師匠との出合い
痛い!本当に落とされた!レリーナはあたりを見渡した。舗装しきれていない道。その左右には鬱蒼と茂った森。
「なんで、道の端に落とすかなぁ。まあ、いっか」
よいしょっと立ち上がった。着ていた服がダボッとしている。
「あれ?サイズ大きい?目線も低いし……手も小さい…」
もしかして、小さくなった?
レリーナが頭を混乱して頭を抱えていると、誰かが声をかけてきた。
「お嬢さん、魔物に囲まれてますよ。死にますよ」
見上げると、エルフの青年が立っていた。レリーナは慌てて辺りを確認すると、魔狼の群れが自分と声をかけてきた青年を中心にぐるっと囲っていた。
「あら、私としたことが。考え事をしていると、周りが見えなくなるんです」
ウエストポーチを探すが、見つからないので、魔法で応戦するようだ。
「戦えますか?――でしたら、後ろ、お願いしますね」
「ええ、もちろんよ」
その会話を合図に一斉に魔狼が襲ってきた。
「私を殺そうなんて、百万年早いわよ!『風刃の斬撃!』」
レリーナは祖国の言葉を使ったが、威力は変わらなかった。風で作られた、無色透明の無数の刃が魔狼の首をスパッと切った。そして、見えない風の刃は勢いがなくなることなく、次々と漆黒の毛が特徴の魔狼の胴と首を切り離していく。
「相変わらず、私の大刀並の切れ味ね。きれいに切れてるわ!」
一匹残らず、首を切り離し、レリーナは服を引きずりながら、切り口を観察する。
「年のわりに、魔法の技術がすごいですね、お嬢さん。毛皮を剥ぐので手伝ってもらえませんか?」
「これら全部ですか?私、毛皮を剥いだ経験がありません!」
「大丈夫です。教えますから」
青年はニコッと笑って、レリーナにナイフを渡した。レリーナは手が出るように袖をまくり、青年の指示通りに毛皮を剥いでいく。
一時間くらいかかって、すべての魔狼の毛皮を剥ぎきった。
「それで、これらどうするのですか?」
「食べても美味しくないですし、毛皮以外使い道がないので、森の中にいつも埋めてます」
青年はそう言って、掘っておいた穴の中に死体を入れ、土を被せた。
「あの、声をかけていただき、ありがとうございます!」
「いいや、魔獣・魔物を狩るのが僕の仕事ですから。おっと、名乗っていませんでしたね。僕はルーベン・アルース。ハイエルフです。すぐ近くの町のギルドマスターです」
「あ、私は、レリーナ……です。今、私は何歳に見えますか?体が小さくなってしまって、自分では原因がわからなくて……」
ルーベンはレリーナをじっと見た。
「十歳くらいでしょうか?失礼ですが、レリーナさんは『渡り人』ですか?」
十歳……とショックを受けるレリーナは『渡り人』と言う言葉に引っかかりを感じた。
「渡り人というのは……」
「渡り人は異世界から来た人のことを言います。僕の弟子にも『ニホン』と言う国から来た渡り人がいるんです。ちなみに、あなたはどこから?」
アベストル王国ですと答え、冒険者として活動していたら、いつの間にかここに居たと用意した嘘の成り行きを話した。
「でしたら、これから、町に帰るので、冒険者登録をしましょう。おや、ちょうど、乗り合い馬車が来たようです」
ルーベンが指した方向から、白いテントのような荷台の馬車が来た。レリーナは慌てて荷物を全部持った。
「……町についたら、まずは服を買わないといけませんね」
そう言って、レリーナを抱え、ウエストポーチを持ち、乗り合い馬車に乗り込んだ。
馬車はガランとしており、人っ子一人、乗っていなかった。
「ルーベン様、お疲れ様。そちらのお嬢さんは?」
「先程、拾いました。町で身分証を兼ねて冒険者登録をさせようと思います」
御者の人と顔見知りのようだ。レリーナは会話を聞きながら、隅に座った。
「弟子にしないんですか、その子。まだ、幼いだろう?孤児院に預けるのですか?」
「いいえ、預けません。弟子にしようか、今、迷っているところです。見た目より大人びてるし、魔法の技術も素晴らしいのですよ!剣の方はまだ、分かりませんが」
褒められると恥ずかしい。人とはそういう、生き物である。レリーナは顔を真っ赤にした。
「預けないのなら、養子にするのですか?そんなに褒めるのでしたら、内弟子にしたらどうです?」
「内弟子か……。いいですね。『子どもができたら、弟子は取らない』って宣言していましたし……。きりがいい人数なので、次の弟子をラストにしようと思っていたのも事実ですしね」
「お嬢さんの意見も聞いてあげてくださいね。おっと、そろそろ出ないとやばいです。ルーベン様、お座りください」
御者に言われ、ルーベンはレリーナの隣に座った。
「話、聞いてましたよね?レリーナさん、見た目は十歳です。まだ、幼い子どもです。しかし、あなたの魔法は素晴らしいです!」
「あ、ありがとうございます」
レリーナはルーベンと目を合わせられず、明後日の方向を見て、頬をかいた。
「――良ければ、僕の内弟子になりませんか?」
レリーナはルーベンに目を向けた。彼女は少し、混乱しているようだ。目をパチパチさせている。そして、理解できたのか、真顔になった。
「私で良ければ、お願いします、えっと、師匠?」
そう言って、頭を下げた。
「よろしくね。そうだね……。師匠呼びもいいけど、お養父さんがいいかな?丁寧じゃなくて、砕けた感じで話してくれて構わないよ」
レリーナが内弟子になったと決まった瞬間、砕けた口調になった。レリーナはいきなり、砕けた口調になったので、びっくりしていた。
えっと……なんとお呼びしたらいいのかな?令嬢だったとき、平民の子どもたちは『パパ』っと呼んでいたっけ?ちょっと考えてから、
「じゃあ、『パパ』って呼んでいい?」
無邪気に聞いてみた。ルーベンは彼女の頭を撫でて、いいよと答えた。
それから、町に着くまで、おしゃべりをしていた。御者の人は和やかな雰囲気の馬車を微笑ましくひいていた。
【やっと、師匠に会えたな】
長かったね。さあ、続き、頑張って書きますよ、龍安?
【はいはい】
読者の皆様、ここまで読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
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