第26話 蒼の考え
「……樹?」
「そのようだな……」
突如復活したダンジョンの最下層。
蒼を中心とした討伐組がダンジョン核があると思われる部屋の中に入ると、そこには3mほどの高さの樹が生えていた。
恐らく、ダンジョン核が自分を守るために作りだした魔物に関連しているのだろう。
そのことに気付いている冒険者たちは、警戒しつつ樹に向かって近づいて行った。
“シャッ!!”
「っっっ!!」
守護魔物の間合いに入ったのか、先頭を進む蒼に向けて枝が高速で伸びる。
それに反応した蒼は、その場から跳び退くことで攻撃を回避する。
「予想通り、あれが核を守っているようだな……」
攻撃を躱した蒼は、確信したように呟く。
樹に隠れて何かが襲い掛かってくるのではなく、あの樹自体が魔物のようだ。
“ギロッ!!”
「口と目玉が……」
最初の攻撃を躱されたことで誤魔化す気がなくなったのか、魔物の幹に口と1つの目が出現した。
その目は、蒼たち冒険者をまるで品定めをするかのように眺める。
「ギギギ……」
「っ!! 来るぞ!!」
魔物の口が歪む。
それを見て蒼は仲間に警戒を促す。
「くっ!!」「おわっ!!」
先程、蒼を攻撃した時と同じように、魔物の枝が伸びて冒険者たちに襲い掛かった。
ある程度の距離を取っているため、その攻撃を冒険者たちは躱す。
「速いが、この距離なら大丈夫そうだ」
「しかし、これじゃあ近付けない」
敵は床に根を張っているため、移動できるようには見えない。
その分、攻撃速度を上げているようだ。
かなりの攻撃速度のため、直撃を受ければかなりの痛手をくらうのは目に見えるが、かなりの距離を取っているため躱すことは問題ない。
しかし、これでは敵も近付けない代わりに、こちらも近付けそうにない。
「魔法や弓などの遠距離攻撃だ」
「「「「「おうっ!」」」」」
これ以上近付けないというのなら、ここから攻撃をするしかない。
蒼の指示に、他の冒険者たちは従う。
「樹なら火に弱いだろ!?」
「くらえっ!!」
冒険者の中で魔法が得意な者たちが、自分の番だと言わんばかりに攻撃を開始する。
樹に水では通用するのか怪しい。
そのため、弱点であるであろう火球の魔法が魔物に殺到した。
「ギッ!!」
“ドガンッ!!”
「っ!!」
迫り来る火球に対し、魔物は枝で突如地面を殴りつける。
それによって地面が砕け、石が大量に舞い上がった。
その舞い上がった石が飛んできた火球に衝突し、全ての火球が魔物に当たる前に撃ち落された。
「距離が有利に働くのは、あいつも一緒って事か……」
距離があることで敵の枝攻撃がこちらに通用しないように、こちらの攻撃も対処できるということらしい。
続いて放たれた弓も、同様の方法で防がれてしまった。
「これじゃあ、埒が明かないな……」
冒険者の一人が呟く。
たしかに、どちらの攻撃も通用しないのでは、無駄に時間が消費されるだけだ。
むしろ矢や魔力が減る分、こちらの方が不利かもしれない。
“ゴッ!!”
「ゲゲッ!」
「何だ?」
どうやって攻撃をするべきか。
それを考えるために冒険者たちが攻撃の手を止めると、魔物方が動き出した。
枝を数本を伸ばし、地面に突き刺したのだ。
“ゴゴゴゴ……!!”
「……おいおい。まさかあれを投げる気か?」
枝により地面を抉られ、巨大な岩が持ち上がる。
その巨大な岩を見て、冒険者の1人が信じられないと言うかのように疑問の声を上げる。
「ゲギャ!!」
「おわっ!!」「マジかよ!!」
予想は的中し、魔物は持ち上げた岩を放り投げて来た。
速度は無くてもでかすぎる。
冒険者たちは蜘蛛の子を散らすように、その場から逃げ出した。
「おわっ!!」「うわっ!!」
散ったことで、冒険者たちは巨大岩の直撃は免れた。
しかし、落下による衝撃で巨大岩が弾けた。
四方へと散弾の様に飛び散った石により、数人の冒険者が怪我を負った。
「大丈夫か!?」
「うぅ……」「何とか……」
無傷の蒼が仲間に確認の声をかける。
返事をするが、どうやらみんな多かれ少なかれ痛手を負ったらしく、体の数か所から血を流している。
とりあえず全員戦える様子に、蒼は安堵した。
「あの魔物の武器は枝だ。それを斬り落とすから、みんなは援護を頼む」
「えっ!?」「斬り落とすって……」
冒険者たちが聞き直す間もなく、蒼は1人魔物に向かって走り出した。
「ゲギャッ!!」
魔物の間合いに入る。
それにより、魔物は蒼目掛けて枝を伸ばしてきた。
「フッ!!」「ハッ!!」
その枝攻撃の軌道をずらすように、冒険者たちが魔法を放つ。
「ハーッ!!」
仲間の援護によって、蒼は殺到する枝攻撃を躱す。
そして、腰の刀を抜いて枝に斬り刻んだ。
「ギャーウ!!」
「おぉ! 効いてるぞ!」
蒼によって枝を斬られた魔物は、悲鳴のような物を上げる。
その様子から、魔物がダメージを受けていることを悟る。
「ギャウ!!」
「っ!!」
武器となる枝を斬られた魔物は、切断面に魔力を集める。
それにより、枝が再生していった。
「くっ!! 再生!?」
せっかくダメージを与えたというのに再生してしまい、冒険者たちは歯噛みする。
“ダッ!!”
「あ、蒼殿!?」
敵が枝を再生している間も、蒼は魔物に向かって走り続ける。
その行動の意味が分からず、冒険者たちは戸惑う。
「ギッ!!」
蒼の接近を察知した魔物は、すぐさま再生した枝で襲い掛かる。
「もう遅い!!」
蒼は、戦闘開始時から使用していた身体強化の魔力を増やし、急加速する。
そして、迫り来る枝攻撃を掻いくぐり、一気に魔物へと接近した。
「シッ!!」
「ゲギャーーー!!」
接近した蒼は、刀による突きを放ち魔物の目を突き刺す。
攻撃を受けた魔物は大きな悲鳴を上げ、葉がボロボロと枯れ始めた。
「……目玉が弱点だったのか?」
「あぁ、半分は勘だったけどな」
冒険者の問いに、蒼は返答する。
魔物が枝を再生した時、目玉が光ったのを見逃さなかった。
その禍々しい光が力の発生源だと判断し、蒼は速攻をかけたのだ。
予想は的中し、目玉の中に魔石が隠れていたようだ。
その魔石が破壊され、魔物はそのまま消滅していった。
そして、魔物が消え去った背後には、ダンジョン核が鎮座していた。
“パキンッ!!”
「フゥ~、これで魔物の発生も止まる」
出現したダンジョン核を破壊する。
目的を達成できた蒼は、一息ついたのだった。




