第18話 移動
「えっ!? こんなにもらえるんですか?」
手にした袋の中を見て、凛久は驚きの声を上げる。
今日凛久がギルドに来たのは、先日の大量は制したゴブリンの討伐に参加した報酬をもらいに来たのだ。
低ランクの冒険者である自分は、たいした金額をもらうことはできないと高をくくっていた。
しかし、袋に入った報酬は、思っていた金額の倍以上の額が入っていたため、思わず驚いてしまったのだ。
「えぇ、多くの冒険者からの証言により、リクさんの評価額を上げることになりました」
「えっ?」
凛久が報酬額に驚いているのを見て、受付の女性はこの額になった理由を説明を始めた。
どうやら、一緒に戦った冒険者たちからの証言によるものらしい。
「リクさんの薬草のお陰で、多くの冒険者の命が救われました」
薬草採取の仕事ばかりをして魔物退治をしない凛久のことを、中には見下す冒険者がいた。
しかし、彼らがゴブリン退治で負傷した時、その怪我を回復させたのは、他ならぬ凛久の薬草だった。
そのため、彼らは凛久のことを認めるように見る目を変えた。
あの時の薬草がなければ、もっと多くの被害者を出していた可能性があったために、評価が上がったようだ。
日頃から安全を重視して、安定的な薬草採取依頼を受けていただけなのだが、それが功を奏したようだ。
「それと、クウちゃんの評価も入っています」
「クウの……?」
薬草の件で評価が上がったのは分からなくはない。
しかし、クウの評価と言われてもあまりピンとこないため、凛久は首を傾げる。
「その子もゴブリン討伐に貢献していたと聞いています。従魔の活躍は主人の評価に加算されます」
「へぇ~……」
怪我をした仲間たちに薬草を運んでいた時、クウは凛久に迫る敵だけでなく、他にも冒険者たちに襲いかかるゴブリンたちも倒していた。
助けられた者たちが、そのことを証言してくれたことにより、上乗せも入っているようだ。
「ありがとうな。クウ」
「ハッハッハ……♪」
クウの活躍により報酬金額が上がったことを知り、凛久は足元にいるクウを褒めながら頭を撫でてあげた。
主人の凛久に褒められて嬉しいのか、クウはブンブンと尻尾を振った。
「一番評価されたのは、ロードに一撃を加えたことですね。お陰で時間を稼ぐことができました」
一発撃っただけで壊れてしまい、また作り直しになってしまったが、凛久は知識を利用して猟銃を作っていた。
その銃によってロードの脚に怪我を負わせることができ、長時間とは言えないまでも時間を稼ぐことができたことで、戦闘員が全滅する前に高ランク冒険者が戻ってくることができたと言ってもいい。
そのことに関しては、貢献できたと自負している。
「それらの功績から、低ランクの冒険者の中では最高の評価がされ、リクさんのランクアップもされることが決定しました」
「おぉ、本当だ!」
報酬を得るために提出していたギルドカード。
受付嬢は、それを返却すると共に、カードの一か所を指差す。
そこを見ると、たしかにEランクからDランクに変わっていた。
それを見た凛久は、嬉しさから自然と笑みを浮かべた。
「普段は魔物を全然退治しないから、まだ先だと思っていたよ」
ギルドランクは、ギルドへの貢献度で変化する。
主に、魔物の討伐依頼を一定数達成することで、ランクアップするといわれている。
そのため、多くの冒険者は少しでも早くランクアップするために、魔物退治の依頼を受けることが多い。
そのせいで、毎年必ず命を落とす者が出る。
それに引きかえ、凛久は魔物退治の依頼はたまにしか受けず、薬草採取の依頼をメインにしている。
そのため、先の話だと考えていただけに、このランクアップは嬉しい誤算だ。
「よし。報酬も手に入ったし、今日は仕事を休んで美味い飯屋にでも行こうか?」
「アンッ!」
薬草採取で充分資金は稼いでいるが、旅費の貯蓄をしなければいけないこともあり、凛久はいつも質素倹約に努めている。
しかし、今回の報酬で旅費も溜まったため、少しの余裕ができた。
たまには多少の贅沢がないと、精神的にこんな生活続けられないため、凛久はいつもより高い料理店へ向かうことにした。
「報酬がアップしたのはクウのお陰もあるから、良い肉を食べさせてやるからな」
「ッ!! アンッ!!」
ギルドから出て発せられた凛久の言葉に、クウは尻尾を高速で振り回す。
そして、良い肉が食べられると、嬉しそうに凛久の周りを走り回る。
「ハハッ!」
思っていた以上に喜ぶクウの反応に、凛久は思わず笑い声を上げた。
◆◆◆◆◆
「そうか……凛久は助かったか?」
「はい……」
ヤーセンの町で凛久と別れた蒼。
ゴブリン襲撃の報告を聞いて、現在はゾーダイの近くまで来ていた。
そして、凛久のことを見張らせていた部下から、数日前の事件の報告を受けていた。
「もしもの時のことも考えていましたが、まさかロードに一撃を入れるなんて思いもしませんでした」
「全くだ……」
キングどころかロードまで出た襲撃も、高ランク冒険者たちの手によって抑え込むことに成功した。
高ランク冒険者たちを別の所に誘い出し、その隙にゾーダイの人間を喰い散らかそうとロードは企んだようだが、思わぬ抵抗にあってそれも無駄に終わった。
その一番の想定外が凛久と言って良い。
蒼の指示を受け、もしもの時は凛久の身を護るために動くつもりでいた。
しかし、その心配も無駄に終わった。
見たこともない武器により、凛久がロードに一撃を与えたからだ。
脚を怪我したロードは動きが鈍り、高ランク冒険者が戻ってくるまでに撤退するという行動も取れなくなった。
結果、凛久の一撃が、あの場に集まった多くの戦闘員たちの命を救ったといってもいい。
予想外という部下の言葉に、蒼も同意した。
「どんな武器だった?」
「筒状の鉄から、小石ほどの礫が高速で飛び出しました」
「っっっ!!」
指導した身からいって、凛久の剣の腕はまだまだだ。
運良く手に入れた従魔のクウの方が、まだ戦闘では活躍しそうだ。
だから、ロードになんて一撃加えられるわけがない。
その予想に反し、凛久はロードの脚を止めることに成功した。
それができたのも、凛久が持っていたという武器の性能のお陰だろう。
実力が低くても強力な魔物に一撃加えられる武器なんて、興味を持たないわけがない。
蒼は、近くで凛久の行動を見ていた部下に、その武器のことを尋ねた。
そして、武器の説明を受けて、蒼は思わず目を見開いた。
「ど、どうかしましたか?」
蒼の反応に部下の男は首を傾げる。
まるで、その武器のことを知っているかのような反応だ。
「それと似た武器が日向の城にもある。たしか、初代様が作ろうとして失敗したという話だ」
「っっっ!! ということはやはり……」
「あぁ、可能性が高まった」
思った通り、蒼には凛久の武器に心当たりがあったようだ。
しかも、日向の城ということは、王城にあるということだ。
初代国王の所縁の品を、何故一般市民であるはずの凛久が知っているのだろうか。
そのことからも、自分たちの予想が当たっている可能性が上がり、2人は笑みを浮かべた。
「風巻。凛久の見張りを続けてくれ」
「畏まりました」
予想通りなら、凛久が自分にとって重要な存在になる。
そう考えた蒼は、ヤーセンの町で魔道具屋の主人をしていた部下である風巻に、凛久の監視の継続を指示した。
その指示を受けた風巻は、頭を下げ、その場から消えるようにしていなくなった。




