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第36話 タゴートの町

「ようやく着いた!」


「そうだな……」


 魔物を狩って資金を作り、飛竜便を利用して移動する。

 それを繰り返し、凛久たちはようやく目的地に着いた。


「ここがタゴートの町か……」


「あぁ、ここから数キロ東に行けばアカルジーラ迷宮だ」


 着いた場所はサーラン王国のタゴートの町。

 アカルジーラ迷宮に一番近い町だ。

 ようやく到着したことに凛久が感慨深げに呟くと、蒼が東側を指差して説明した。


「まだ誰も最下層に到達していないんだっけ?」


「あぁ、かなりの人間が挑んでいるのだがな」


 発見が遅れたのだろう。

 迷宮が発見されて攻略が開始されてからかなりの年月が経過しているというのに、いまだに最下層に到達した者がいないという話だ。

 その中には、高ランクの冒険者もいるというのにだ。

 それだけ深くまで成長してしまっているということだろう。

 サーラン王国としても、もう攻略は諦めて、魔物が溢れて外に出てこないように間引くことしかできていないのではないだろうか。


「蒼でも攻略は無理か?」


「……分からないな。挑んだことが無いからな」


「そうか……」


 冒険者として高ランクの蒼。

 その実力なら、もしかしたら攻略が可能なのではないかと思い、凛久は尋ねた。

 その問いに対し、蒼は少し悩んだ後、自身なさげに答えを返した。

 蒼でも無理なら、下層部はどれだけ強力な魔物が潜んでいるのだろうと、凛久はアカルジーラ迷宮の脅威に軽く身震いした。


「初代日向国王ならどうだっただろう?」


 世界中で色々な逸話が残る初代日向国王。

 自分と同じ転移者らしいが、凛久はどれだけの実力があったのか気になる。

 比較するため、凛久は蒼に尋ねてみた。


「初代様なら最下層に到達できていたんじゃないか?」


「へぇ~……」『どんだけバケモノなんだよ』


 ここに来るまでの資金稼ぎに、かなりの多くの魔物たちを倒してきた。

 それによって多少は強くなっているはずなのに、自分は訓練で一向に蒼から一撃当てることができていない。

 そんな蒼よりも上の実力を持っているという初代日向国王は、どれだけ強かったのだろう。

 あまりにも自分と強さが違い過ぎることを考えると、本当に同じ転移者なのだろうか疑わしく鳴ってくる。


「今日はもう遅い。明日から挑むぞ」


「了解」


 今日はもう3時を過ぎているため、蒼は明日からアカルジーラ迷宮へ挑むことを指示する。

 なかなか慣れない飛竜便による空の旅で、何となく疲労を感じていた凛久は、その指示に素直に従った。






◆◆◆◆◆


「ハァ、ハァ……」


 夜の街を走る1人の黒装束の若い男性。

 どれほどの距離を移動したのか、疲労から息が切れている。

 その背後には、彼を追いかける数人の男たち。

 少し形が違うが、彼らもまた黒装束を纏っている。


「ここまで来れば……」


「無駄だ!」


「っっっ!!」


 なんとか追ってくる者たちを撒き、建物に身を隠す若い男性。

 しかし、彼が安心したのも束の間、身を隠した建物の周りを囲むように先程追いかけて来ていた者たちと同じ黒装束を着た者たちが姿を現した。

 しかも、これまで追いかけて来た者たちとは比べ物にならない人数だ。


「先回りされていたか……」


 自分を取り囲んだ者たちを眺めた若い男性は、観念したように呟く。

 人数次第では突破できるかもしれないが、この人数ではさすがに無理だと判断したようだ。


「まさかお前らなんかにしてやられるなんてな……」


「少数精鋭なんて言っているからだ」


 手に持っていた苦無を落とし、若い男性は悔しそうに呟く。

 武器を落とし、彼が抵抗を諦めたことを確認した追っ手の者は、嘲笑するように返答する。


「ふん! 調子に乗るなよ。お前らが俺を追い詰めることができたのは、単純に俺の実力が花紡衆(・・・)の中で低いだけだ。決してお前ら野木衆(・・・)の実力が上だからじゃない」


「フッ! 負け犬の遠吠えか?」 


 会話からも分かるように、追い詰められた彼は花紡衆の者で、風巻の配下の1人だ。

 彼の言葉を野木衆の者たちは負け犬の遠吠えと嘲笑するが、それは本当のことだ。

 彼は日向内の情報収集を任されている者の1人で、風巻の配下の中では1番経験が浅い。

 そのため、今回のように変装がバレるという失態を犯してしまったのだ。


「お前ら花紡衆も終わりだ」


「バカか? 俺一人殺った所で無駄だね」


 自分はここで尽き果てるとしても、代わりになる者は隠れ里にまだまだいる。

 そのため、野木衆の者が言っていることは完全に検討違いな話と言って良い。


「バカはお前だ。あの姫様にも消えてもらう」


「っ!! まさか、蒼様の居場所を……」


「そう言うことだ」


 追い込まれるようなヘマをしたとは言っても、野木衆に主の居場所を悟られるようなことをおこなった覚えはない。

 なので、野木衆の言っていることが信じられない。


「信じていないようだな? 見つけられた理由は簡単だ。国を出た姫様が何に縋るかを考えただけだ」


「そうか……」


 昔から、初代国王と同じ位の剣の才を持つと言われていた蒼。

 それもあって、蒼自身初代国王のことに関して興味を持っていたことは周知のことだ。

 野木衆の者たちはそのことから推測し、蒼の居場所を見つけ出すことに成功したようだ。


「俺のヘマでバレた訳ではないか……」


「さて、話はそろそろ終わりだ。観念しろ」


 主の居場所までバレたとあれば、他の仲間に申し訳ないところだったが、どうやら自分のせいではないようだ。

 そのことが分かり、花紡衆の若者は笑みを浮かべる。

 そんな彼を見た野木衆の者たちは武器を手にし、花紡衆の若者に向けて構えを取った。


「安心して死ねる」


 自分のせいで主をバレた訳ではないと知った花紡衆の若者は、笑みと共に地面に手を突く。

 そして、次の瞬間地面に一気に魔力を流し込んだ。


「追い詰めたつもりだろうが、ここら辺は空き家なんだぜ」


「「「「「っっっ!!」」」」」


“ズドンッ!!”


 花紡衆の若者は、追っ手から闇雲に逃げていたのではない。

 もしもの時のことを考えて魔法陣を設置しておいた、この場所を目標にして逃げ回っていたのだ。

 逃げきれたと思っていたが、これではもう諦めるしかない。

 ならば、やることは1つ。

 少しでも多くの敵を道連れにする事だ。

 魔法陣を設置する時、この周辺に人がいることはないと調査済み。

 花紡衆の若者は、自分の命と引き換えにするように、爆発の魔法陣を発動させた。



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