第67話 増量
「おいおい……」
花紡衆の1人、悠斗が、周囲を見渡して呟く。
野木衆が何人いようとも、同時に攻めかかって来られるのは3人程度。
仲間と連携して戦えば、そう簡単にやられることはない。
だからと言って、相手もなかなかの実力を持つ者たちだ。
無傷とはいかないし、こちらも体力の限界もあるため、さすがの花紡衆の面々も怪我と疲労がたまってきた。
しかし、それも終わりが見えてきた。
視界に入る敵が減ってきたからだ。
「どんだけいんだよ……」
これで蒼に勝利を届けられると思っていた花紡衆の者たちだったが、その期待がすぐに崩れた。
王城方面から、野木衆らしき装束を着た者たちが、こちらに向かって来ていたからだ。
しかも、これまで倒した人数と同等ともいえる程の数。
今でもギリギリの所だというのに、また同じ数を相手にしなければならないなんて、完全に勝ち目がない。
「さすが花紡衆。まさかおかわりするなんてな……」
絶望する悠斗たち花紡衆を見て、野木衆の隊長格らしき者が呟く。
予想通りの反応だった、敵を褒めている言葉に反して嬉しそうなのが声で分かる。
「花紡衆を確実に始末するために、我々野木衆は全員王都に集結させられているのだ」
野木衆頭領の道豪は、蒼たちが王都に向かうことを予想していたため、野木衆の全戦力をつぎ込む準備をしていた。
少数の花紡衆相手に全戦力は流石に大袈裟な気もしたが、道豪の言うように用意しておいて正解だった。
先に戦っていた者たちだけでは、負けていた可能性があったからだ。
「……なるほど、王都に入るのがそんなに難しくなかったのはそう言うことか……」
話を聞いて、悠斗は納得する。
蒼と共に王都に進入する際、思っていた以上に簡単だった。
若干の違和感を感じていたが、この場で自分たち花紡衆を確実に潰すために招き入れたと言った方が正しいようだ。
「くっ!」
「諦めたらどうだ? 回復薬も残り少ないのだろ? 今なら苦しまずに殺してやるぞ?」
もうすぐ後続隊が合流する。
それなのに、悠斗たち花紡衆の者たちは戦いを継続させる。
負けると分かっているのに抵抗をする花紡衆に対し、隊長格の男は諦めるように促す。
野木衆にこれ以上の被害を出さないための発言だ。
「負けると分かっていても、我々は最後まで蒼様のために戦う。それが花紡衆の生き様だ!」
新人の尚克と昇一が、早々に仲間からはぐれた。
恐らく、もうどこかで殺されてしまっていることだろう。
自分たちも、残り時間は短い。
だとしても、主人である蒼と風巻のために最後まで戦うというのが、蒼に仕える悠斗たちの矜持だ。
その思いを、悠斗が花紡衆を代表するように言い返した。
「……やはり面倒な奴らだ」
隊長格の男は、呆れるように呟く。
しかし、全員が迷うことなく最後まで戦う選択をした花紡衆たちを見る目は、敵ながら天晴れといっているかのようだ。
自分たち野木衆は、頭領の道豪に対しては同じような思いを持っている。
だが、王である頼吉に対して、命を懸けて助けるという思いを持っているかと言えばそうではない。
それだけ、蒼を主君として認めているのだろう。
自分たちも、そんな相手に仕えたかったという僅かに羨ましい思いがある。
「我々は、お前らと風巻を殺し、蒼様を捕えるだけだ」
主君のことはともかく、花紡衆を倒し、蒼さえ捕えれば、自分たち野木衆が御庭番衆としてこの国で大きな地位を手に入れることができる。
これ以上話をする事はないと感じた隊長格の男は、後続隊に向かって攻めかかるよう手で合図を出した。
「このっ!」「おらっ!」
「「「「「がっ!?」」」」」
「尚克! 昇一!」
後続隊が参戦して来たことで、悠斗たちはもはやこれまでと思った。
しかし、そんな悠斗たちを救うように、2つの影が後続隊に近付く。
そして、影の持ち主である尚克と昇一は、忍刀で後続隊たちを斬り倒した。
はぐれたことで、悠斗たち花紡衆の誰もが2人は殺されたと思っていた。
それが生きていたうえに、自分たちを救いに来たというのだから悠斗たちは驚くしかない。
「お前ら生きていたのか?」
「えぇ……」
「何とか……」
無事だったことを確認した悠斗は、2人に率直に問いかける。
その質問から、死んだと思われていたことを知り、尚克と昇一は複雑な表情で返答した。
「お前らが戻ってきたのは助かったが、この人数ではな……」
新人2人が生きて戻ってきたのは嬉しいが、数が数なだけに勝ち目が出たとは言えない。
どこかで死んだのではなく、ここで死ぬことに変わっただけかもしれない。
「大丈夫です」
「諦めるのは早いかもしれないですよ」
「……何?」
尚克と昇一が、どこか自信ありげに悠斗に言う。
戦う前に逆戻りしたような人数を前に、どうしてそんなことを言うのか。
2人の言葉に、悠斗は首を傾げた。
“ズダダダダダダ……!!”
「「「「「っっっ!!」」」」」
突如、断続した音が鳴り響く。
その音と共に、何かが野木衆に向かって飛んで行った。
「あ、あれは……」
聞いたことがある音に、悠斗は目を見開く。
尚克と昇一が言った先程の言葉も、その音を聞いたことで納得した。
「凛久殿……」
ある程度まで援護をしてくれたら、凛久は退却するように蒼に言われていた。
今頃は安全な場所へと移動しているはず。
それなのに、どうしてその凛久の持っているマシンガンとかいう武器の発射音が聞こえてきたのか。
「退却しなかったのか……」
「えぇ」
「我々も助けられました」
武器の音がするのだから、持ち主も近くにいるということ。
そのことから、凛久が退却せずに戦っていたことに気付き、悠斗はどこか嬉しそうに呟く。
その呟きに、尚克と昇一も反応する。
悠斗だけでなく、花紡衆の他の面々も同じことを思ったことだろう。
主人の男を見る目はあるようだと。
蒼はここにいないが、全員が同じことを思ったとしてもそれを口にはしなかった。
「くっ! バカな……」
予想通りに追い込めたはずだった。
それなのに、おかしな武器を持つ男のせいで勝敗が分からなくなってしまった。
そのため、隊長格の男は信じられないという表情と共に怒りを滲ませる。
「勝機はあるかもしれないな……」
凛久のマシンガンによって、多くの野木衆の者たちが倒れていく。
それを見て、悠斗たちの中に勝利する希望が生まれた。
凛久に触発された花紡衆たちは、自分たちも負けてはいられないと、向かって来る敵を倒す忍刀に力がこもった。




