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大賢者アヴト・クラッシモは激怒した!!


 大賢者アヴトは激怒した!

「う! る!! さ!!! い!!!!」

 右手を横凪ぎに振りかざすと空が割れて、赤熱した大岩が落ちてくる。

 大量破壊魔法『コメット』だ。


 BOGOOOOOoooooooooooNNN!!!!!


 ほんの数秒ののち、逃げ惑う何万もの共和国兵と共に首都ミュールが爆風と閃光の中に消えていった。

 静かな暮らしを妨げられた大賢者は激怒していた。

 積もり積もった憎しみの炎が燃え上がる。



 ―――

 ――――――・・・・・・


 アヴト・クラッシモは大賢者だ。

 12歳で大学院を卒業、13歳の時には王国魔導院のトップになった。

 と、思ったら息つく間も無く『復活した邪神』の討伐に駆り出されたのだ。


「私は魔道学の研究のために魔導院に入っただけで、邪神の討伐などとても・・・・・・」

「世界が滅びるかどうかの瀬戸際なのだ! 悠長なことは言っておれん!」

「ですが足手まといになるd」

「構わん、行け」


 勇者という肩書の少年は15歳。

 年上だが、お子様だった。

 聖女という触れ込みの少女は14歳。

 こちらもお子様なのか落ち着きがない。

 戦士というポジションのオッサンは40歳くらい。

 仕事しない、できないという別の意味での問題児だった。


 好きこそなんとやら。

 純粋に魔道学を極めてみたかっただけで、まい進してきたアヴドは落胆した。

 研究もできないし、毎日ギャーギャーうるさいしで胃が痛くなり始めた。

「あ、戦士ー! ずりーぞ!! そいつはオレの得物だったんだ!」

「うるせークソガキ! 勇者だか何だか知らねぇがよぉ、大人への礼儀ってもんがあんだろうが」

 だとか、

「もうイヤですわー!! 足が疲れて棒みたいですわぁーー!! もーう! 足湯も無いなんて最悪ゥ!!」

「へん、これだからお子様はイヤんなっちゃうぜぇ」

「なによー! 勇者だからってアンタこそ、こないだやられそうになってベソかいてたクセにぃ!!」

「あんだと、コンニャロ!!」

 など日常茶飯事だ。


 国のえらい人は、何故お子様ばかりを集めたのだろう?

 世界が滅びるかどうかの瀬戸際とか言ってなかったか?

 適当に酒場から拉致ってきたみたいなオッサン戦士は何なのだろう?


 毎日がイライラ。

 そうだ、早く片付ければ良いのではないだろうか?!

