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第10話 変異種?

「そいつの名前は決めたのかい?」


「あぁ」


 今日は一日休日にしようとベッドのに座って犬を撫でていた凛久の部屋に、ノックした蒼が入ってきた。

 彼も今日は休日のようだ。

 部屋に入り備え付けの椅子に座った蒼は、凛久の膝の上で丸くなっている犬のことを指さし問いかけてきた。


「クウって名前にした」


「……空のように大きくなれって言いたいのか? ありきたりな気がするけど、いいんじゃないか?」


 魔物とはいえペット。

 名前を付けない訳にはいかない。

 そこで2日ほど考え、付けたのがクウという名前だ。

 その名前を聞いて、蒼はその名前の意味をすぐに理解したようだ。


「……それもあるけど、実はクウ、クウ鳴くからってのもあるな」


「……そうか」


 どちらかと言うと、蒼の言った意味の方が後付けといったところだ。

 従魔にした時に弱っていたからか、凛久が話しかけてもクウとしか鳴かなかったため、そのまま鳴き声を名前にすることにしたのだ。

 結構簡単な考えから名前を付けたのだと知り、蒼はちょっと深読みし過ぎたことに、何だかバツが悪い気分になった。


「クウ?」


「ワウッ!」


 ちゃんと自分の名前だと理解しているのか気になった蒼は、確認を兼ねてクウに呼びかける。

 すると、蒼に名前を呼ばれたクウは、返事をするようにちゃんと反応した。


「おぉ。来たばかりの時は弱っていたけど、元気になったな」


 返事をしたことにもだが、それよりも蒼はクウの様子の変化が気になった。

 2日前に凛久が連れて来た時は、そんな弱っているのを買ってくるなんて金の無駄だと内心では思っていた。

 すぐに死んでしまうのではないかと思っていただけに、この変化は完全に予想外だ。


「何か特別なことでもしたのか?」


「あぁ、試しに薬草入りの食事を与えたら、だんだんと良くなったんだ」


 あれだけ弱っていたクウが元気になったのだから、何か理由があるのだと蒼は考えた。

 その問いに対し、凛久はクウが元気になった種明かしをした。

 主に薬草採取をして生計を立てているため、いつも薬草は持っていた。

 怪我を回復する効能があるのなら、薬草は体に良いのではないか。

 回復薬も薬草の味を消して飲めるようにしているのだから、同じように味が消せれば薬草を食べることも苦ではなくなるはず。

 そう考えて、試しに料理に入れて与えてみたら、あまり動かないクウが、少しずつ動き回るようになったのだ。


「薬草入り? ……何だかまずそうだな」


 薬草入りの料理と聞いて、蒼は表情を渋くする。

 それもそのはず、薬草は食べるとかなり苦い。

 いくら薬草が体に良いといっても、あの味を思いだすと食べたいと思えないのだ。


「いや、薬草をそのまま食べさせている訳ではないからな」


 凛久も試しに味見をしたので、薬草がまずいものという印象を持っているのは分かる。

 しかし、どんな食材も調理次第で味を消したり強くしたりと、変化させることはできる。


「細かく切って火を通すとあの薬草特有の苦みも和らぐんだ。卵に入れて焼いてみたらかなり消えて、クウも口にしてくれた。味が気に入ったようで、今じゃ好物になったみたいだ」


「へぇ~」


 最初に思いついた料理は、卵焼きだ。

 日本にいた時、凛久は好きだという理由で良く作っていた。

 その味には結構自信があったので、試したら成功した。

 見た目は柴犬でも、クウは魔物。

 魔物は雑食で、何でも食べられるとは言っても好き嫌いはある。

 薬草の香りから口にしないという可能性も考えられたが、クウは躊躇いなく口にした。

 今では卵焼きという言葉を聞くと、尻尾を振って喜ぶようになっている。


「今度食べさせてくれよ」


「あぁ、いいぞ」


 あの味が消えているなら、試しに食べてみたいと思った蒼は、凛久にその卵焼きを作ってくれるように頼む。

 その程度の頼みなら断る訳もない。

 凛久はすぐに頷いた。


「旅はいつ出発するんだ?」


「クウ次第だな」


「そうだな。このままではちょっとな……」


 凛久は日本への帰還方法を探すために、この世界を旅することを決めた。

 情報次第でどう動くのか分からないため、1人旅の予定だ。

 ただ、1人だと魔物や盗賊と遭遇する危険性があるため、回避をするために探知系の従魔を求めた。

 しかし、資金不足もあって弱った子犬しか手に入れられなかった。

 元気になったとは言っても、今のままでは足手まとい抱えての移動になってしまう。

 子犬だから期待はしていないが、クウがどれだけ戦えるかを見て判断するしかない。

 クウのようなグラスドッグ種は、成犬になれば弱い魔物は問題なく倒せるようになるという話だ。

 生まれつき体が他よりも小さいとは言っても、クウもある程度戦えるようになるはず。

 まずは今の強さを見て、凛久は旅立ちをいつにするかを決めることにした。






「ワウッ!!」


「ギャッ!!」


 翌日、いつもの薬草採取のついでに、クウが今どれぐらい強いのか調べるために一角兎と戦わせてみることにした。

 フォローをするため、蒼も来てくれた。


「「…………」」


 捕まえてきた一角兎をクウに対峙させたのだが、結果に凛久と蒼は言葉を失った。

 クウは子犬。

 一角兎に追われて逃げ回るのではないかと思っていたのだが、まさかの瞬殺。

 驚くのも無理はない。


「……グラスドッグってあんなに強いものなのか?」


「……いや、子犬で一角兎を瞬殺なんて聞いたことないな」


 子犬なのに、俊敏動きから噛みつき瞬殺。

 その動きは、もしかしたら凛久を相手にしても怪我を負わせることができるかもしれない。

 その強さに、そういう魔物なのかと蒼に問いかけるが、蒼も驚いている様子で返答する。

 どうやらクウが特別なようだ。


「もしかして……」


「ん?」


 一角兎を倒して凛久の足下に戻ってきたクウを、少しの間見つめていた蒼は、なにかに思い至ったように呟く。

 それに凛久が反応すると、


「こいつ変異種なんじゃないか? 弱っていたのは、変異種としての力に体が追い付いていなかったとか? そう考えれば、この強さを納得できる」


「……マジ?」


 蒼の考察を聞いて、凛久は唖然とする。

 たまたま手に入れた弱った子犬が、まさかの掘り出しものかもしれないということだ。


「……クウ。お前もしかしてすごいやつのか?」


「ワウッ?」


 白い麿眉をしたこんなにかわいい黒柴が、まさかそんな希少種だとは思ってもいなかった。

 信じられないと思いつつ、凛久が足元にいるクウを抱き上げて問いかけると、当の本人であるクウは、何のことかと言うかのように首を傾げたのだった。



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