第16話 決意
「ゲギャッ!!」
「くそっ!」
棍棒で襲い掛かってくるゴブリンの攻撃を、領兵の1人が盾で防ぐ。
ゴブリンたちの勢いが増した。
それにより、討伐に集まった領兵や冒険者たちはジワジワと押され始める。
ゴブリンの勢いが増したというより、領兵や冒険者たちの戦意が落ちたことによってと言った方が良いかもしれない。
「このっ!!」
「ギャッ!!」
領兵が盾で防いだゴブリンを、冒険者の1人が斬り殺す。
体の所々には赤い液体が付いている。
ゴブリンの血が緑なのを考えると、その液体は人間の血だろう。
それが彼のものなのか、それとも仲間の血なのかまでは分からない。
「テオフィロさん! 何とかしてくれ!」
このままでは、ゴブリンたちによってゾーダイの町の者たちがやられて行ってしまう。
この状況を変えてもらおうと、冒険者の男は副ギルマスであるテオフィロに頼み込む。
「無茶言うな!」
頼まれたテオフィロは、今はそれどころではない。
ゴブリンキングの配下であるゴブリンジェネラル2体を相手にする事で手一杯だからだ。
「Aランクといっても元だ! ブランクのある今ではこいつらだってきつい!」
この世界において神と呼ばれるロード、その配下のキング、更にその配下のジェネラル。
年齢により体がきつくなり、冒険者稼業から副ギルドマスターになって数年経っている。
そのため、ジェネラル2体の相手をするのも思った以上にきつい。
そのブランクがなかったとしても、ゴブリンロードを倒すことなんて不可能だ。
冒険者の無茶な要求に、テオフィロは強めの口調で答えを返した。
「西の森に向かった冒険者たちに、ゴブリンの侵攻を知らせに連絡係を送っている。ロードは彼らに期待するしかない!」
ゴブリンの大群に気付いたテオフィロは、まず西の森に向かった高ランク冒険者たちを呼び戻すことにした。
彼らが戻ってくれば、ロードを何とかしてくれるだろう。
それまでの間、何とかこの場で食い止めるしかない。
「彼らが戻ってくるまでどれくらいかかるんだ!?」
「……恐らく20~30分って所だろう」
高ランク冒険者たちが戻ってくれば、たしかにゴブリンロードが相手でも勝てるだろう。
しかし、問題は彼らが戻ってくるまで、ここにいる者たちが持ちこたえられるかということだ。
どれだけの時間踏ん張れば良いか、冒険者の1人が目安となる時間を問いかける。
高ランク冒険者たちが出発して、かなりの時間が経っている。
恐らく、かなり深い所まで潜っているはずだ。
しかし、彼らが決めれば、あっという間に戻って来られるはずだ。
それでも多少の時間はかかることを加味し、テオフィロは質問に答えた。
「彼らが戻るまでに、キングは倒さないとな……」
最初は、ロードの存在なんて考えていなかった。
せめて、予定通りにキングまでは倒しておきたい。
「そのなると……」
「ガァッ!!」
「っと! フゥ~……」
キングを倒すためには、まずは目の前のゴブリンジェネラルを倒さなければならない。
そのジェネラルの攻撃を躱すと、テオフィロは一息ついた。
「そろそろ良いか……」
体を動かしながら、テオフィロは呟く。
「ハーッ!!」
「ガッ!!」
体を動かし終えたテオフィロは、手に持つ大剣を構えてジェネラルの1体に向かって斬りかかる。
その攻撃により、ジェネラルの片方の腕が斬り飛ばされた。
「よし! ある程度ブランクの解消ができたようだ」
ジェネラル2体を相手取り、防戦一方の状態だったテオフィロ。
しかし、それはブランクを解消するために、わざとそうしていたに過ぎない。
防御に専念することで、現役の時の動きをある程度まで取り戻せた。
「ゲ、ゲギャ……」
「ガアッ!!」
片腕を失ったジェネラルは、大量の出血をしながらもう片方ジェネラルに目配せをする。
それだけで理解したのか、2体のジェネラルは一斉にテオフィロへと襲い掛かっていった。
「その剣冒険者から奪ったのか……」
襲い掛かってくるジェネラルの持っている武器を見て、テオフィロは眉間に皺を寄せる。
この2体が持っている剣はちゃんとした拵えをしている。
多少の知能があるとは言っても、ゴブリンが剣を作り出せるとは思えない。
つまり、この2体が持っている武器は、人間から奪ったものだということだ。
武器の良さからいって、冒険者からだろう。
危険が多く、命を落とす者が出ることは仕方がないことだとは分っていても、完全に納得できることではない。
「死ね!!」
「ギャッ!!」「ゲギャッ!!」
剣の持ち主の冒険者を殺したであろうジェネラルたちに対し、テオフィロは大剣で迎え撃った。
その威力を抑えきれず、ジェネラルたちは武器を吹き飛ばされ、胴体を斬り裂かれた。
「……あいつの武器もそうだろうな」
ジェネラルたちが殺されたことで、ゴブリンキングがテオフィロに向かって動き出す。
その手には、血で赤黒く染まった戦斧を手にしている所を見ると、それも冒険者を殺して手に入れた物だろう。
「殺された冒険者の代わりに仇を討ってやる!」
「ギギッ!!」
冒険者のものであろう戦斧の血に、テオフィロは怒りを沸き上がらせる。
そして、戦斧を構えるキングに対して大剣を構えた。
「ギギギッ……」
「お、おいっ! ロードが……」
テオフィロがキングと戦い始めた所で、これまでゴブリン軍の最後尾に控えていたロードが動き出した。
普通のゴブリンが子供程の身長しかないなか、ゴブリンロードは普通の人間程度の身長をしている。
そして、これまた冒険者から奪ったであろう長い剣を手にして、戦場に向かってきた。
「ギッ!」
「ギャッ!!」「ガッ!!」「グエッ!!」
ロードが地を蹴ると、一瞬にして数人の冒険者が斬り殺された。
とんでもない移動速度だ。
「バ、バケモノだ……」
「あんなのに勝てるわけねえ……」
たった一度の攻撃を見ただけで、ロードの強さが嫌というほど分からされた。
そのため、戦場にいる者たちは恐怖で腰が引けた。
「…………」
ロードに恐怖していたのは、前線にいる者たちだけではない。
後方で援護役に徹していた者たちも、手に握る武器に意味なく力がこもる。
もちろんその中には凛久も入っている。
あまりの強さに、黙り込むしかなかった。
「あんなの相手にどうやったら……」
この場にいる人間で、あれほどの相手を倒すのは不可能だ。
せめて、少しでもダメージを与えて動きを止めたい。
「まだ、試してないけど……やるしかない!」
実の所、凛久にはロードに一撃与える方法がないことはない。
ただ、それをおこなうには、まだ実験が済んでいない。
しかし、そうも言っている状況ではないことを察し、凛久はぶっつけ本番をおこなうことを決意した。




