第20話 出現
“グラグラ……”
「ん? 何だ?」
攻略されたダンジョンを利用してつくられた地下都市イタヤ。
町に着いて2週間、凛久は図書館に通い続けていた。
最初読んでいたのは日向初代国王に関する書物だったが、それも読み終わるとこの世界に関する本を読むようになっていた。
そして、いつものように本を読んでいると、小さな揺れを感じた。
「地震ですかね……? ちょくちょくあるけど、近くに原因でもあるんですか?」
「う~ん、ここ最近おかしいですね。ここは平野ですし、火山などはないのですが……」
この町に来てから2週間経つが、このような揺れが頻繁に起きている。
もしかしたら何か原因があるのかと思った凛久は、顔見知りになった司書の女性に話しかけた。
どうやら今回のような小さい揺れが、最近になって頻繁に起きているらしい。
しかし、この付近に火山などないため、噴火による地震は考えづらい。
司書の彼女としても、原因が分かっていないようだ。
「まぁ、たいした振動じゃないですし、問題ないとは思いますが……」
「ふ~ん……」
地震といっても軽く揺れを感じる程度だ。
何が原因かは分からないが、たしかに驚くほどではない。
そのため、凛久は気にするのをやめ、読書を再開した。
◆◆◆◆◆
“グラグラ……”
「あれ? また……」
「最近多いよな?」
「あぁ」
元々ダンジョンの一部といっても、何十層もある階層全てを町として利用している訳ではない。
色々な鉱石がとれることから、下の階層は採掘をおこなっている。
鉱員たちがいつものように採掘をしていると、凛久が感じたのと同じ振動を感じていた。
彼らも頻発する地震に、多少の違和感を感じていた。
「もしかして、掘り過ぎて地盤が崩壊したか?」
「何言ってんだよ。ちゃんと土魔法使いが補強してくれているだろ」
「そりゃ、そうだ」
彼らも原因は分かっていないため、鉱員の一人は地盤の崩壊を冗談交じりに言う。
下層が潰れれば、当然上にある住宅層も潰れてしまう可能性がある。
そのため、採掘作業は慎重に進めている。
その中でも、地盤が崩壊しないように強化をするために、土魔法が得意な者たちが雇われている。
彼らの魔法によって固められているため、地盤崩壊などあり得ない。
そのことを鉱員の1人が指摘すると、冗談を言った者は納得したように頷いた。
“ガラガラガラッ!!”
「「っっっ!!」」
鉱員たちが無駄話をしていたら、突如壁に穴が開いた。
冗談が本当になったと驚いた鉱員たちは、揃ってその穴に目を向行けた。
「ゲギャ!!」「ギギッ!!」
「なっ!! 何で!?」
「魔物だ!! 魔物が出たぞ!!」
開いた穴からは、ゴブリンなどの魔物がぞろぞろと姿を現した。
それを見た鉱員たちは、大声を上げて仲間たちに魔物出現を知らせた。
「ゲギャ!!」
「くっ!!」
穴から出てきたゴブリンが、鉱員の1人に襲い掛かる。
鉱員は手に持った採掘用の鶴嘴を利用して、何とか攻撃を防ぐ。
「どうなっているんだ!?」
「知るか!! ともかく、退避してギルドに知らせるんだ!!」
少数のゴブリンなら鉱員たちでもどうにかなる。
しかし、穴からは魔物が次々と現れている。
数が数のため、鉱員たちは戦うよりも退避することを選択し、彼らはこのことを知らせるためにギルドのある上の階層へと向かった。
◆◆◆◆◆
「……何だ?」
読書を終えて図書館から宿屋へと変える道すがら、凛久は町が騒がしくなっていることに気が付いた。
騒がしいと言っても、祭りのようなものではない。
何か事故や事件でもあったかのような雰囲気だ。
「クラセロ。何があったんだ?」
「おぉ、薬草屋」
騒がしくなっている原因を知るためギルドに向かうと、凛久は顔見知りのクラセロという冒険者を発見して話しかけた。
