裏剣などの投擲武器を持っているとしても、大量に持っているとは思えない。

 それが無くなれば、凛久にとって一番脅威となる接近攻撃をすることも難しくなるはず。

 そうなれば、自分の距離で戦いを進め、源昭の体力が尽きるまで待てばいい。


『でも、その前にこっちの魔力が尽きないか不安だな』


 凛久の使用する銃は、弾丸を充填して撃つこともできるし、魔力を弾として撃つこともできる。

 しかし、アカルジーラ迷宮で倒した魔物を材料にして作った弾丸は、ほとんどライフル銃やマシンガンにの弾を作るのに使用したため銃の弾丸はない。

 そのため、銃による攻撃は魔力を使用しての攻撃だ。

 弾と発射に使用する魔力は微々たるものとは言っても、源昭の動きに対応するために身体強化にも魔力を使用している。

 投擲武器が無くなったとしても、源昭の魔力量次第で体力切れのがいつになるか分からない。

 そうなると、先にこっちの魔力が尽きないか不安だ。


『やるしかないか……』


 先に自分が魔力切れを起こさないことを期待し、凛久は戦いを継続することにした。






◆◆◆◆◆


「ハァ、ハァ……」


「フッ、フッ……」


 凛久と源昭は、共に息を切らす。


「このっ!!」


「フンッ!!」


 体力を削るためにも、休む間を与えるわけにはいかないため、凛久は銃の引き金を引く。

 疲労していても、まだ動きは鈍らず、源昭は凛久の攻撃を躱した。


「ハッ!!」


「くっ!!」


 攻撃を躱すと共に凛久との距離を詰めた源昭は、忍刀で斬りかかる。

 その攻撃を刀で弾き、凛久はすぐに距離を取る。


「諦めたらどうだ?」


「……何?」


 源昭の言葉に、凛久は何を言っているのかという思いで質問の意味を聞き返す。


「少し前から気付いているだろ? 武器の威力が落ちているぞ」


「…………」


 源昭の的を射た発言に、凛久は無言で固まる。

 彼が言った通り、攻防を続けているうちに魔力を消費し続け、銃を撃つときの集中が僅かに乱れてきている。

 その分威力が落ち、源昭がこれまで以上に凛久の攻撃を躱しやすくなってしまっている。

 そのせいで、なかなか源昭の体力が削れずにいるのだ。

 集中を必要とする遠距離からの攻撃なだけに、ライフルによる花紡衆の援護狙撃は集中を必要とする。

 そのため、思っていた以上に魔力を使用していたのかもしれない。

 距離を詰められないように戦っていたら、いつの間にか花紡衆の者たちが戦っている場所から離されてしまった。


「諦めたら殺されるんだ。最後まで諦めるかよ」


 この戦いに参加している以上、最悪の結果になることも考えに入れている。

 自分・蒼・花紡衆の、全員が殺されてしまうという結果だ。

 しかし、出来れば死にたくないのは、人として当たり前の感情だ。

 諦めて殺されるなんて選択できない。


「お前が捕まれば、蒼様も抵抗を辞め大人しく捕まるかもしれない。そう考えればお前には利用価値がある」


「人質ってことかよ……」


 自分を人質に取ったぐらいで、蒼が戦いを辞めるなんて思わない。

 だが、もしかしたら自分のせいで蒼の足を引っ張ることになるかもしれない。

 ならば、余計に諦めて捕まる訳にはいかない。


「当然……、断る!!」


「そうか……」


 拒否の意思を示し、凛久は源昭に銃口を向ける。

 源昭も、凛久が大人しく捕まるなんて考えていない。

 誘いに乗れば楽になるくらいの思いでしかない。

 そのため、銃口が向けられる寸前に動き始めていた。


「っ!?」


 投擲武器は少し前に無くなっているはず。

 そのため、何かが飛んできたことに慌てて回避の行動に移る。

 飛んできたのは石。

 どうやら戦闘中に拾ったのだろう。

 源昭は、予想通りに回避に移った凛久との距離を一気に詰めてきた。


「ならば死ね!!」


「くっ!!」


 先程は利用価値があるか言っておきながら、殺しにかかってきている。

 そこにツッコミを言えたいところだが、そんな事を言っている場合ではない。

 予想外の攻撃に反応したことで、刀の防御が間に合いそうにない。

 死を感じて時間がゆっくり進むような感覚に陥りながら、凛久は源昭が振る忍刀が迫るのを冷静に見ていた。


「ガウッ!!」


「ぐあっ!?」


 忍刀が凛久の首に届く前に、ある物体が源昭に衝突する。

 それによって、凛久は死を回避した。


「……い、犬っ!?」


 強烈な衝撃を腹に受け、アバラが数本折れた。

 痛みに表情を歪めながらも、源昭は飛んできた物体に目を向ける。

 そこにいたのは、犬だった。


「ありがとな。クウ!」


「アウッ!」


 凛久を救ったのは、従魔のクウだ。

 助けられた凛久は、クウに感謝の言葉をかける。


「用意しておいて良かった」


「……な…に?」


 まるでこうなることが分かっていたような口ぶり。

 凛久の言葉に、源昭は自分が誘導されたのだと感じ取った。


「終わりだ!」


“パンッ!!”


「ガッ!!」


 クウがタイミングよく現れたことの説明をするつもりはない。

 それよりも、この戦いに決着をつけるのが先だ。

 そう考えた凛久は、引き金を引いて源昭を撃ち倒した。



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