「グゴゴゴ、我が名は邪神バーd」

「うっさい!」

 とりあえず邪神を爆砕した。

 アヴトが単騎で、しかも口上を垂れ始めた辺りでだ。


 王国に帰ってきたアヴトは音速で魔導院に引き籠った。

 やっと静かに研究ができる、と思ったのも束の間「大魔王が世界征服を画策している。討伐だ!」と駆り出される。

「勇者に任せて、私は世界の発展のために研究がしたいんですが・・・・・・」

「ならぬ。貴殿ほどの大賢者、篭らせておくなど王国としての品格に関わる!」

「ですが、前回の褒美にいかような望みでも叶えると」

「知らん。行け」


 外面を気にする王国にアヴトの願いは打ち砕かれた。

 旅の中で力を合わせたり、時としてぶつかり合いながらも成長しようとする仲間たちを放置し、アヴトは爆速で魔王城に乗り込む。


「ぐははは! 愚かな人間の子よ! 我が名は大魔お―――」

「うるさい!」

 大魔王を爆砕した。

 もはやタイムアタック状態である。


 彼にとって、世界の脅威よりも静かな環境を壊される方が、よっぽど脅威だったのだ。


 わずか数日で帰還した勇者さまパーティーは華々しく凱旋したが、大賢者は光の速さで魔導院に引き籠ってしまった。

 魔導院は図書館と同じで、静寂が絶対のルールだ。

 功労者がいない事に国王は戸惑ったが、魔導院にドカドカ乗り込むことはしなかった。

 どうせ言い合いになるだろうし、魔導院を敵に回したら色々面倒なのだ。


 ようやく落ち着いて研究が出来ると喜びの舞いを披露したくなったが、遅れた時間を取り戻さねばならない。

「ならば時間を圧縮すれば良いのでは?」

 大賢者は閃いた。

 時を止めることは出来ないが、体感する自分の時間をゆっくりにすれば良いのである。

 チート能力を持っていたわけでは無いが、チート能力そのものであった。


「大変です! 宇宙神がこの世界を滅ぼそうとしています!!」

「私は行かないからね!!!」

 二度ある事は三度ある。

 アヴトが引き籠ってから2日、大魔法『ゆるやかな時』の中では10年が経っていた。

 が、即時断った。

 世界が滅びるならば『次元の壁に穴を開けて』、どこか静かなところでスローライフを送れば良いのである。

「これまで以上の一大事です! 今度こそ好きな願いを聞き入れる、と王が仰せです! 頼みますアヴト様!!!」

「イヤだ! 前もそう言って騙された!!!」

 魔導院で騒げないなら出てきたところを囲えばいい。

 王国側もだんだんと手の込んだ方法を使うようになってきたのである。

「大賢者さまともあろう方が、民草をお見捨てになると!?」

 大声。市街地の真ん中で。

 道行く人たちが振り返る。

 集まる視線。注目の的だ。

「謀ったな!」

「ククク、己の不用心を呪うがいい。さあ、討伐に参加してくださりますな!?」

「おのれぇ、絶対願いをかなえてもらうからな!!! お前たちみたいなヤツがいない静かなところに引っ越してやる!!!!」

 かくして大賢者は3度目の世界に危機を救った。


 やっぱりというかやっぱりタイムアタックだったのだ。

「連れていくものは私が選びます!!」

 大賢者のお供になって箔を付けようと集まっていた騎士や貴族を尻目に駆け抜ける。


「キミ、私と一緒に来たまえ!」

「え?! だ、誰ですか?! きゃあ!」

 クエスト失敗してうなだれていた女冒険者。

「え、これから騎士団入りの試験が・・・・・・うわぁああ!!」

 登城中だった騎士志望の田舎侍。

「はわッ!? すみません居眠ゥわあァァァァ――――――ッ!?」

 ホウキを持ったまま居眠りしていたシスター。

「イヤぁー!! 普通に死なせてぇぇぇ―――ッ!!!」

 ギロチン台に連れてこられた女盗賊。

 クエストを受諾するや否や適当にそこらへんにいた者たちを拉致し、時空を蹴破り、宇宙神とやらの居城に乗り込んだ。

 その間、わずかに15分。


 次元のはざまアストリア=ウィザーリアにいる宇宙神の自宅のドアが吹き飛ぶ。

「おはようございます! 死の宅急便です!!」

 目玉焼きを焼いていた宇宙神に躍りかかるアヴト御一行。

 フライパンから飛び出した目玉焼きが床に落ちるまでの間に宇宙神は爆散してしまった。

 まるで電子レンジに入れた卵のように、だ。


 大賢者が駈け出してからわずか19分21秒後には世界から脅威が取り除かれた。

「それでは願い事です! 静かに暮らしたいので国を出ます!! 追い掛けてこないでください!!」

 王様が首を縦に振るのを確認するやアヴトは駈け出した。

 太陽の1億倍速く走り、荷物をまとめるとどこか遠い田舎に引っ越していったのだ。



 魔導院の書物はすべて読破してしまった。

 何だったら内容はすべて魔法構文として保存してしまったのである。

 いわゆるデジタルデータであった。

「意外と世界の深淵は浅かった・・・・・・」

 魔法を極めてみようと思ったものの底に辿り着くのは早かった。

 あとは、自分なりに未知の領域を探索しよう、そう思う大賢者であった。

「静かな片田舎だし、とりあえずは、ゆっくりと羊でも追い掛けて暮らしたいな」

【ゆるやかな時】の使い過ぎだろうか。

 急におじいちゃんみたいな事を思い立ったが吉日。


 近所の牧場で羊を買ってくると、それぞれに「フロッピー」「エムデー」「シーデー」「デーブイデー」と名付けかわいがった。

 世界の真理を探究する中で見つけた世界の魔法のアイテムの名だった。

 魔法で42平米のログハウスを建てると数々の魔法具を設置する。

 パイプを捻ると井戸水が出る魔道具、壁のへこみを押すと華やかな音とともにヒノキ風呂にお湯が注がれる魔道具。

 天井に設置されたカボチャみたいな塊はヒモを引くと明々と灯りがともる。

 いずれも異世界で見掛けた魔道具を模したものだった。

「さあて、スローライフを楽しもうか」

 大賢者は朝は少し肌寒い森を散策し、昼過ぎには羊たちを追い掛けて遊んだ。

 夕方には、温かいお湯が沸くヒノキ風呂を堪能し、夜は夜とて満天の星空を楽しんでいた。



 翌日、次元の壁を蹴破って異世界で拾ってきたジャガイモとサツマイモを植えてみた。

 98という数字が書かれた札が付いていて、その世界の人たちがカゴに入れていたから持ってきたのだ。

 きっと食べ物に違いない。

「異世界は良い。見たことの無いものが、町中で配られている! これもなかなか面白そうだ」

 同じく158と書かれた札のところにあった赤い果実を手に取る。

 トメィトゥと読むのかタマトォと読むのかよく分からぬ。

 瑞々しい赤い果実だ。


 とりあえずは畑に植えてみる。

 きっと赤い木が生えるのでは無いだろうか。

 大賢者は農家では無かったので、トマトを直植えしても生えてこないことを知らなかったのだ。


「さて、この魔道具はどんなものかな?」

 同じく異世界で机の上に並べられ、そこの住民たちが触っていたものだ。

 板のような物体に煌々と輝く板が張り付いている。

 紐みたいなものを繋いであったが外したところ、けたたましい音がなったのは仕様なのだろう。


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