パーティーにはサキュバスという華が必要よね。
わたくし脳筋回復職のミリア・エスニアは、この前のマグリット草原での戦闘を終え、PTの皆様とギルドに依頼を達成し、その対価のお金をもらったわ。
(――さてと、このお金でどうようかしら。新しい斧でも買おうかしらね)
この前組んだPTのリーダーのエミールからは、また一緒に仕事をしようと持ちかけられてるけど。結局私一人で全てのモンスターを駆逐してしまったので、お金は皆より多めに貰ったの。これなら一人でもギルドの依頼をこなせると思うわ。
ただ、依頼を受けるには、危険も付きまとう事もあり、ギルドは最低3人から4人を推奨して、1人でなど受けさせてもらえない可能性があるのよね。
「別にまた彼ら達のPTに協力してもいいのだけど、どうしたものかしら」
でも結局一人の方が楽と言えば楽だから、どうにかギルドに一人か、二人でも受けれるようになれば、実に楽なのよね。わたくしがぶつぶつ一人で考えながら歩いていると、
「きゃっ!」
不注意にも誰かとぶつかり、相手を倒してしまったみたい。
「あらら、ごめんなさいね。わたくしの不注意で。お怪我はないかしら?」
倒してしまった相手を起こすため手を差し伸べる。彼女は気にした様子もなく、私の手を取り立ち上がる――だけど、この時何か相手の女性に違和感を感じたわ。
「いえ、こちらこそ不注意でした。怪我もなく大丈夫ですよ」
その人はおっとりした感じだけど、女性の私からしても妖艶さが漂っていて、やっぱり妙な気配を私は感じ取れる。もしやこの抑えられ切れていない妖艶な女性、サキュバス族? でも結構前にサキュバス族はいなくなったって聞いていたのだけど、どういう事かしら。でももし本物ならちょっと協力してほしい事を、私は即座に思いついた。
「ねぇ、いきなりで申し訳ないのだけど、貴方もしかしてサキュバス族かしら?」
こちらが聞くと、彼女は唇に手を当てて、少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「あら、女性の方に私の事が分かるなんて、もしかして勇者様とかですか?」
「いえ、勇者ではないわ。でもその様子だとどうやら本物のようですわね。私は、ミリア・エスニア。回復職をやっていますの。貴女のお名前をうかがってもよろしいかしら?」
「ええ構いません。私の名前はリリと申します。お察しの通りサキュバスです」
ペコリと頭を下げて丁寧に名乗るリリは、パッと見たらちょっとセクシーな女性。でも伝説のサキュバスとなれば利用価値があるわ。いや、変態的な事を考えているわけではないのわよ。
「リリさん、いきなりだけど、わたくしのPTに入ってもらえないかしら?」
「え、ええと?」
突然のPTの誘いにさすがに困惑している様子で、リリさんは首を傾げてるけど、それでもわたくしは説明を続ける事にしたわ。
「わたくしは確かに回復職ですが、ある事があって脳筋回復職をやっていますの。それで一人でギルドの男性に依頼をやらせて頂きたいと申請したところ、3人から4人が絶対条件って言われてますのよ」
そう、そのギルド職員を説得させてしまえば、1人でも依頼を受けて、報酬も全部自分に入るから、いちいち使えないPTに入る必要がないのですわ。
「あらあら、では私にその方をたぶらかすなり、誘惑してミリアさんと私のPTで依頼をこなして稼ぎたいと。そう言うわけですか」
「さすが話が早くて助かりますわ。もちろんやって頂ければ報酬の3割は渡しますわ。さすがにサキュバスのリリさんを利用するわけだし、それくらいは出しますわ。もちろん、リリさんは戦闘に参加しなくても大丈夫でして。どうかしら」
私の誘いに少し熟考し、こちらを値踏みして、
「そうですね。ふふ、とても面白そうですね。私やっても良いですよ。ミリアさんに興味が湧いてきましたし」
と、意外に即決してくれる。というわけで、私とリリさんは一時的にPTとなり、ギルドへ向かう事へとなったの。
ギルド兼酒場となっている場所に私達二人がやってくると、周りの男性冒険者達がリリさんを注視する。その豊満な胸、ふっくらとしたお尻、可愛らしい顔。そんな男どもの視線があちこちから突き刺さっている。けれどリリさんはまるでそれが日常だと思っているらしく、全く気にしてない様子だわ。
さすがサキュバスね。女の私でもついつい、身体を触りたくなる気持ちがあるくらい魅力的だもの。
でもそんな事をしに来たわけじゃないわ。早速リリさんは目的を果たすため、ギルドのカウンターに向ってくれている。それを追いかけて私もそばに行くと、
「――と、いうわけで私リリとミリアさんの二人PTで依頼を受けたいの。ねぇ……ダメかしら?」
見ると軽くウインクしているだけで、男性職員は嬉しそうに頷いているわね。
もう既にリリさんによって籠絡でもされているのか、男の職員はあっさり受諾してPT認証用紙にハンコを押していたわ。さすがリリさんね。職員の男は予想以上に秒殺だったのには笑っちゃう。
私はそれを確認して、壁のボードに貼られた依頼用紙を見て、じっくり吟味する。さてと、どんなモンスター討伐依頼を受けるか考える。多少強いモンスターでも、この力でねじ伏せられる自信があるしね。
張られている依頼には、
スライム、オーガ、ゴブリン、人食いフラワー、低級アンデッド。
色々あるけど、全てE級やD級にC級。こんなモンスターだと物足りないし、大した収入になならない。ちなみに以前私が倒したゴーレムはB級モンスターの扱いよ。普通は複数のPTで討伐するのが常識ね。
(もっと稼げるモンスターはいないのかしら?)
迷っていると、リリさんが2枚の討伐依頼用紙を指差して、
「これなんかどうでしょう?」
確認するとそれは確かに雑魚モンスターではなく、A級モンスターの用紙。
「キマイラ。これは相当強いモンスターだわ。確かに稼げるわ」
しかも討伐した時の報酬は3万ルピー。しばらく遊んで暮らせるお金ね。リリさんに渡すのが9000ルピーで残る2万1000ルピーでも大分稼げるわ。
「あの、やっぱりミリアさんには難しいでしょうか?」
「嫌ね、リリさんったら。私の力見抜いてますわよね。だから了承したのでしょう」
するとリリさんはクスクスと笑っている。
「軽い冗談です。貴女のステータスはもう見てますから。本当に面白い人ですねミリアさんは」
「なら、このキマイラを狩りますわよ」
そしてわたくし達はキマイラのいる静寂の森と呼ばれた、普通は誰も近づかない場所へと向かう事にする。私は無理して来なくて良いと言ったのだけど、リリさんは私が戦うのが見たいとの要望で、付いて来ることなったわ。やっぱりサキュバスって変わり者なのかしら?