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第13話 異変

「ペロペロ……!」


「……んっ?」


 頬に何かが触れたのを感じ、凛久は目を開ける。


「……オッス。クウ」


「アンッ!」


 目の前にいたのは、従魔のクウだった。

 朝食の時間が近付いたため、どうやら舐めて起こしてくれたようだ。


「よーしよし!」


「ハッハッハ……♪」


 ベッドから体を起こした凛久は、お礼にクウのことを撫でまわす。

 それが嬉しいのか、クウは尻尾をブンブン振り回して、凛久のされるがままになった。


「よし。朝飯食いに行こう」


「アンッ!」


 ゾーダイの町に着いた凛久は、まずは宿屋を探すことにした。

 そして見つけたのが、このやまびこ亭と言う名の宿屋だ。

 一階が食堂で、ヤーセンの町の三毛猫亭と同じような造りになっている。

 目も覚め、濡らしたタオルで顔を拭くと、凛久はクウと共に朝食を食べに一階へと向かった。






「んじゃ、ギルドへ行くか……」


「アンッ!」


 朝食を食べ終えた凛久は、出かける準備をする。

 凛久たちはこの町に来るまでに、魔物を何体か倒している。

 次の町へ向かうにも、色々と路銀が必要。

 その足しにするため、魔物から取った魔石を売りにギルドへと向かうことにしたのだ。


「いらっしゃいませ」


「魔石の買い取りお願いします」


「畏まりました。こちらへどうぞ」


 ギルドへ着くと、まず凛久は受付へと向かう。

 そして、受付嬢にギルドカードを見せて、魔石の買い取りを希望した。

 その申し出を受けた受付嬢は、凛久を買い取り場へと案内した。


「さてと、せっかくだから散歩ついでに薬草採取の仕事でもするか?」


「アンッ♪」


 たいした数でもないため魔石の買い取りもすぐに済み、時間を持て余した凛久は、クウを散歩に連れていて行くことにした。

 小銭稼ぎもついでにできるように、得意な薬草採取の依頼を受けることにした。

 クウは単純に、凛久との散歩が嬉しいようだ。


「アンッ! アンッ!」


「あまり遠くまで行くなよ」


 この町でも薬草採取の依頼はいつでもあるらしく、簡単に見つかった。

 依頼を受けて町の外に出ると、クウは嬉しそうに走り出した。

 元気過ぎて付いて行けない。

 手に入れた時に弱々しかったのが嘘のようだ。

 見渡しもいい場所に出たことだし、放っておいても大丈夫だろう。

 その隙に、凛久は薬草を採取することにした。


「行くぞ? それっ!」


「アンッ!」


 薬草をいくつか採取し終えると、凛久はクウと遊ぶことにした。

 ボロボロの布を集めて作った小さいボール。

 それを投げると、クウはそれを取りに走っていった。


「よ~しよし」


「ハッハッハ……」


 投げたボールを獲ってきたクウを、凛久は褒めながら撫でてあげる。

 凛久に褒められ、クウは嬉しそうだ。


「ッ!!」


「っ!! 魔物か!?」


 撫でられて嬉しそうにしていたクウだが、急に一方向に視線を向けて牙を向く。

 その反応で魔物が来たのだと理解した凛久は、腰に差していた剣を抜いて構えた。


「ゲギャ!!」


「ゴブリンか……」


 クウの睨みつける方向を見ていると、ゴブリンが姿を現した。

 弱い魔物だが、繁殖力が強いため、放っておくととんでもない数に増えてしまうため、遭遇率が高いのは仕方がない。


「クウ。俺がやるから待機な」


「……アンッ!」


 1体なら特に問題ではない。

 訓練もかねて、凛久は自分が相手にすることにした。

 凛久の役に立つために、自分がやろうとしていたのだろう。

 待機の指示を受けて、クウは一瞬残念そうな表情をしたが、主人である凛久の指示のため素直に従った。


「フンッ!」


「ギャッ!!」


 武器となるものを持っていないゴブリンなら、脅威にすらならない。

 地を蹴り迫ると、凛久はゴブリンを斬り殺す。


「そう言えば……」


 ゴブリンが動かなくなったのを確認した凛久は、魔石の採取にかかる。

 何度もおこなっているからか、気分が悪くなるようなこともない。

 魔石を取り出して死体の焼却を始めた凛久は、あることを思いだす。

 ヤーセンの町を出て、しばらくの間は魔物に遭遇することがなかった。

 しかし、このゾーダイの町に近付くにつれて、段々と魔物に遭遇するようになった。

 しかも、出現したのは大体がゴブリンというのが気になる。


「もしかして、大繁殖なんてしてないよな……」


 ゴブリンは繁殖力が強いため、放っておけば大量に増えてしまう。

 そうならないためにも、ギルド会員が周辺の魔物の調査や退治をおこなっているのだが、いくら調査をおこなっているといっても、見落としている可能性もある。

 そう考えると、ゴブリンとの遭遇が頻発することも納得できる。


「少し周辺を見て回ろう」


「アンッ!」


 大繁殖は、あくまでも凛久の予想でしかないため根拠はない。

 だが、その予想が当たっていた場合、ゾーダイの町は大変なことになる。

 もしものことを考え、凛久は町周辺の捜索をすることにした。

 その凛久の呟きに対し、クウは了解とばかりに返事をしたのだった。






「……こりゃ、確定だな」


 少しの間町周辺の森を捜索していた凛久は、目の前の光景に確信を得ていた。

 岩場の多い町の西側の森に入ると、魔物との遭遇率が上がった。

 しかも、凛久の予想した通り、遭遇するのはゴブリンばかりだ。

 遭遇するたびクウと共に倒しているが、段々数が増えてきている気がする。


「帰って報告だ」


 集団に遭遇しては、いくらクウの力を借りても無傷じゃすまないかもしれない。

 そんな危険なことに首を突っ込むつもりはないため、凛久は町に戻ることにした。


「すいません。西の森のことなんですが……」

 町に戻ると、凛久はすぐさまギルドへと駆け込む。

 そして、受付の女性へとゴブリンのことを報告した。


「あなたも気が付いたのですね」


()?」


 凛久の報告を受け、受付の女性はまたと言うかのように呟いた。


「ということは、他にも報告が上がっているんですか?」


「はい。西の森方面に向かった方たちの大半が、ゴブリンとの遭遇率が高いと報告に来てくれました」


 どうやら、この異変に気付いたのは凛久だけではなかったようだ。

 魔物の討伐依頼を受けた者たちのうち、西の森に向かった者たちが何組も同じように報告に来ていたらしい。


「報告を受け、これからギルドは西の森のゴブリンの巣の捜索を開始することになりました」


「そうですか」


 もしも巣があって大繁殖していた場合、

 ゴブリンの数が分からないため、中級クラス以上の冒険者による巣の捜索が開始されることになったようだ。

 まだランクの低い凛久は、当然参加できないし、参加するつもりもない。

 他の冒険者たちに任せ、凛久は町でおとなしくしていることにした。



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