第25話 攻略組
「お前すげえ武器持っていやがったんだな?」
座り込んだ凛久に駆け寄ったクラセロは、テンション高く話しかける。
少し前まで勝てる見込みがないく、死も覚悟するほどの状況だった。
しかし、まさか凛久がミノタウロスを倒してしまうとは思わなかった。
なので、テンションが上がるのも仕方がないことだ。
「あぁ、まあな……」
勝つには勝ったが、はっきり言って紙一重だった。
片手片足を潰したことで、少し気が緩んでしまった。
ミノタウロスが武器投げによって意識を反らせて、片芦田による突進をしてくるなんて思いもしなかった。
あの時、確実に仕留めるまで身を隠しながら攻撃をするべきだった。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
「よ~しよし」
従魔のクウも、嬉しそうに凛久の体に頭をこすりつけて来た。
その仕草を見て、凛久はクウの全身を撫でまわしてあげた。
「そんなの持っているなら、最初から出せっての!」
ミノタウロスによって、3人の冒険者が殺されてしまった。
冒険者には危険が付きまとうものだと、彼らも分かっていたはずだ。
だから、別にそのことを攻めるつもりはないが、もっと早くその武器を使用していれば、もしかしたら彼らも死ななかったかもしれないと思えてしまう。
「秘密兵器だって言っただろ? これは実験的に作った武器で、また使えるか試したことが無かったんだ。使えるか分かんないままぶっつけ本番をするしかなかったんだよ」
ゴブリンロードに怪我を負わせた猟銃は、遠距離からの攻撃に適している。
この世界にはどこに魔物が潜んでいるか分からないため、安全性を考えるなら隠れた所から猟銃で倒すのがベストだ。
しかし、今回の様に距離を取れない中距離戦闘を余儀なくされた場合のことを考えて、魔法陣を利用した拳銃の作成を考えた。
作成にとりかかったのは、この町に来てからだ。
なので、出来て間もない。
あの危険なミノタウロスと戦わなければならなくなり、実験もなく使用するしかなかったのだ。
「そうだ! ミノタウロスの攻撃を止めたのは誰だ? クラセロか?」
武器の投擲して凛久の寸前まで接近したミノタウロスの突進力は、人間のような肉体をしているというのに、頭部の牛のように強力だった。
もしも援護がなければ、凛久は確実に死んでいた。
ギリギリの状況だった凛久には、誰による援護なのかは確認している余裕がなかった。
そのため、その礼を言うために、凛久はクラセロに問いかける。
「いや、俺は何もしていない。……というより、何もできなかった」
あんな速度で突進するミノタウロスを止める手段なんて持ち合わせていない。
速すぎて反応しようにも、反応できなかったというのがクラセロの本音だ。
「じゃあ、誰が……」
「ハッハッハ……」
「……そんな訳ないしな」
他の冒険者は、ミノタウロスの出現に気付かず別の場所で魔物と戦っている。
そのため、この付近には他に誰もいない。
付近にいたとすれば、クウとクラセロだけだ。
クラセロでないとなるとクウでしかないが、いくらクウが変異種だとしても、ミノタウロスの突進を止められるような攻撃ができるとは思えない。
「誰なんだろ……?」
勝利できたというのに、誰が助けてくれたのか分からないためモヤモヤした気分が残る。
「そんな事より、ミノタウロスの魔石を回収しておいた方が良いぞ」
「あぁ、そうだな」
ダンジョン内には制する魔物の数を減らす方法として、倒した魔物の魔石をとりだすというものがある。
というのも、ダンジョンは核に溜めた魔素を利用して魔物を発生させていると考えられているからだ。
ダンジョン内に生物の死体が発生して放置されると、30分程度で吸収されてしまう。
その養分と魔素を利用し、ダンジョン核は新しく魔物を発生させる。
ゴブリンなどの弱い魔物なら、魔石を回収した所で大した意味がないが、ミノタウロス程の魔物となると相当な養分と魔素を使用しているはず。
その結晶体である魔石を回収しておけば、多少とは言えダンジョン攻略のために下層へ向かった冒険者たちの援護になるはずだ。
クラセロの言葉を受けた凛久は、ダンジョンに吸収される前にミノタウロスの魔石を回収した。
「いくら何でも、こんな上層でミノタウロスが連発なんてありえないだろ」
「あぁ、ひとまずは一息つけそうだ」
上層でミノタウロスが出現するなんて、イレギュラーなことでしかない。
それが連発するなんて、天文学的確率でしかない。
そのため、凛久たちは出現するゴブリンなんかは他に任せ、ひとまず休憩することにした。
「後は高ランクの冒険者たちに期待しよう」
「あぁ」
とりあえず一難去った。
後は下層に向かった高ランク冒険者たちに、ダンジョンを攻略してもらうのを待つことにした。
◆◆◆◆◆
「……どうやらあそこが最終部屋のようだな?」
「そうみたいだな……」
突如復活したダンジョンを攻略するために下層に来た高ランク冒険者たち。
突然できた壁の穴に入り、先へ進むこと数時間。
何度も魔物に襲われ、連携して倒してきたが、それももうすぐ終わる。
重厚な扉の前にたどり着いたからだ。
行き止まりの所を見ると、ここがダンジョン核のある最奥の部屋になっているのだろう。
「白黒熊の大量発生には驚いたが、再ダンジョン化して間が空かなかったのが幸いしたのかもな」
「早々に発見した鉱員には感謝だな」
再ダンジョン化したばかりで、たいして養分と魔素を溜め込んでいなかったのだろう。
白黒熊などの強力な魔物が大量に出たが、それもすべて倒すと魔物の出現が治まった。
もしも発見が遅れていたら、ここに来るまでもっと危険な目に遭っていただろう。
「さて、みんな用意は良いか?」
「はいっ!」「おうっ!」
高ランクの冒険者といっても、この町にはAランクの冒険者しかいない。
その中でも、一際活躍している冒険者がいた。
その者のお陰で、誰一人大怪我を負うことなくここまで来れたと言ってもいい。
そのため、その者はいつの間にか他の冒険者たちにリーダー的存在として扱われている。
恐らくこの扉の先には、ダンジョン核と共にそれを守護する魔物が存在しているはずだ。
当然、白黒熊以上に危険な魔物であることはたしかだ。
全員がそのことを理解したのを確認し、リーダー格の冒険者は中へ入ることにした。
「頼りにしてます蒼殿」
「あぁ」
リーダー格の冒険者。
それは蒼だった。




