第69話 銃対忍
「思いだしたか!?」
「あぁ、まぁ……」
自分のことを忘れているような態度が気に入らないのか、源昭は怒りのこもった声で凛久へ問いかけてきた。
それに対し、凛久は微妙な表情で返答する。
というのも、源昭とは初めて話すからだ。
「とんでもなく痛かったぜ……」
「だろうな……」
源昭は自分の左肩に手をやり、思い出すように呟く。
それに対し、凛久はまるで気持ちがこもっていないようなトーンで同意する。
肩に風穴が開けば、痛いのは当たり前だからだ。
「貴様……!!」
まるで他人事のような凛久の言い方に、源昭は余計に苛立ちを募らせ、口から血でも出てきそうなほどに歯を噛みしめた。
「ずいぶん早く回復したんだな?」
源昭の忍び装束の左肩部分の穴を指差し、凛久は問いかける。
この戦いが始まった時、凛久は敵の大将である頼吉を遠距離から撃ち殺そうとした。
上手くいけば一瞬で蒼側の勝利で終わりを迎えることができたのだが、
それは頼吉の周りにいた護衛によって防がれてしまった。
その防いだ護衛が、この源昭だ。
銃の威力は、作り出して使用している凛久自身が一番分かっている。
身を挺して頼吉を護ったことで、源昭はかなりの痛手を負ったはずだ。
回復薬を使用したとしても、すぐに回復するような怪我ではなかったはず。
それなのに今ここにいるということは、回復薬を使用するのが相当早く、かなりの量を使用したのだろう。
「その言い種気に入らねえな……」
誰のせいで回復薬を大量に消費することになったのか。
張本人である凛久に言われると、怒りが増すばかりだ。
これ以上は我慢ならなくなったのか、源昭は忍刀を凛久に向けて腰を落とした。
「殺してやる……」
「死にたくはないな……」
構えた途端、源昭は殺気を漲らせる。
そんなのに当てられて、何もしない訳はない。
凛久も腰を落として銃を構えた。
「シッ!!」
「っ!! 速い……」
凛久の銃に警戒したのか、先に動いたのは源昭だ。
先手必勝とばかりに、一気に距離を詰めてきた。
そして、凛久の首を狙って薙ぎ払うように忍刀を振る。
源昭の動きの速さに驚きつつも、凛久はバックステップすることで攻撃を回避した。
「逃がすか!!」
「チッ!」
距離を取って銃による攻撃をしようとした凛久だったが、源昭はすぐに追いかけてきた。
その反応から、凛久の持つ銃の特性を理解しているのかもしれない。
距離を開ければ自分の方が有利だと思うが、そうさせてくれない源昭に、凛久は思わず舌打した。
「ハッ!!」
「くっ!」
距離を取ろうとする凛久に対し、距離を詰める源昭。
近付くとすぐさま振ってくる忍刀を、凛久は何とか躱し続ける。
「このっ!!」
多少距離が近くても攻撃して、接近する時間を少しでも遅らせようと、凛久は銃口を源昭に向ける。
「っ!!」
銃口を向けた途端、源昭は変則的な動きをして凛久との距離を詰めて来るようになった。
照準を合わせないつもりなのだろう。
その狙い通り、凛久は動き回る源昭に照準が合わないため、攻撃をするタイミングがとれない。
『この野郎! 銃の特性に気付いているな……』
攻撃は一旦止め、凛久はまたも距離を取る。
源昭の動きは、直線にしか飛ばないという銃の特性を知っているからこその動きだ。
そのことに、凛久は内心で思わず文句を言う。
「お前の武器のことは仲間から報告を受けている。俺には通用しない!」
他の野木衆の者ならば、ジグザグ移動をおこなっても攻撃が当てられるかもしれない。
しかし、道豪の片腕である自分が、他の者と同じ移動速度のわけがない。
同じ道豪の片腕の房羅程ではないが、速度はかなりのものだと自負しているため、源昭は自信ありげに凛久へと言葉を放つ。
「あっそ……」
「っっっ!!」
たしかに、このまま銃で攻撃をしようとしても、なかなか当てることはできないかもしれない。
そう考えた凛久は一度銃をしまい、魔法の指輪からマシンガンを取り出した。
「くらえ!」
銃で狙って当てることは難しい。
ならば、無差別乱射することで、源昭に攻撃を当ててしまおうと凛久は考えたことによる武器交換だ。
「チッ!!」
マシンガンを見た源昭は、思わず舌打をする。
そして、凛久に接近するのをやめて距離を取った。
凛久が、マシンガンによる無差別乱射を狙っていたことを理解しての反応だろう。
「やっぱりこっちも分かってたか……」
遠距離攻撃で花紡衆を援護していた自分を仕留めようと、野木衆の者たちが襲い掛かってきた。
その時、銃やマシンガンを使用して全員撃退した。
その光景を見ていたから、武器の特性が分かっていたのだろう。
凛久は、そのことを利用しようと考えた。
マシンガンの特性を知っていれば、無闇矢鱈に近付こうなんて考えないはず。
その考え通りに源昭が反応したため、凛久はしてやったりと笑みを浮かべた。
「これで今度はこっちの番だ」
距離を取った源昭を見て、凛久はすぐにマシンガンを魔法の指輪に収納して、また銃を手にした。
マシンガンを出したのは、源昭に接近することを躊躇させ、自分が有利な距離で攻撃をするためだ。
“パンッ!!”
「くっ!!」
向けた銃の引き金を引く。
それによって発射された弾丸が、源昭に向かって飛んで行く。
凛久の指を見て、引き金を引く一瞬前に横へと跳び退く。
そうすることで、源昭は凛久の銃撃を回避した。
“パンッ!!”
「シッ!!」
凛久は更に攻撃を加える。
源昭は先程と同様に反応し、またも回避する。
「ここら辺か……」
「……順応が速いな」
攻撃と回避をするたびに、凛久と源昭の距離が少しずつ離れる。
そして、何度か繰り返された所で、源昭は小さく呟いた。
今の凛久と自分との距離が、銃撃を無理なく躱せる距離だと判断したようだ。
数回の攻防でそのことを理解した源昭の順応性に、凛久は思わず声を漏らした。
“スッ!!”
「っっっ!?」
近付けないなら源昭からの攻撃はない。
躱されるのは仕方がないが、攻撃を続ければ体力が尽きて被弾するはず。
そう考えて、再度源昭への攻撃をしようとした凛久だったが、源昭の動きに目を見開く。
何かを手にしたと思ったら、それを自分へ向けて投げてきたからだ。
「危ねぇ~……」
「チッ! 躱したか……」
源昭の僅かな動きに気付いて正解だった。
飛んできたのは手裏剣だ。
顔面目掛けて飛んできた手裏剣を、凛久はギリギリのところで躱すことができた。
「そりゃ、遠距離攻撃も持ってるか……」
将軍を護る御庭番が、忍刀による近接戦だけしかできないなんてありえない。
離れた相手に攻撃する手段を持っていて当たり前だ。
その1つが手裏剣による攻撃なのだろう。
距離を取って完全に自分の方が有利と思っていた凛久だったが、まだ勝利を確信するのは速いと、気を引き締めたのだった。




