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ゆめうつつ

作者: 何者

情景をよく思い浮かべながら読んでみてください。

夢に現に現れる。恋する彼女は蜜の味。彼女の手に触れたならそこはどんな境地に辿り着くやら。本物の彼女は今頃どこで何をしているのだろう。


今朝もまた涙を流しながら陽の光を浴びる。僕はまだこの世界にいる意味を知り得ていない。このまま何も知らないまま死んでいくだけなのだろうか。


夢で僕を呼ぶ彼女は誰なのだろうか。彼女は何をしに僕に逢いに来ているのだろう。名前はなんと言うのだろう。顔はわかるが見たことない顔をしているということは、知り合いでは無いのだろう。

「出欠を取ります。ほら、席につきなさい。」

しらない教師が入ってきた。みんながザワつく。どうせ新木の代わりの人だろう。新木とはもともとうちのクラスの数学の先生。女子高生に手を出した最低野郎だ。

「駿河くん。」

僕の名前を呼ばれた。あの人の呼び方、声、速度全てが一致した。この人が?まさかそんな。顔が違うのに。

「あ、はい。」

返事が遅れてしまった。先生は心配そうに僕の顔を見た。しかしまた点呼を続けた。

顔は違うのに声も呼び方も一緒。あの柔らかな呼び方も。

「新木先生に代わって新しく数学を教える古井といいます。みんなよろしくね。」

古井先生。この人だとしても僕は何も出来なかった。

「古井先生名前はなんと言うんですか?」

授業が終わって質問に行った。

沙紀さきっていいます。よろしくね。」

周りの友達から、からかわれた。

「おまえ先生に気あんのかよ笑」と。

気があるとかじゃなくて僕はものすごく気になって仕方がなかった。いったい先生は何者なのか。しかしこれは先生には言えなかった。それこそ変態というレッテルを貼られかねない。

その日の放課後、近所の公園に行った。公園のベンチに一人で座り必死に考えた。

夢を見始めたのは確か三ヶ月前程から。なんの予兆もなくふいに夢に出てきた女性。初めて夢に見た日はそんなに不思議に思わなかった。誰だろうなと思うほどで。しかし二回三回と夢に出てくる度にだんだんとこの人は誰なのだろうと思い始めるようになった。毎回出会い方は違うのだ。そんなことを考えていると

「あれ?駿河くん?君もここ来るんだね!」

先生がきた。またこうやって話が上手く進んでいく。「あ、どうも。よくここで考え事をするんです。」

「私もよく来るの。もしかしたら今までにも会ってたことがあったかもね。駿河くんは名前、なんて言うの?」

「あ、僕はまなぶと言います。」

「まなぶくんかぁ。学校のことまだよく知らないから色々教えてね!」

「あの…先生は夢を見ますか?」

「そりゃ、まぁ人並みには?見るよ!」

「どんな夢を見ますか?」

「そうだね。私はよく人を殺しちゃう夢を見るかな。そしてその度朝起きるとすごく汗かいてるの笑」

「僕の夢には何度も同じ人が出てきて。」

ここまでで限界だった。これ以降の夢の話をしたら全て言ってしまいそうだった。

「なるほど…これから自分という『個』と『社会』との折り合いの付け方を学んでいけばきっとそんな夢も減っていくはずよ。」

折り合いか。折り合いなんてまだ餓鬼の僕には分からなかった。そんな所でまた目が覚めた。そしてまた涙を流している。


先生は解離性障害をもっていた。僕とさきさんは関係を持ちたまにプライベートで会うようになった。一番最初に会った時、僕は目を疑った。まるで別人だった。顔は変わるはずがないのに、違う人のようだった。化粧も違うし話し方も違う。だがその姿は僕がずっと夢で見てきた人だった。

