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第35話 移動費

「ふ~……、到着!」


 船から降りた凛久は、体をほぐしながら呟く。

 キョーワの町から出る船に乗って1時間。

 凛久たちは南大陸へと辿り着いた。


「船って結構疲れるんだな」


「そうだな。ずっと揺れっぱなしだからな」


 生まれてこのかた船に乗ったことが無かった。

 他の乗り物と大差ないと思っていたが、船の場合は波による左右の揺れが加わって、無意識にずっと体のどこかに力を入れている状態だった。

 そのせいで、何だか疲労感を感じる。

 そう凛久が呟くと、蒼も体をほぐしながら同意した。

 因みに、風巻はもう下船しており、今日凛久たちが泊まる宿の手配に向かってもらっている。


「クウは流石に何ともなさそうだな?」


「ワンッ!」


 見た目黒柴で凛久の従魔であるクウは、自分と違い船旅も特に何ともないようだ。

 凛久の側で、元気そうにお座りしている。


「まずはギルドへ向かおう」


「あぁ」


 乗船中はずっと座っていて、景色以外特に見るものもがなく暇で仕方がなかった。

 その鬱屈した気分を紛らわすために、凛久はクウを撫でまわした。

 そんな凛久に蒼が話しかけ、凛久たちはまずこのベノーの町のギルドへと向かうことにした。

 

「南大陸でも西と東だから、アルカジーラ迷宮までかなりの距離があるな……」


 南大陸の地図を購入して眺め、凛久は現在地と、目的地となるアルカジーラ迷宮の位置を見て思ったことを口にする。

 この南大陸の端から端といった位置関係だ。

 数万キロあるんじゃないかと思われる。


『ユーラシア大陸横断並みか?』


 この星の大きさがどれほどのものか分からないが、地図の尺度などから、地球のユーラシア大陸を横断する程あるのではないのではないかと凛久は想像した。


「馬車で半年近くかかるな」


「気が遠くなるな……」


 アルカジーラ迷宮まで相当な時間がかかると予想する凛久に、蒼は馬車でかかる時間を教えてくれた。

 車もないこの世界では、馬車が一般的。

 その馬車で向かうとなると、半年かかるそうだ。

 そんな長い期間かけないと着けないなんて、向かう前から気が滅入りそうだ。


「あくまでも馬車で行っていたらの話だ。凛久はこれまで使っていなかっただろうが、飛竜便を使う予定だ」


「飛竜……」


 陸路で向かうとなると馬車になるが、公共の乗り物は何もそれだけではない。

 特に長距離を移動する場合、馬車では時間がかかり過ぎる。

 そのため、蒼は飛竜による移動を提案してきた。

 元々この世界を移動して回るのが目的で、馬車や徒歩を中心とした移動を考えていた凛久は、これまで飛竜による移動という選択を考えていなかった。

 蒼に提案されて、凛久はその選択を思いだした。


「ワイバーンを従魔にしているって話だよな?」


「その通り」


 飛竜とはワイバーンのことだ。

 従魔にしたワイバーンの背に乗り、空の移動をおこなうのだ。

 馬車の場合、安全に進むためには街道を進むしかない。

 そうなると、目的地に向かって一直線というわけにはいかない。

 しかし、空を飛ぶ飛竜の場合はそうではない。

 空にも魔物はいるが、ワイバーン相手に向かって来るようなのは限られているため、遠回りすることなく移動することが可能だ。


「そう簡単に乗れるのか?」


「これでもAランクの冒険者だ。ちゃんと飛竜使いの知り合いもいるよ」


「なるほど」


 長距離移動もそうだが、荷物の輸送にも飛竜便は人気がある。

 そのため、乗りたいからと言ってすぐに乗れるとも限らない。

 事前の予約が必要なはずだ。

 そう思って凛久が問いかけると、蒼は胸を張って返答した。

 たしかに、蒼程の高ランクの冒険者なら飛竜使いの知り合いがいてもおかしくないため、凛久は納得した。


「知り合いがいても、距離もあるし相当な資金が必要になるんじゃないか?」


「そうだな。少しは割引してもらえると思うが、当然タダの訳ないからな。資金集めに仕事をしないと……」


 速くて人気がある分、飛竜便を使用するには結構な金額が必要になる。

 その知り合いと蒼がどういう関係か分からないが、タダで乗せえもらうわけにはいかない。

 思った通り、ある程度まとまった資金が必要らしく、蒼は依頼用紙が張られている掲示板を指差した。






「ガアァーー!!」


「って、やっぱりか!!」


 飛竜代を稼ぐために、幾つもの魔物退治の依頼を請け負った凛久たちは、ベノーの町近くの林に来ていた。

 そんななか、凛久は討伐対象の猪に囲まれていた。

 蒼やクウは近くにいるが、手を出す様子はなく薬草採取に精を出している。

 自分一人で魔物と戦わされている凛久は、案の定と思わず叫んでいた。


「資金を稼ぐだけなら私も手伝ってもいいが、凛久の場合はステータスを上げないとだめだからな」


「くそーっ! ごもっとも!」


 資金集めが目的だが、時間を無駄にするわけにはいかない。

 そのため、蒼は凛久に依頼を受けた魔物の討伐を全て任せた。

 魔物を倒すことにより、僅かながらステータスが上昇することを期待してのことだ。

 蒼の言っていることも分かるため、凛久は苦労しながら魔物の討伐を進めた。


「こんな事なら、俺もワイバーン欲しいな……」


「それはかなり難しいぞ」


 飛竜便を使用するためにこんな思いしなくてはならないのなら、自分がワイバーンを従魔にして、苦労なく移動したいところだ。

 従魔にしている人間がいるのだから、自分も可能性がないわけではない。

 そう思って、魔物を倒し終えた凛久が呟くと、蒼がツッコミを入れて来た。


「そうなのか?」


「野良のワイバーンは気性が荒い。そのため、基本的に卵から育てるものだからな」


「へぇ~」


 一応竜と名がつく魔物のワイバーンを従魔にするのは、かなり難しいことだと想像していたが、そもそも成体を従魔にする訳ではないようだ。

 孵化したばかりのワイバーンを従魔にして育てることで、主人の指示に従うように躾けるそうだ。


「今からじゃ無理そうだな」


 孵化からから育てるよりも、資金を稼いで他人の飛竜に乗って移動する方が早いだろう。

 そのため、凛久はあっさりとワイバーンの従魔化を諦めることにした。


「理解したなら魔物退治を頑張ってくれ」


「あいよ……」


 ワイバーンを従魔にしたい気持ちは蒼にもあるが、実行しようとするとかなりの年月が必要となる。

 日向に戻り、兄を倒して王位を継ぐことができれば、今のように好き勝手に移動することなんて出来なくなる。

 そうなればワイバーンを従魔にしても、使用することなど無くなってしまうだろう。

 せっかくのワイバーンを飼い殺しにする訳に行かないため、蒼は従魔にするのを諦めた。

 最終的に元の世界に帰る予定なのだから、凛久もワイバーンの従魔なんか期待しないで資金稼ぎを頑張ってもらいたい。

 蒼の言いたいことを理解した凛久は、渋々ながら飛竜代を稼ぐことにした。



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