第30話 説明②
「逃げてきたのは分かったけど、ここに来た理由は?」
兄たちが仕向ける暗殺者から逃れるために、日向の姫でありながら国から脱出しなければならなくなった理由は分かった。
しかし、大陸を渡ってまで遠く離れたこの国まで来る理由が分からない。
こんな所まで逃げないといけないくらい、暗殺者が追いかけてきたのだろうか。
「暗殺者たちからは逃れられたんだけど、王位争いが終わらないと私はいつまで経っても国に帰れない。どうしたら国に帰れるかと考えた時、私は初代様の日記のことを思い出したんだ」
「初代様の日記?」
国に帰るために、どうして初代の日記が関わってくるのか。
それに、初代国王の日記なんて、凛久からしたらかなり興味を惹かれる。
「昔、お父様に見せてもらったんだ。世界を一周した話とか、初代王妃様との馴れ初めとか」
「へ~……」
初代からすれば、自分の日記を見られるなんて恥ずかしいことこの上ないだろう。
しかし、元の世界へ戻るための方法が書かれているかもしれないため、そんな物があるのなら見てみたい。
「その中に、自分は別の星から来たと書かれていた。初代王妃様以外誰も信じていたなかったようだけど」
「……フ~ン」
信じてもらえないのも仕方がない。
凛久だって、異世界から来たと証明する方法がないのだから。
それにしても、聞けば聞くほど興味深い。
何としてもその日記を目にしたい。
「日記の始まりの場所、それがハンソー王国のヤーセン町近くの森だった。だから僅かな可能性に賭けて、ヤーセンへと足を運んだんだ」
「可能性……って?」
どうしてこの国に来たのか。
その理由がどうして蒼が国に戻ることに関わっているのか。
疑問ばかり浮かんでくる。
「……実は、初代王妃様には特殊な力があったんだ」
「特殊能力……」
先程の質問に答えが合っていない。
そこをツッコミたいところだが、関わりがある話なのかもしれない。
そう判断した凛久は、そのまま聞くことにした。
それにしても、初代王妃の能力なんて気になる言葉が出てきたため、思わず反応した。
「初代王妃様が現実に近い鮮明な夢を見た時、それが現実となる。つまり……予知夢だ」
「予知夢……」
「まぁ、その能力は自身でコントロールできるものではなく、予知の頻度や事の大小から、初代国王様しか信じていなかったようだけど……」
予知が好きな時に好きなだけできるなら、とんでもなく素晴らしい能力だが、やはりそんなわけにはいかないようだ。
いつ、どんな規模の予知ができるか、本人にも分からない不安定な能力だったのだろう。
それでも、信じている人間からしたら有力な能力だ。
「私の父をはじめとする歴代の国王もその力を信じていなかったけれど、その王妃様が亡くなる前にあることを予知した。いつの日か初代様と同じく、異世界から救世主が現れるって……」
「救世主?」
「私も救世主が何かって思ったけど、私にとって凛久は救世主になり得る存在。あの予知は正解だったかもね」
異世界転移は予知通りだが、異世界転移でラノベでよくあるような特殊な力を自分は何も与えられていない。
それなのに救世主と言われても、凛久からすると何のことだか分からない。
しかし、蒼からすると、日向へ戻るための救世主だと思っているようだ。
「……俺なんて剣はまだまだ、ちょっと魔法の才があるかもしれないだけの一般人だ。救世主なんて大袈裟なもんじゃない。とてもじゃないが蒼の役になんて立てないさ」
蒼が日向に戻るとなると、普通に帰ればまた暗殺者を送り込まれることになる。
そうならないためには、2人の兄を倒して王位に就くしかない。
蒼の配下がどれだけいるのか分からないが、国に戻れていない所を見ると、数と実力的に足りないのだろう。
異世界人とは言っても何実力のない自分では、その足りない部分を埋めることなんて不可能だ。
そう考えた凛久は、蒼の期待に応えられないと断ることにした。
「私はそうは思わない。実力なら魔物を倒すことで上げることができるし、君の知識はきっと我々を勝利へと導いてくれるはずだ」
「何を根拠に……」
凛久本人も、移世界人である利点は知識だけだと思っている。
その知識も、この世界で生き抜くことで精一杯な状況だ。
「私が初代様と王妃様を信じているからだ。それに、協力してくれた方が君のためにもなると思うぞ」
後で風巻から聞いた話だが、蒼は幼少期から初代国王のことの神聖視している所があるらしい。
しかも、そのお陰で剣の才を得られたとも思っているため、余計に崇拝するようになったということだ。
そんな初代の日記に書かれていたことが嘘だとは露ほども思っていないため、蒼の中では凛久が救世主だと決定しているような思考になっているようだ。
「どういうことだ?」
「私が国に戻れるようになれば、君に初代様の日記を見せてあげることもできる」
「…………」
蒼に協力することが、自分にとっても意味がある。
その理由が分からず首を傾げると、蒼は初代国王の日記のことを持ち出してきた。
初代国王の日記。
それを言われると、凛久は黙るしかない。
当然中身を見てみたいからだ。
「恐らく、君は帰還方法を探しているのだろ? 私は全部見た訳じゃないから、もしかしたら帰還方法も書いてあるかもしれないぞ」
初代国王の日記は、王族でもそう簡単に見られるものではないらしい。
蒼自身も、何十冊もある内の数冊しか読むことができていないそうだ。
しかし、それも王位に着けば話は別。
いくらでも日記を読むことができるようになる。
そうなれば、王の権利を利用して凛久に日記を読ませてあげられることもできる。
凛久を相手にするには、最も有効な取引と言って良いだろう。
「ハァ~……そうだな。協力するよ。俺のこと全部バレてるみたいだし……」
尾行を付けていたからイタヤの町で図書館通いしていた自分が、何を調べていたのか分かっているのだろう。
異世界人ということだけでなく、どうやら旅をしている理由もバレてしまっているようだ。
蒼にはこの世界で生きる術を教わった恩がある。
そのことを考えると、話を聞いておいて何もしないわけにはいかない。
そのため、凛久は諦めて異世界人だと認め、蒼に協力をする事を受け入れたのだった。