「ごめんね!待った?」

「まぁ、少し待ちました。」

こういう時ドラマだったら待ってないって言うのだろうがそんなキザなこと僕は言わない。

「私とのデート楽しい?」

「そりゃ、楽しいですよ。さきさん、可愛いです。」

僕も照れるがきっとさきさんも照れている。

さきさんとの会話に夢中になっていて信号を見逃した僕の真横にトラックが迫る。

「まなぶくんっっ?!」

ここでまた目が覚める。ひどく汗をかいた。朝から風呂に入り制服を着て家を出た。

「おはようございます。」

古井先生が僕に挨拶をしてきた。

「おはようございます。」

何の気なしに返した。授業を受け平凡な日を過ごした。帰りにまたあの公園に立ち寄った。するとまた古井先生がいた。

「先生、今日もいたんですね。」

「するがくん。こんにちは。」

「そういえば、先生学校にいなくて大丈夫なんですか?仕事とか。」

「十分だけ休憩もらって来てるの。そろそろ戻らなきゃ。」

そういって立ち上がった先生の手には血が着いた包丁が握られていた。

「せ、せんせい?それ、なんですか?」

「あぁ、気づいちゃった?これはね包丁。そしてさっき二人殺した分の血がついてる。気づいちゃったかぁ。じゃあ君の血もコレクションしとかないとね。」

先生は僕に向けて包丁を振り上げた。そうか、これは今さきさんの夢の中なんだ。だからさきさんは人を殺してる。抵抗しないと僕はどうなる?死ぬのか?先生の夢の中で死んでも現実には支障がないのだろうか。いや、きっとさきさんの夢と同時にこれは僕の夢でもあるのか?目を瞑る。そしてその影を見てまた目を開ける。するとベッドの上で横になっていた。これは長い夢で僕はきっとまだ夢から覚めていない。また目を瞑る。開ける。次は教室にいた。さきさんの授業だ。僕はさきさんの手をとって教室を抜け出し外に出た。

「さきさん、これはただの悪い夢です。あなたが警察につかまることはない。安心してください。」

「するがくん?何するの?授業中よ?しかも、警察ってなんのことよ。私悪いことなんてしてない。あと、さきさんじゃなくて先生でしょ。」

次の瞬間目覚ましの音で目を覚ました。あぁ、長い夢だった。

今日は先生に会う約束をしてる。いつもの公園で。

「するがくん。久しぶり。」

「何言ってるんですか先生。この前もあったじゃ、、お久しぶりです。さきさん。今日はさきさんに話があって。さきさんですよね?僕の夢の中に現れるあの女性は。」

「なんだ。気づいてたんだ。そう。私だよ。でも先生の方の私はそれを知らない。から、むやみに近づくと危ないわよ。」

やっぱりさきさんだった。なにが目的で僕の夢にいるのか。それは気になるけど聞かないでおこう。

「話はそれだけ?」

「ま、まぁ。それだけです。」

「私からも話があるの。私実はファッションモデルをやってるの。」

どうりでこんなに綺麗な人なわけだ。でも副業ってまずいんじゃなかったっけ。

「そう。副業はまずいよね。でも私の場合は気づかれないの。これ、私。」

そういって有名ファッション雑誌の一ページを指さして僕にみせてきた。たしかに見比べてみるとさきさんだった。名前のところにはローマ字でさきと書いてあった。

「ほんとだ。さきさんだ。でも古井先生じゃない。似ても似つかないや。」

「だから私は学校では絶対にバレない。その代わり街を歩いてるとたまに声をかけられたりするのよ。」

「有名人なんですね!」

夢のことをすっかり忘れて話に夢中になっていた。

家に帰ってベッドに横になった。

今日はまた学校で授業だ。なんのみ意味もない授業を受けてそれからまた公園に行き先生と話しをして家に帰る。それが僕の望んでいる生活、一日だった。しかし今日はそうはいかず、未提出の課題で居残りをさせられていた。今日は公園に行くのはやめよう。でも先生いるかもしれないなぁ。ちょっとだけ寄ってから帰ろうかな。様子を伺うと先生はいなかった。とぼとぼ歩いていたら人とぶつかってしまった。

