第23話 ミノタウロス
「ガアァーー!!」
「おわっ!!」
「速っ!!」
突然現れたミノタウロスは、凛久とクラセロに目を向けるとすぐさま襲い掛かってきた。
2メートル以上の体躯でありながら、2人との距離を一気に距詰めて拳を振ってくる。
その攻撃を、凛久とクラセロはその場から跳び退くことで回避した。
「クウ! いくらお前でもあいつは危険だ。俺から離れるなよ!」
「アンッ!」
変異種のクウの戦闘力は高い。
しかし、そのクウでも、ミノタウロスの攻撃を受ければひとたまりもないはず。
なので、凛久は攻撃をせずに側に居るよう指示を出す。
「ハッ!!」
「ガッ!!」
攻撃を躱して距離を取った凛久は、魔法による攻撃をおこなう。
手の平大の火の玉が当たり、ミノタウロスが僅かに怯んだ。
「速いけど、何とかなるかも……」
「あぁ……」
強敵の出現に驚いたが、これまで出現した魔物との戦いで破壊された家屋の瓦礫などにより、ミノタウロスが得意とする直線的高速移動が殺されている。
そのため、凛久やクラセロでも逃げ回れる。
しかも、ミノタウロスは発生したばかりで武器を持っていない。
瓦礫を盾に逃げ回り、離れた位置から魔法攻撃を続ければ何とかなるかもしれない。
その姿を見た時は死も頭をよぎったが、少し希望が見えて来た。
「治まったみたいだな……」
「「っ!?」」
凛久たちが希望が見えた所で、人の声が聞こえてきた。
少し離れた場所で、他の魔物戦っていた冒険者だろう。
ゴブリンなどの弱い魔物が出現しなくなったからか、場所を移動して他に魔物がいないか捜索に来ていたようだ。
「ミノタウロスがいる!! 建物に身を隠せ!!」
「おわっ!!」「マジかよ!!」「ミノタウロス!?」
現れた3人の冒険者は、ミノタウロスの存在に気付いていないらしく警戒心薄い。
気付くのが遅れればミノタウロスの餌食になると判断した凛久は、すぐに大きな声で3人に警告する。
その声により、ミノタウロスの姿を確認した3人は、驚きの声と共にすぐさま建物に身を隠した。
「おい! お前らも手伝ってくれ!」
「クラセロ!?」
「いや、無理だろ!?」
「ミノタウロスだぞ!」
どうやら3人は知り合いらしく、クラセロはミノタウロス討伐の協力を求めた。
しかし、この階層を任されているということは、彼らも凛久たちと同じランクの冒険者ということだ。
つまり、ミノタウロスの相手をできるような実力ではないため、及び腰になっている。
「瓦礫を使って遠距離から攻撃すれば何とかなる!」
「マジか?」
「……分かった」
「やってやるよ!」
何も近付いて倒せと言う訳ではない。
瓦礫が散乱するこの状況なら、ミノタウロスの高速直線移動という長所が消える。
距離的にもクラセロたちの方が近いし、自分たちが標的になることは低いだろう。
そのことを察した3人は、クラセロの協力要請に頷くことにした。
「ガアァーー!!」
「っと!!」
大きな声を出してことで、ミノタウロスはクラセロの方へ襲い掛かる。
だが、やはり瓦礫が邪魔をして速度が鈍り、クラセロはその場から跳び退いて攻撃を躱した。
「今だ!!」
「「「おっしゃーー!!」」」
クラセロへの攻撃を失敗した所で、凛久が声を上げる。
それを合図として、クラセロ以外の4人は一斉に遠距離攻撃をおこなう。
「グルァッ!!」
凛久の火球に、3人の冒険者が放った火球・石弾・矢がミノタウロスへと襲い掛かる。
腕を畳んで防御をするが、ミノタウロスは痛みで苦し気な声を漏らした。
「本当だ!」
「効いてる!」
「このまま弱らせれば……」
ミノタウロスの攻撃にさえ注意すれば、クラセロの言うように何とかなるかもしれない。
そのことを確信した冒険者3人は、笑みを浮かべて次の攻撃機会を計ることにした。
「グルル……」
「……おいおい」
「もしかして……」
凛久とセントロも、3人同様遠距離攻撃をしていれば勝てると思った。
しかし、ミノタウロスの動きに変化が起きる
高速直線移動ができないうえに、武器も持っていないミノタウロス。
ダンジョンは魔物を出現させることはできても武器を生み出すことが無いからだ。
ここまでの攻防で素手では戦えないと判断したのか、ミノタウロスは壊れた家屋の瓦礫と木材を持ち上げた。
それを見て、凛久とクラセロは嫌な予感がした。
「ガルアァー!!」
「「「っっっ!!」」」
凛久たちの予感は的中する。
ミノタウロスは、右手で持ち上げた瓦礫を放り投げた。
その標的は冒険者3人組。
「ゴッ!!」
3人組の1人。
ミノタウロスが放った瓦礫が猛スピードで飛来し、先程矢を放った冒険者は直撃を受けて、腹に風穴を開けた。
「「………………」」
腹に穴を開け、大量の血を拭きだして倒れ伏す。
あまりのことに、仲間の2人は頭がマヒしたように固まる。
「……に、逃げろ!!」
「……あ、あぁ!!」
一拍置いて現状を理解した2人は、やはりミノタウロスには敵わないと逃走を図ることにした。
「ガアァーー!!」
「危ない!!」
「ガッ!!」「うっ!!」
背中を向けて逃げ出そうとした2人に対し、ミノタウロスは再度拾い上げた瓦礫を投げつける。
凛久の警告も虚しく、瓦礫が直撃し、1人は頭部が吹き飛び、もう一人は胸に穴を開けて即死した。
「薬草屋! これ以上は無理だ! 俺たちも逃げるぞ!」
「無理だ! あいつ完全に俺たちを標的にしている!」
あんな投擲を躱しながら攻撃なんてできるわけがない。
あの3人のようになりたくないと、クラセロは凛久に逃走を提案する。
そうしたいのは凛久も同じだが、逃げ切るのは難しいだろう。
右手に瓦礫、左手に家屋の柱を棍棒代わりにしたミノタウロスが、完全に自分たちに目を向けているからだ。
もしも背を向けようものなら、先程の2人のようになることは間違いない。
「攻撃を回避しつつチャンスを待つしかない!」
「そんなの来るかよ!」
ミノタウロスの移動速度と投石力を考えると、逃げるのは難しそうだ。
だが、これまで通り瓦礫を盾にしていれば、投石攻撃は受けないはず。
今の距離を維持しつつ、どうにか攻撃チャンスを待つしかない。
たしかに凛久の言う通りだが、攻撃をしようとした瞬間、瓦礫を投げられて死ぬイメージしかできない。
クラセロは3人があっさり殺されたことで、完全に戦意を喪失してしまったようだ。
「仕方がない……」
この状況では自分がどうにかするしかない。
そう判断した凛久は、諦めと共に懐に手を入れた。




