最後の夜の王都
月明かりのみが照らす夜道に、ドレス姿の女性。なんだかんだで、人の目を奪う。
「このドレス、重い!着替えたい!」
夜も遅いし、どっか宿、空いてないかな?
宿屋が建ち並ぶ通りを走っていると、あかりが灯ってる宿を見つけた。
「ごめんください。――あ、女将さん?夜分にすみません。ここで一泊できますか?」
「え、ええ。できますよ。ですが、この宿でよろしいのですか?」
「ん?構わないわ。文句はないもの。自分で入ってきたのに、文句を言うなんて、失礼でしょ?」
レリーナの説明に納得した女将さんは部屋を案内した。
「お部屋はこちらです。狭いですが、よろしいのですか?」
「問題ないわ。朝ごはんは、下の食堂で食べればいいのよね?」
「お口に合うか分かりませんが……」
女将さんが申し訳無さそうに言った。
「こう見えても、よく、お祭りに遊びに行ってたのよ。串焼きを普通に頬張ってたし。それに、食べ物には罪はないでしょう?」
こんな夜中に急に、来てごめんなさい。ゆっくり、休んでください。そう言って、レリーナは部屋に入った。
一人でなんとか、重いドレス姿から、ラフな冒険者姿に着替えた。少し黄みがかったシャツに茶色の短パン。
黒のニーハイに茶色の編み上げのロングブーツ。最後にウエストポーチと胸当てを着ければ……
「う〜ん、仮眠したいから、この2つは後にしよう」
そして、レリーナはベッドに入った。少しだけ、おやすみ。
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窓から日の光が入ってきた。レリーナはベッドの中でもぞもぞと………。
「ん?日が赤い?……………あ、寝過ごした!もう、夕方じゃん!」
慌ててベッド脇に置いておいた、ウエストポーチと胸当てを着け、階段を駆け降りる。
「女将さ〜ん!まだ食べれる〜?」
食堂の方から女将さんが出てきた。
「まだ、大丈夫ですよ。今朝、起きてこなかったので、心配しました」
そう言って、レリーナを席に案内した。
メニュー表を出された、レリーナはにらめっこを開始した。キャリィにボル鳥のステーキ――あぁ、プスタもある〜!
目移りしているレリーナを横目に女将さんは、会計を行っていた。調理場から出てきた男性も我が子を見るようにレリーナを眺めていた。
「決めた!女将さ〜ん!ボル鳥のステーキ、ください!」
「はい、かしこまりました。あんた、聞いてたよね?!よろしく頼むよ!」
はいよ〜と調理場に戻った男性―宿主はこたえた。
「旦那さんと仲がよろしいのですね。羨ましいです」
「そんなことないですよ。いっつも、喧嘩ばかりですよ。それよりも、お客さん。冒険者だったのですね」
ええ、まあ。そうは見えませんでしたね、昨日は。
などと他愛もない会話を女将さんとしていると、ボル鳥のステーキが音を鳴らしながら、横から出てきた。
「お客さん、おまちどうさん。ボル鳥のステーキです」
大きなステーキに目を輝かせ、ナイフとフォークを勢い良く掴むレリーナ。それを優しく見守る宿主夫妻。
一心不乱に食べ続け、ぺろりと完食した。
「ごちそうさまでした。女将さん、もう行くわ」
「え?!もう、夕方ですよ!もう一泊していってはどうですか?」
「いいえ。今日中に王都を出たいの。宿代と食事代、夜中に来た迷惑料。これで足りるかしら?!」
そう言って、ウエストポーチから昨日着ていたアクセサリーを女将さんに渡した。しかし、こんな高いもの、貰えません!と女将さんは返してきた。
「私の気持ちです。どうか、受け取ってください」
レリーナは無理やり、女将さんの手に握らせた。
お世話になりましたと、レリーナは宿を後にした。
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