「ごめんなさ…あれ?先生?」

「あら、するがくん!今帰り?ちょっと遅かったのね。」

「課題出てなくて居残りしてました。先生は今日も公園に?」

「そう。今日もするがくん来るかなって思いながら待ってたんだけど今帰ってるところ。」

「よかったらこの後ご飯でも一緒に食べませんか?」

「こらこら、社会人をからかわないの。」

そうか。先生の方は知らないのか。でもその境目はいつなのだろう。いつ変わるんだろう。僕はそれが知りたくなった。

土曜日、僕はさきさんに会っていた。そして絵に描いたようなデートをした。その後僕の家にさきさんを呼んだ。そしてその瞬間を見てやろうと必死に集中した。さきさんはお酒を飲み僕はオレンジジュースを飲んだ。少し酔いが回って暑くなったのかさきさんは上着を脱いだ。その、やはりこういう関係ということもあり僕はさきさんと行為をした。

「まなぶくん、男の子だねぇ笑」

「そりゃ男ですよ。しかも高三ですよ?盛んな時期です笑」

「どうしよう。終電もうないや。」

「いいですよ?泊まっても。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

よし。これでその瞬間が見れるはず。と思いながらも夢の中へ入り込んでしまった。母親が僕の名前を呼ぶ。でもその声は何者かによってかき消されている。するとそこへ親父がやってくる。親父は僕の頭を優しく二度叩く。振り返るとそこにはさきさんがいた。全裸で立っていた。しだいに靄の中に隠れていく。そこから変な化け物が出てきてさきさんはその化け物に食べられた。そしてその後は何事も無かったかのように母と父と僕で雑談をして終わった。酷く不気味な夢だった。

目を覚ますとさきさんはいなかった。見逃してしまった。その時を。ふと机の上に目をやるとメモが置いてあった。


またいつか会えるかな。まなぶくんと。


きっと会えますよ。

学校に行く途中、僕は先生を見つけた。

「あ、えーと、古井先生!おはようございます。」

「するがくん!おはよう。」

やはりいつもの先生だ。自ら人物を行き来できるのだろうか。

「先生、昨日の朝変わったことなかったですか?」

「とくに、なかったけどどうかしたの?」

「いや別に。なんでもないです。」

「えー?気になるなぁ笑」

あれ?この喋り方、さきさん?ふと顔を上げると先生の真横に信号を無視したタクシーが迫っていた。

「先生あぶない!!」

僕は思わず目を瞑った。すると無音になって真っ白な空間に立っていた。あれ?先生は?ここはどこ?

僕の意志とは裏腹に物語が進んでいく。次の瞬間犬の鳴き声が聞こえる実家にいた。

「まなぶ?おかえり。久しぶりね。」

母の声だ。しかし顔が母ではなかった。知らない人の顔。

「ご飯、食べていきなさい。」

黙って頷いた。ご飯を食べていると急に母が、母の声をした何者かが倒れた。急いで救急車を呼び母のことを呼んだ。

「かあさん?かあさんっ大丈夫?」

ここで目が覚めた。すると一本の電話がかかってきた。親父からの電話だ。

「母さんが倒れた。お前も早く病院に来い。」

「そんなまさか。夢の話なはずだ。僕の夢の中の話なはずだよ。現実とは関係ないよ。」

「馬鹿なこと言ってないではやくこい。坂下病院だ。待ってるからな。」

僕は急いで病院に行った。

「かあさん?大丈夫なの?」

「あぁ、なんとか命に別状はない。」

そこにはさきさんもお見舞いに来ていた。なぜ?

「さきさん?なんでここに?」

さきさんはニヤリと笑い逃げるように走っていった。廊下を必死に追いかける。

「さきさん?どうして逃げるの?」

さきさんだと思って追いかけていた人の顔はいつの間にか違う人の顔になっている。

「するがくん?追いかけてこないで。私はもうすぐ夢の人じゃなくなるの。」

何を言ってるのか分からなかった。しかし声だけはさきさんなのだ。

「あなた、誰ですか?さきさんじゃない。いったいどれが本物なんですか?」

車に乗った古井先生はミラー越しに僕を見た。

「私は本物よ。」


読んでいただきありがとうございました。この作品は少し解説させていただきます。この物語の中に現実は存在しません。全ては学くんの夢の話です。感想などありましたらコメントしていただけるとありがたいです。

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