夏の思い出
夏のホームに雪が降る、その景色を見て思わず思い浮かんだ言葉だ。
ホームを覆うように生えた樹木が天蓋付きベットのような雰囲気を醸し出し、風で舞い散った白い花弁がまるで雪を思い起こす。
あれは先が割れたラッパ状の花、これは菊の花にも見える、こちらに咲いているのはスズランっぽい木?これは…房状と言うのだろうか?
検索してみたら、ネズミモチ・シロバナヤエウツギかサラサウツギ?・ネジキ・オオバアサガラ・植生的に同じ場所に生えているのか?誰かが植えたんだろうか…
あれは…昭和?それとももう平成になっていた時期だろうか?
確か大学の夏休みだったはずだが、友人とビジネスバイクで所謂秘境駅を見に行った。
新道を大回りするルートで迂回して、途中けもの道を漕ぎ分け谷を渡り…たどり着いた場所だ。
友人と違って、鉄道に興味はないが自然にできた天然温泉があるといわれついていったんだっけなぁ。
そう、無人の集落跡と指さされた藪を抜け河原のボンドに見える場所が温泉だった。
温泉を堪能し、友人の目的の特別列車?を見物したら夕立がひどく駅舎に避難したんだ。
駅舎には、雨に打たれ真っ白なブラウスが肌に張り付いた少し年下に見える少女がいたっけ…純真だった私はブラウスからうっすら透けるものにどぎまぎし目をそらして天井を見つめていた。
日が落ちたため危険だと判断し少女と一緒に駅舎で夜明かしすることになった…その時何かあったんだろうか?ぐっすり眠り朝日が出る時間に目を覚ました私は、ぐったりと寝むる友人と取り残されていた。
少女はすでにいなくなっていたんだ。帰宅後友人はなぜか日に日にやせ衰えて行って49日後に命の灯が消えた。
なぜ今になって思いだしたかというと、この駅は路線廃止に伴い間もなく壊されるとニュースになったからだ。
青春のメモリアル…ふと思い立ち、幸いそれなりの地位にあり休暇もろくにとっていなかったので有休をすぐに認めてくれた、社長も…青春メモリーに追い立てられて旅行に行きたくなるからと笑って許してくれた。
車中泊ができる愛車を運転し目的地に向かった…途中から見える景色がまるであのころのように鮮明に記憶と重なっていくが…あの時、ビジネスバイクを止めた空き地に車を駐車し獣道に踏み込んでいった。
藪を漕ぎ、草を踏み谷を渡ると…窓が割れ年月が重なったがあの時と同じ駅舎が目に飛び込んできた。
駅舎の埃の積もった座板の割れたベンチを軽く拭き持ってきた携帯コンロでお湯を沸かしコーヒーであごを温めていると、高校生ぐらいの少女がドアを開けて入ってきた。
その瞬間雷に打たれたかのように電気が走った。そう、あの時の少女が目の前にいるのだ。あの少女の娘だろうか?
「やっと会えた、もうどこにも行ってはだめだよ?」
少女の口からそう聞こえると・・・私は意識を徐々に失っていく。