大群のゴブリン退治によって結構な額の報酬を受けたため、資金面では特に心配はないが、備えあれば患いなし。
報酬はもしもの時のために取っておくことにし、凛久はこの町で生活する費用をいつものように薬草集めの仕事をすることで補っていた。
薬草採取の仕事ばかりしているため、顔見知りの者たちからは薬草屋と呼ばれるようになっていた。
「なんでも、下層の採掘所の壁に穴が開いて、そこから何体もの魔物が出現したそうだ」
「なっ!! 大変じゃないか!」
攻略されたダンジョンといっても、地上と同じようなもの。
極稀に魔素の集結によって魔物が発生するというようなことはある。
しかし、何体もの魔物が出現するなんて明らかにおかしい。
クラセロの説明を受けて、凛久は驚きの声を上げた。
「たいしたことないようだから、すぐにこの騒ぎも治まると思うぞ。数人の冒険者が魔物退治に向かったって話だし」
「そうか……」
魔物の出現という異変に驚きはしたが、もう問題解決に動いているということなら安心だ。
それなら宿に戻って、留守番をさせてしまっているクウを構ってやることにした。
「ただいま戻りました」
「あぁ、リクさん。おかえりなさい」
「アンッ! ハッハッハ……」
宿に帰ると女将さんが迎えてくれた。
その足元には従魔のクウがおり、主人の凛久が帰って来たことを尻尾を振って喜んだ。
「クウの面倒見てもらって申し訳ないです」
「いやいや、他のお客さんの相手をしてくれてこっちも助かったわよ」
図書館に行っている間、クウに刃借りている部屋で留守番するように言っていた。
しかし、それを知ったこの宿の女将さんが、凛久がいない間相手をしてくれると申し出てくれた。
部屋の中に閉じ込めておくのはかわいそうなので、凛久は女将さんの申し出に甘えることにした。
凛久の指示でおとなしくしているクウは、1階の食堂に来るお客さんに人気があるらしい。
特に女性のお客さんに人気があり、最近ではこの店の看板犬のようになっている。
「よ~し、よし……」
「ハッハッハ……♪」
女性客に撫でまわされているが、やはり主人に撫でられるのが一番嬉しいらい。
クウの尻尾はちぎれんばかりに左右へ振られた。
「うわっ!!」
「っ? 何だ?」
借りている部屋に戻ってクウを撫でていると、宿の外で男性の大きな声が上がった。
不思議に思った凛久は、窓を開けて外を眺めた。
「えっ! 魔物!?」
外を見て凛久も驚いた。
声を上げた男性の側に、1体のゴブリンが立っていたからだ。
人の住んでいない階層なら出現するという話は聞いたことがあるが、住宅地になっている階層に出現したという話は聞いたことが無い。
「た、助けて!!」
「クウ!!」
「アンッ!!」
驚いて固まっている場合ではない。
ゴブリンとは言え、放って置いたら一般市民に被害が出る。
特に、先程悲鳴を上げた男性は、ゴブリンの標的になってしまったようだ。
逃げようにも腰を抜かしている様子。
放置できないと判断した凛久は、すぐにクウに指示を出した。
その指示を受けたクウは、窓から飛び降りてゴブリンへと向かって行った。
「アンッ!!」
「ギャウ!!」
クウの高速タックルを受け、ゴブリンが吹き飛ぶ。
どうやらその一撃で仕留めたようだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、君の従魔か? 助かったよ」
クウから少し遅れて、凛久も宿屋から出る。
戦いが終わっていたのを確認し、凛久は腰を抜かしていた男性に話しかける。
自分のピンチを救ってくれたクウが、この青年の従魔だと理解し、男性は感謝の言葉を述べてきた。
「まさか町中に魔物が出現するなんて……、どうなっているんだ……?」
町中に魔物が出現するなんて、いくら何でもおかしい。
地下の魔物のことも含め、凛久は嫌な予感がしていた。




